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「算数」と「数学」その2

 さっそくですが2013年度武蔵中の問題を載せて解説をします。

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(1)

つりあった時使うおもりの数を奇数と仮定します。奇数個のおもりを2つの皿にのせるとき、必ず片方は偶数でもう片方は奇数になります。一方、2回目以降の操作で使うおもりは必ず奇数gになっていますから、偶数個のせた方の皿は合計も偶数g、奇数個のせた方の皿は合計が奇数gとなってこれらは必ず一致しないためつり合いません。奇数個でもつり合う!と仮定して考えた結果絶対につり合わなくなってしまいました。何がいけないかというと、仮定が間違っていたのです。よって使うおもりの個数は必ず偶数であると言えます。

(2)

3回目に8個使ってつり合うと仮定します。この8個(17g~43g)の和は270gなのでつり合うには片方の皿には135gのっています。片方の皿に奇数gのっているということは、おもりの個数も奇数個です。8個を奇数の和に分解すると、①1+7もしくは②3+5のどちらかになります。①のとき、1個の方には最大でも47gしかおけないので135gより小さくなります。②のとき、3個の方に最大で131g(41+43+47)しかおけないのでやはり135gより小さくなります。8個使ってつり合う!と仮定して考えた結果絶対につり合わなくなりました。やはりこれも仮定が間違っていたのです。よって3回目は8個ではないと分かります。

(3)3回目に使うのが10個と提示してその具体例表記(4)4回目の具体例もあるのですがこれは手を動かしましょう。

いやこれ、難しすぎる。「説明しなさい」とか書いてあるけどもうやってること証明しなさいと同じだし、その方法がほぼ背理法だし…。(意図的にそう書いたので解説読みながら気が付いた人もいると思います。)背理法は結論が間違っていると仮定して進めた議論のうちに前提条件と矛盾するところが出てくることを述べて、仮定が間違っていた。つまり結論は正しい。という証明方法です。もっと驚くことはこの説明をほぼ完ぺきに受験会場でこなした6年生がこの世に存在することですね。代々武蔵は自校で過去問とその解答を作成、販売しているのですが、その解答の中には「受験生答案より」みたいなものが散見されて才能の差を感じます…。

 さて、このような数学での証明ですが、最初に触れるのは中学生の数学で三角形の合同を示すときかなと思います。3辺が等しい、2辺とその間の角が等しい、2角とその間の辺が等しい、の3つの条件のどれかを使って2つの三角形が合同であることを証明するのに苦戦している生徒をよく見ます。(@両親の塾)この証明の話に入る前に、カリキュラム的にはひたすら「仮定」と「結論」を列挙する過程があります。なんの意味があんねんと思っていましたが案外大切だな、と最近思います。上にあげた問題では「3回目以降の操作で天びんがつり合っている」が「仮定」で、「おもりの数が偶数である」が「結論」です。(解説のところで使った背理法の仮定とは意味が違うので注意してください。)

 高校にも入ってもやはり数学で証明はあります。先ほど使った背理法による証明も高校生くらいでようやくまともに使い始めます。そして中学生のときの「仮定」と「結論」の部分もより詳しく、集合と論理という単元で扱います。

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こんな図見たことありますかね。「⇒」の記号の左側が中学生での「仮定」、右側が「結論」になります。画像のpとかqとかその上に棒がついている(pに棒がついていたら「pではない」を表します)ところに「仮定」や「結論」の文章を入れて、「⇒」をならばと読んでいきます。この「仮定」と「結論」の組によって得られた新たな文章が正しいかどうかを考えていきます。

 「pならばq」が真であるとき、「pはqの十分条件である」といい、「qはpの必要条件である」といいます。また、「pならばq」が真で「qならばp」が真であるとき「pとqは同値である」や「pはqの(qはpの)必要十分条件である」といい、pとqが全く同じことを指していることを述べています。一方「pならばq」が真で「qならばp」が偽であるとき、「pはqの十分条件であるが必要条件でない」、「qはpの必要条件であるが十分条件でない」といいます。こんな風に中学生で考えていた「仮定」と「結論」を入れ替えたときどうなるかまで考えていくようになります。(中学生のうちは十分性だけを考えていた、ということも出来ます。)

 そしてここでもう一つ大切なのは、先の画像の「対偶」で結ばれた青枠同士赤枠同士の真偽が一致するということです。「pならばq」と「qでないならばpでない」の真偽は一致します。詳しい説明はどこかで学んでください…。

 ここでまた中学入試から1問。理科ですがもはや数学です。

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 この問題見た時感動しました。いやほんとに。先ほどの画像のpとかqに当てはまる文章を考えてみます。

p:ある固体を塩酸にいれて水素が生じる

q:ある固体は亜鉛である

とすると、(ア)は「pならばq」、(イ)は「pでないならばqでない」、(ウ)は「qならばp」、(エ)は「qでないならばpでない」、の4つになっています。対偶の関係になっているのは(ア)と(エ)、(イ)と(ウ)です。つまり答えはどう頑張ってもこのペア以外にありません。多少知識があれば(ウ)が正しいことが分かります。なので答えは(イ)と(ウ)になります。もちろん小学生がこんなこと知っているわけありませんし、知らなくてもよく読めば解けます。

 中学入試の問題の中にもこのようにその先の数学の世界へとつながる入り口となっているような問題があります。そしてこの論理の世界は文系だから数学やらないし…とはできない世界です。法律の条文を読もうとしたとき何が仮定になっているか、それをきちんと満たしているかは重要ですし、「論理学」の専攻は多く文学部にあったりします。経済学部が文系なのは日本くらいのもので、かなり詳しく数学をやる場合が多いです。(僕も未だに数学やってます…。)日常生活で安易に対偶を考えると適当なインチキ発言に出くわすのでそうしたことから身を守る意味でも大切です。

 この先どのような道であれついてまわる論理の話だからこそ、そしてきちんと考えれば小学生でも解けるからこそ、ちょっと早い段階で問うてみているのだと思います。とりあげた2題こそまさしく「論理的思考」を求められた問題と言えるかもしれません。

 

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