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何者にもなれないなら、せめてと何かを背負った男の話(「サイバーパンク:エッジランナーズ」感想)

サイバーパンク:エッジランナーズ、見た?見てない?ネトフリに入ってるから見て。すぐに。now。30分10話構成、300分、つまりは5時間で見れるから見て。

見た?

これ自分の2024年ベストアニメトップ3は余裕で入るんやけど、どう思う?2022年配信なのは置いといて。

見てないなら見てください。見た人に(あ〜、理解る…)を感じてもらうために書いてるんで。途中まであらすじとかぼかした感想を書くので気になったら見ちゃってください。見た人はコメントください。

これ見終えたのが数日前。それからずっっっと「I Really Want to Stay At Your House」を聴き続けてる。きっと分かってくれるはず。

私ね、ボーイミーツガールものが大好きなんですよ。それも、本気で相手の願うことを盲信してひたむきに頑張る男が大好きなんです。

どうして2話の途中で切ってたんだ2年前の自分よ。むしろ2話の終わりから爆発的に物語は加速していくじゃないか。

どんなテーマかをざっくりまとめるとこうなる。
・ヒトの肉体を超えたボーイミーツガール
・少年の自己破壊と自己実現のシャトルラン
・何者にもなれない世界でミクロに派手に、マクロに無風なレジスタンス

舞台は2070年代の近未来、人間はインプラントと呼ばれる肉体改造が可能になり、機械人間(サイボーグ)のような姿になることに抵抗のない社会へと変貌している。

世界の舞台の名前はナイトシティ。朝ごはんを食べるよりも鉛玉を食らう方が多いくらいの街で、そこら中で暴力とささやかな知性がある街。そして、持つ者と持たざるモノの格差溢れる街。

そこに住むデイヴィッド・マルチネスは街を支配していると言っても過言ではない軍事企業アラサカの運営する私立高校に通う男の子。家は貧しく、洗濯を回すカネにも困る家庭の子。母親が朝から晩まで息子にエリートの道を歩かせるために働き詰めるのを尻目に、漠然とその道を進むことにズレを感じる毎日を送っている。いや、送っていた。

とあるきっかけから、偶然手に入れたサンデヴィスタンという軍事インプラントが、彼の世界を変え続ける。

このサンデヴィスタン、何が凄いって「自分が周りの人たちの意識外レベルまで加速できる」機能があった。仮面ライダーカブトのクロックアップみたいなそれをイメージすれば分かりやすいだろうか。X-MENのクイックシルバーとかDCのフラッシュみたいなものかもしれない。

自分の理解できない速度で回る世界に生きていた彼は、突如として自分以外を全て置いてけぼりにすることができるようになる。誰よりも速く、疾く、自分すらも置き去りにするほどの力を手にしたマルティネス。

そんな彼と偶然出会ったのは、ナイトシティで人のチップを盗んでいたネットランナー(ハッカー)のルーシー。

ルーシーの見せた「彼女の夢」を、彼は叶えようとする。頼まれたわけでもないのに、理解できたわけでもないのに。

それからデイヴィッドはルーシーが所属する、自分のギリギリを攻める傭兵稼業チーム、限界の際を攻めるエッジランナーズのもとで戦いや任務に身を投じていく。

人の夢を背負いながら、容量不足になれば自分自身の何かを削る。何者かになろうと足掻きながら自己を喪失していくデイヴィッドのエッジに向かう生き様はあまりにも速く、火花が散ったことを感じるまでもなく見逃されていく。

気になったなら見てみてください。

でだ。見終わった人に向けた感想を書き続けていくんですけどね、なんっっこの作品!?

完成しすぎてるのよ。なのに空虚なの。何これ、怖いって。

ただ語り継がれる伝説になった「だけ」としかこっちは思えないのに、あの世界の人たちは伝説を讃えながら、またいつも通りの彼を知ってる人たちにとっても彼がいないだけの毎日が続くんですよ。

彼は何がしたかったのか。分不相応で過剰なインプラントだらけの肉体。足りないものは自分を慈しむ魂。ただ誰かにとっての「何か」になることを求めて誰も見えない速さで駆け抜けた男よ、デイヴィッド、お前がなりたいものにはなれたのか?なれたんだよな。知ってる。

数多の死を乗り越えたと思い込み、誰かの命を、誰かにとっての誰かの命を奪い、何回命に触れたかも分からなくなりながらも、誰かにとっての「自分」を遺せた男の顔をしながら街に殺されたお前のことを、一体誰が否定するというのか。

それでも、唯一そう在ることを望まなかったルーシーのことを、お前は考えたことがあったのか?考えたよな。考え尽くしたよな。だからお前は崇高で、そして狡い男だ。

「ルーシーを月に連れていく」という目標と勝手に背負った夢。お前に足りなかったのは、「ルーシーと月に行く」ことだったかもしれないし、「月に行きたがった彼女を肯定する」ことだったかもしれない。

多分、ルーシーは月には行きたかったけど、人生を懸けて行きたかったわけではないと思うんだけど、どう思う?ルーシー。そこから見えた地球は綺麗だった?

最後の最後、ルーシーが月に立った瞬間の幻影は、過剰積載の武器人間と化したデイヴィッドではなく、ただ誰よりも速かっただけのデイヴィッドだった。どうすれば良かったんだろうね。それを案ずるような人たちは、あの街にはいないんだけど。

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