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2025年に向けて日本のVC業界で起きそうなこと

2025年は人口動態の観点(超高齢化社会に突入)、大企業におけるIT投資の観点(IT老朽化が進捗する)で課題が顕在化しそうな年だと言われているが、2025年はVC業界においても少しばかり課題が出てきそうな兆しが見えつつある

半年以上前の話になってしまうが、一般社団法人日本ベンチャーキャピタル協会とPE関連データベース企業Preqinとの共作レポート「国内VCパフォーマンスベンチマーク(第4回)」が公表された。これはPreqinが、これまで欧米におけるPEのファンドパフォーマンスを集計・公表してきたノウハウを活かし、日本のベンチャーキャピタル市場のファンドパフォーマンスを公表しようという試みである。国内VCのファンドパフォーマンスをが集計・分析された試みは他の調査ではないとの認識であり大変貴重な情報が得られた。具体的には、
①組成年(Vintage Year)別のリターンの中央値
②組成年(Vintage Year)別のDPI、RVPI、ネットIRR、ネットマルチプルの中央値
③組成年別のファンドパフォーマンス上位のファンド一覧
などが掲載されているのだが(2021年12月末時点の数字)、個人的に特に気になったのは、2025年にファンド組成後10年目を迎え、一般的にはファンド存続期間終了となるタイミングを迎えるであろう2015年組成時のファンドのDPIである(DPI、RVPI等の指標が何を指しているのかは下記リンク先のnoteの記事がわかりやすいです)。
https://note.com/permanent_beta/n/n1b11c9a40241

なぜ気になるのかと言えば、主に以下の理由である。もちろん、この数値は中央値であって全てのVCに当てはまるものではないこと、また集計元となるファンド数もN=17と少なく、この表の数値が実態を表しているものとは言えないこと、といった反論があることは十分に承知しているが、ここではひとまず、仮にこのデータが市場動向を正しく反映しているとの前提に立った場合の懸念点を下記に記しておきたい。



・ファンド組成からもうすぐ10年を迎える状況であるにもかかわらず、2015年組成ファンドのDPI中央値は17.7%と、まだまだLP投資家への出資金分配が進んでいないこと(※)
・これから本格的にExitをしていかなければならない中、IPOやM&A市場環境の見通しは不透明であり、雲行きが怪しいこと
※ ちなみに、2015年のグローバルで見たVCのDPIは、同じくPreqinのデータベースによれば、50.4%とのこと。

VC投資は10年という長いファンド存続期間にどれだけ大きなリターンを出せるか、という点でロングショットであることは理解するものの、2015年組成のファンドについては残りの存続期間があと2年程度と迫ってきている中、未実現利益がベースとなっているRVPIだけではなく、実際に投資家への分配の進捗度合いを計測するDPIに重きを置いてそのパフォーマンスの評価にそろそろにシフトしたいところである。DPI17.7%とは、非常に簡単に言えば、とあるVCに10億円LP出資を行なった場合、現時点でキャッシュとして返還さされている資金が17.7百万円である、ということ。キャリー(成功報酬)の分配はおろかLPに対する出資金の返還すら進捗していないということになる。

さて、リスクシナリオとして、このまま足元のようなIPO市況低迷等が継続してしまい、Exitがうまく進まないまま2025年を迎えることになった場合、LP投資家として取るべき策は主に以下が考えられる。
①GPからのファンド存続期間延長の要請があった場合、存続期間延長を承認の上LP持分保有を継続、延長期間中の投資資金回収を見込む
自身のLP持分を第三者に譲渡し、Exitする

①の期間延長に応じる場合、投資先VCの個別事情によりもちろん検討すべき事項は異なってくるとは思うが、主には下記の点については投資先ファンドのGPとも交渉の上、延長応諾可否の検討を行いたいところ(「当初のLP出資意義・目的と照らし合わせた現在の達成状況」という検討事項はいわば当然のことなのでここでは割愛する)。
・期間延長後のマネフィー水準をどのように設定するか:基本的には、投資期間終了まではコミット総額×一定料率(年間2.0% - 3.5%が相場と思われる)がフィーとしてファンドGPが受け取り、その後投資期間終了後は、投資残高×一定料率になる、というのが通常のマネフィーの条件と思われる。その後のファンド存続期間延長後については、基本的には投資残高や投資件数もほとんど残っていない筈であり、ファンドGPにおける投資回収にかかる労力やコストはすでにその残高や件数に応じて減っている筈であり、それに見合ったマネフィー水準に引き下げるべき、というのがLP投資家としては筋の通った考え方となるだろう。とは言っても、無理にマネフィー引き下げを行った結果、ファンドGPの回収に向けたインセンティブも下げてしまい結果としていつまでも投資回収が進まずファンド投資からもExit出来ず、といった状況は避けたいところでもある。以下、マネフィー引き下げ交渉がうまくいきそうなケース・難航しそうなケースについて記載しておく。
<GPがマネフィー免除または引き下げに応じてくれそうなケース>
・ファンドパフォーマンスが良好で、残存投資先における大型Exitが見込まれ、残りの期間で多額のキャピタルゲインの発生が見込める場合、GPは存続期間延長後のマネフィーの免除や引き下げに応じるかも知れない。ファンドGPの運営費しか賄えない程度のマネフィーを定額でもらうよりも、キャリーとして入ってくる多額のキャピタルゲインをインセンティブに活動を継続してくれるかも知れないからだ。
・ファンドパフォーマンスが低調であったとしても、後続のファンドが組成されているようであれば、マネフィー免除や引き下げに応じてくれるかも知れない。後続ファンドから入るマネフィーで、GPの運営費は既に賄えていることが想定されるからだ。
<GPとのマネフィー免除または引き下げ交渉が難航しそうなケース>
ファンドパフォーマンスが低調で、残存投資先のExit時にもキャピタルゲインがそれほど見込めずキャリーも発生せず、かつ後続ファンドも立ち上がっていない場合。GPからすれば、既にキャリーが発生しないとわかっている中、主な収入源はマネフィーのみとなるのにそのマネフィーさえも削られてしまう場合、ほぼタダ働きで投資回収をせざるを得なくなる。
ファンドGPの投資回収の最大化に向けたインセンティブをできるだけ保つ形でフィー設定は行いたいが、その適切な水準はファンドの状況によって異なってくるだろう。
・IPOやM&A市況を踏まえどのようなExitプランを展望しているか:特に
・何年延長するか:リミテッドパートナーシップ契約書上、「最大2年の延長・延長は1回まで」といった条件が記載されており、また「延長はリミテッドパートナーから構成されるアドバイザリーメンバーのうち、●分の1以上を要する」といった条件が付与されていることもあるので、認識しておきたい。

②のLP持分売却については、そもそもリミテッドパートナーシップ契約書上、それが許容されているかを確認の上、そもそも譲渡先が見つかるかどうかの探索を始めたい。欧米だとLP持分売買の仲介を行うセカンダリー市場特化の証券会社が存在しているが、日本だとそうしたプレイヤーの存在もあまり聞いたことがないため、譲渡候補先は自分で見つけてくる必要性がある。

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