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「育てる」ではなく、「ふるいにかける」指導

筆者は、アメリカのコミュニティカレッジで野球部のコーチをしていました。

以前の記事でも紹介したようにアメリカでは8月から新学期が始まります。12月までは練習、紅白戦、練習試合がメインで、翌年2月からのリーグ戦に向けてメンバーを絞ります。

(詳細は以下の記事を参照↓)

8月から12月まで練習、紅白戦、練習試合などを経て、監督との個人面談でロースター(リーグ戦メンバー)に入れるか、そうでないか(レッドシャツ)が発表されます。(あくまで筆者が所属したチームの場合)

選手にとっては、今後を左右する大切な面談で、この面談でロースター入りがかなわないとわかった選手は野球部を辞めるという選択をする場合もあります。

カット

また、強豪4年制大学では「カット」と呼ばれ、戦力外通告を言い渡される場合もります。ここで学生コーチやマネージャーを打診されるケースもあれば、大学自体を辞めて出場機会を求めて他の大学へ移る選手もいます。実際に筆者のいた大学にも4年制大学でカットされて、移ってきた選手がいました。2名見てきましたが、やはり4年制大学で勝負しようと思うだけあり、バッティングは素晴らしかったです。ただ、守備が平均以下でカットされる理由がわかりました。

1、2年生でもカットされることもあり、「守備力を育てる」という感覚よりも「ふるいにかけていく」感覚なのだと思います。

ロースターとレッドシャツの差

話を筆者のいたコミュニティカレッジに戻します。
面談後、年明け以降はロースターとレッドシャツにわかれて練習することになります。

ロースターは少ないメンバーでリーグ戦へ向けて実践練習や細かいプレーを中心に練習します。

一方、レッドシャツも練習はありますが筆者の所属していたチームではまあ雑な扱いでした。笑 練習は週に2回あれば良い方で、しかもその練習もホームグラウンドでロースターの試合が組まれているなどすれば中止になります。練習は1時間から1時間半ほどで終わります。その練習の様子を見て辞めていく選手、練習に来なくなる選手もいました。
監督らの姿や言動から「君たちは理由があってここ(レッドシャツ)にいるんだ。悔しかったら這い上がってきなさい。」というメッセージを感じました。

総合的に考えれば、レッドシャツを育成することにも注力した方がいいと筆者は考えました。筆者が所属していたコミュニティカレッジは2年制大学でレッドシャツの大半は1年生でした。次の年にロースターに入って活躍できそうな選手もいました。なので「もう少しレッドシャツのメンバーにもしっかり指導してはどうか。監督がロースターメンバーにつきっきりであれば、俺がロースターの選手たちを指導する。」と監督に伝えました。

監督は「それは結構だ。しかし、君はロースターメンバーを指導して、リーグ戦の勝利に貢献したくないのか?まず優先順位はそこだろう。」と言われました。たしかにそうなのですが、当時のチーム状況や意思決定のプロセスを見ていて「ロースターに自分が入って指導するよりも、次の年を見据えてレッドシャツの選手たちをみたい。」という気持ちになりました。

監督には理解されなかったかもしれませんが、筆者はレッドシャツメンバーに主に帯同することにしました。

レッドシャツのメンバーは指導に飢えていました。
「君たちは今練習量も少なく、注目されることも少ないかもしれないが今基礎を固めれば来年の今頃はリーグ戦で活躍できる可能性がある。腐らずに一緒にがんばろう。」筆者はミーティングでそう伝えました。その時の選手たちの真剣な目つきは今でも脳裏に焼き付いています。

それからは毎日選手たちと対話しながらひたすら基礎練習を繰り返しました。練習のない日でも「ノックを打ってくれないか」と連絡をもらい、一緒に練習することもありました。選手たちはリーグ戦で活躍することを夢見て、大学に入ってきたわけです。しっかり対話をしながら関わっていけば、選手たちの取り組みは変わります。

まとめ


筆者としては、「いわゆるふるいにかける指導」も理解できます。
完全な実力主義で、悔しかったら這い上がってこい、というスタイルです。
チームとして上を目指す以上は割り切ってやっていくことも理解できます。

しかし、未来あるレッドシャツの選手たちを育成していくのも大切な指導者の仕事です。そのに時間をかけていくことが将来のチームを作っていくことにつながります。

学生野球が職業野球ではなく、教育目的である以上、レッドシャツの選手たちも育成していくことが必要だと筆者は考えています。

ただ、これからアメリカ野球留学を目指す人たちには、そういったドライな現実も知っておいてほしいと思います。アメリカの華々しい部分だけを見て、渡米し蓋を開けてみるとレッドシャツとなり練習すらままならない。そんな期待と現実のギャップに耐えられず辞めてしまうのは非常にもったいない。報道されることの少ない、厳しい現実にも目を向けたうえで挑戦してほしいと思います。

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