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ケツメイシ「海外駐在員への唄」が秀逸である理由;実際の海外駐在の経験を踏まえて

ケツメイシの「海外駐在員の唄」を聞いた。そして私は昔、駐在員として安全・安心・快適に暮らしていたインドネシアと米国での生活を思い出した。

※ 駐在員とは、日本の会社から海外現地子会社または海外支店に派遣され、およそ3ー5年の期間、海外で業務を行う方々を指す。現地の会社で採用され、現地に骨を埋める覚悟を決めた日本人の方とは異なる。

駐在員としての海外生活は、正直言って現地で骨を埋める覚悟で挑戦する日系移民や、現地採用の方々と比べ快適で安心な環境である。待遇も非常に良い。

何より、彼らは日本の会社との雇用が切れているわけではなく本社から派遣されてきた身分である。現地での仕事に失敗したとしても、日本に帰る場所がある。例えて言えば、命綱がつながった状態のまま安心して海外で暮らしている。

待遇も非常に良い。現地での家賃はほぼ会社が負担し、新興国に行けば通勤用の社用車も手配してくれて、高級アパートで暮らすことができる。給与も海外赴任手当や危険地手当、単身赴任手当等が積み上がり、日本で生活していた頃とは実質数倍に所得が跳ね上がる。自費で海外に渡った日本人の方々とはこの点、大きな待遇の差がある。

よく、虎ノ門や六本木の高層マンションを見て「こんなところに誰が住むんだ」と思う方がいるかと思う。そこに住んでいるのは、全額家賃会社負担で海外から日本に派遣されてきた駐在員であるケースをよく見かける。それと同じことを海外で行えるのが(特に新興国で)海外駐在員である(ただし、米国やロンドンは家賃が高くなりすぎて、もはやこうした優雅な駐在員生活はできないと聞く)。

語学ができなくともそこまで問題にならない。駐在員はおおむね現地企業の管理職として派遣され、日本の本社とのレポーティングや現地採用の社員の方々(ナショナルスタッフやローカルスタッフと呼ぶ)の管理がメインとなるため、現地でのオペレーションは現地の社員の方々が担っている場合が多い。

また、仮に海外日本法人を担当する海外駐在員となれば、営業先の相手は日本人となるため、英語は身につける必要もないから身につかない(ただし、こうした駐在員は現地のスタッフからは裏で非常に煙たがられ、いつも噂の対象になっている)。

こうした日系企業担当は海外で何をしているのか。だいたいどこの国も日系駐在員コミュニティのようなものが出来上がっており、そのコミュニティの中にはいって、土日のゴルフの夜の接待に勤しむのである。海外駐在の日系コミュニティは狭い狭い村社会であり、日本で仕事する以上に狭い共同体の中でうまく立ち振る舞う余儀なくされる。一般的に想像される海外業務とはかけはなれた内容であるものの、向き不向きが顕著にでるため、向いていない人には大変な業務ではある。

また、駐在員は日本の本社から距離・時差が離れていることもあり、基本的に伸び伸びと業務に集中することができる。本社に対しては如何に現地での生活と業務が大変か、といったことを説明している一方、ちゃっかり現地妻を作っていたりする(特に新興国で)。また、日系他社の駐在員と夜のいかがわしいお店に行き、ちゃっかり会社の接待交際費でいかがわしいことを楽しんでいたりする(その類のお店が好きな駐在員の方に教えてもらったのだが、会社経費で落とす場合、お店からもらう領収書には『赤ワイン』と書いてもらうらしい。確かに高級赤ワインであれば、請求が高価になったとしてもある程度納得感はある)。

以上が、かなりバイアスと皮肉が込めた上での、海外駐在員の生活である。

こんな海外駐在員に対し、ケツメイシは何を伝えたかったのか。それは、「負けるな 怠けるな」の部分だろう。

負けるな、とは海外駐在での仕事や生活に対してではなく、自分に対してである。高級アパートに住み、自家用車もあてがわれ、現地ではセレブな生活をしてあたかも自分に能力がある、と錯覚してしまう境遇に対し、負けるなと言っているのだ。

周りに日系駐在員がいても、群れることなく業務に集中し、自分に負けるな・怠けるな、と言っているのだ。

歌詞をよく見てみると、ケツメイシは「駐在員の生活と仕事は大変だろうけれど、がんばれ」とは一言も歌っていない。むしろ「駐在員生活でたるむことなく、自分自身に負けるな」と言っているように聞こえる。このあたり、ケツメイシも海外駐在員の実態を把握した上で、幅広い解釈が可能な歌詞を作ったのだろうか。微妙なさじ加減が秀逸な歌である。




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