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ベンチャーディールズ(3) ベンチャーキャピタルのメカニズム -Venture Deals / How VC works-

以下、米国VC・Foundry GroupのBrad FeldやJason Medelsonが毎年2回提供しているオンラインコース(無料)、Venture Dealsの講義内容が素晴らしかったのでまとめてみました。

今回は「How VC works」のセッションを和訳してみました(和訳することについてはBrad Feld氏と直接コンタクトし、許可を得ております)。他のセッションも順次アップしていく予定です。是非ご一読下さい。

なお、Venture Dealsについては、書籍にて出版されており、ベンチャーキャピタルを理解する上でとても勉強になる、シリコンバレーVCにとっての古典的名著です。是非ご一読ください。

(以下、講義和訳)

(クリント)ベンチャーキャピタルのビジネスとはどのように成り立っているのでしょう?

(ブラッド)非常にシンプルです。投資家から預かったお金を運用し、増やして返すことで成り立っています。ベンチャーキャピタルファーム及びキャピタリスト個人がお金を稼ぐ方法はいくつかあります。 

1.VCが収受するフィーの種類

1つ目はマネジメントフィー(管理手数料)です。通常、ベンチャーキャピタルは、運用資産残高(AUM)に応じたマネジメントフィーを投資家から毎年もらいます。一般的なマネジメントフィーの水準は年率約2%近辺ですが、それはファンドにより異なります。

マネジメントフィーは、ファンド組成から最初の数年間 - 5年間の期間、ファンド金額に一定の料率(2%程度)をかけた金額になります。
その後は通常、取得原価の残価×一定料率との計算を元にフィーが算出され、投資家からVCに対し支払いがなされます。

このマネジメントフィーとは何なのか、少し複雑に思うかも知れませんが、これはベンチャーキャピタルの社員給与、オフィススペース、およびその他諸々の会社運営費用に充当されます。残りの資金は投資に回されます。

一般的に、マネジメントフィーの水準はファンド金額の15%付近になる傾向があります。例えば、VCが1億ドルのファンドを組成した場合、そのうち15%の15百万ドルがマネジメントフィーとしてVCに入る手数料になります。まずこれが一つ目です。

2つ目は「成功報酬(Carried Interest)」または「キャリー」です。まず、投下資本の元本100%を投資家に変換した後、残余利益の20%が私たちVCに、80%を投資家に分配されます。例えば1億ドルのファンドが資金を運用した結果、1.5億ドルまで増えた場合、まずLP投資家には1億ドルを返還し、残りの0.5億ドルについてはその20%の1千万ドルをVCが成功報酬として収受、残り80%の4千万ドルをLP投資家に分配します。

細かくいうと、元本部分の資金はGPとLP、つまりVCとLPの間で分割されることにも留意しておいてください。GPが 1%、LPが99%を拠出している場合、1億ドルの投資額はGP(VC)に、99億ドルはLP投資家に分配されます(上述の例だと、1百万ドルはGPに、99百万ドルはLP投資家に分配)。

LP及びGPは、投資されたお金のリターンから戻ってくる最初の1億ドルで99対1の利益を得ます。それ以上稼いだ利益部分については、80/20で分配されます。 それが2番目の方法です。

3番目の方法は、ベンチャー企業が彼らのポートフォリオ企業に払い戻すために負担する費用の一部(その他雑収入)です。旅行、ホテル、および会社の直接費用であるさまざまな種類の物。これらは払い戻し可能な費用です。これらは、物事の壮大な計画において比較的少数になる傾向があります。あなたが起業家である場合、期待することの1つは、VCが役員会などのためにオフィスに来るために発生するVCの費用をいくらか支払うことになるためです。

 マネジメントフィーの話に戻りましょう。私たちは1億ドルを資金調達しました。この場合、10年または12年のファンドの存続期間にわたって、1500万ドルの手数料がかかります。その85%の8,500万ドルを用いて、VCは企業に投資をしていきます。もしあなたが私たちのLP投資家の一人であり、あなたは私たちに1ドル出資した場合、そのうち私は投資に回すのは85セントになるのです。

2. リサイクルの概念

投資先から回収した資金はリサイクルし、再投資に回すことができます。投資先で売却によりExitが発生し2,000万ドルの利益を得た場合、VCは1,500万ドルを再投資することで、トータル1億ドルを投資に回すことができます。リサイクルによ利、実際に投資家から集めて資金全てを投資に充当することができます。一部のベンチャー企業はリサイクルしません。彼らは投資された8,500万ドルに基づいてアップサイドを狙います。私とジェイソンが運営するVC、Foundry Groupでは最大115%リサイクルします。これは、LP投資家が仮に1ドルを出資した場合、1.15ドルが投資に回されるということです。その$ 1.15から、あなたに戻る最初の1ドルが99/1に分割されます。残余利益は80/20に分割されます。

VCがなぜキャピタルゲインを即座にLP投資家に還元せず、再投資に回したいか、と言われれば、投下資本が多いほど、リターンが出る確率は高くなるだろうと考えているからです。実際に1ドルを投資することで、0.85セントしか投資しない場合よりも、大きな成果が得られる可能性は高くなります。

VCにとっての本質的な利益とは、投資で得られたアップサイドリターン(成功報酬の分け前)です。資金を拠出してくれたLP投資家にもお金を増やして返した上で、自分たちも報酬を受け取る、という利益の収受方法です。一方で、ファンド組成規模がどんどん大きっている理由の一つは、ファンド規模が大きくなれば手数料実額がどんどん大きくなる、ということがあります(※ファンド規模1億ドルでマネジメントフィー2%の場合、2百万ドルを収受。一方10億ドルのファンド組成に成功し、でフィー料率を維持した場合、20百万ドル得られる。ちなみにシリコンバレーでは10億ドルクラスのファンドも結構存在しています)。

成功報酬なんて見たことがない、というベンチャーキャピタリストはたくさんいます。成功報酬のようなような莫大なリターンを享受したことは一度もないが、マネジメントフィーを原資として、健全な給与を受け取っていますキャピタリストはたくさんいます。

私たちがVCを立ち上げた時、私たちはマネジメントフィーで稼ぐのではなく、アップサイド利益を稼ぐことに重点を置きました。それこそがVCとしての本来的な利益の享受方法であり、私たちに投資してくれているLP投資家と、利害関係をアラインさせる方法だと考えているからです

3. VCのパートナー報酬について

(クリント)VCには全く異なるお金の稼ぎ方があって、それがVC及びベンチャーキャピタリスト個人に対するインセンティブや動機付けを行うということはわかったけど、これらは起業家にとって重要ですか?

(ブラッド)とても重要です。VCがどのような報酬体系を導入しているかという詳細設計は各社により異なります。私とジェイソンの所属するFoundry Groupでは、リターンは4人のパートナー全員に等しく分配されます。ジェイソンが投資先を見つけて取締役に就任しようが、私が投資先を見つけて取締役に就任しようが、セスが同様のことをしようが関係ありません。私たち4人の間では、利益は何でも等しく共有されています。

パートナー毎の報酬体系が異なるVCもあります。ベンチャーキャピタリスト個人の投資のパフォーマンスに基づいて報酬を受けるか、会社の在職期間または年功序列に基づいて異なる度合い報酬を得る、といったけーすがあります。

入社したての新参キャピタリストは、長期間VCに勤務していて実績も残している古参のキャピタリストとは異なる振る舞いをする可能性があります。すでに大きな実績を残しているキャピタリストはそのVCの中において投資の意思決定を下す自由度が高いかもしれません。彼らはまだお手並拝見ムードの新参パートナーと比べれば、共同投資または追加投資の決定を容易に下せるかもしれません。

(クリント)聴講者で何か質問のある人は?

(聴講者)VCの中には全くお金を稼いでいないか(リターンを全く出していないか)、もしくは非常に小さい金額しか稼いでいないものがあると言っていましたが、それについてもう少し詳しく話してもらえますか?

(ブラッド)VCのパフォーマンスには、多くのノイズがあり、定点観測ではなく時系列を追って観測しなければ実際のパフォーマンスは測定できません。スタートアップに投資する場合、5年から10年の間は実現益を期待することはできないため、特定の瞬間の測定値は大雑把であることが多く、5−10年の単位で見た場合のパフォーマンスとは数字が異なるケースは多いです。

さらに、ベンチャーキャピタル業界には、レイク・ウォビゴン効果(「自分は他人と比べると平均以上である」と自己評価を過大にしてしまう認知バイアスのこと)が確かにあります。誰もが平均を上回っているわけではありませんが、誰もが上位4分の1に以内にいると謳います。VCは測定値を常に調整し、ファンドパフォーマンスが他のほとんどの人と同じかそれ以上であることを実証しようとしますが、その方法はもちろん論理的なものではありません。最後に、実績データはかなり不透明です。(LP投資家の一つである)公的年金基金向けのために公表されたデータは一部あるものの、大半のデータが非公開であるか、実績全体を公開したデータはありません。

とはいえ、投下資本を返さない(返せない)ファンドが存在していることは間違いありません。例えばインターネットバブル勃興期の1999年または2000年に組成され、ほぼ同時期にスタートアップ投資を始めたファンドのほとんどは元本割れです。バブル絶頂期の2001年、2002年、または2003年に組成し、同時期に投資を開始した多くのファンドも同様、失敗に終わりました。

それらのファンドの多くは元本を返さなかっただけでなく、1ドルで0.30〜50セント(投資倍率でいうと0.3 - 0.5倍)、さらには0.10セント(投資倍率0.1倍)しか返さなかったのです。 1億ドルのファンドは投資家に1000万ドルしか返還しなかったと言うことです。その一方、マネジメントフィーは徴収されたと思われますが、LP投資家・VC共にアップサイドの享受を得ることはできませんでした。

ファンドが失敗に終わった場合、VCにとってどのような影響があるのでしょう?失敗したのが1つのファンドだけであれば、もしかしたら言い逃れができるかも知れません。複数のファンドが失敗に終わった場合、LPは次のファンドに資金を提供しないでしょう。実績を残せなければ既存の投資家や新しい投資家から資金提供を受けることはできず、VCは閉鎖されます。過去6・7年間、こうした実例を多く見てきました。

4. ファンドの実績の確認方法

(質問者)ファンドの実績を判断するための最も良い方法は何ですか?

(ブラッド)1つは、個々のパートナーの経歴・実績と在職期間を調べることです。いくつかのVCでは組織に大きな変化が起きていたり、パートナーの世代交代が過去起きているケースもあります。

「最後にファンド資金を調達したのはいつですか?」と、VCに尋ねてみるのも良い方法です。聞いても明確に答えてくれずに理解できないかも知れませんが、少なくとも過去5年間、一度も資金調達していないようであればそのファンドの活動は新規投資に積極的ではなくなっている可能性があります。

ほとんどのVCは、3〜5年ごとに新しい資金を調達し、ファンドを組成しています。もし過去7年、一度も資金を調達していないVCがあったとすれば、おそらく新しいファンドの組成がうまく行っていないと言うことだと思います。

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