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トイガンと法律 その1「トイガンと銃刀法」

 いつの時代にも、トイガン(モデルガンやエアガンなど銃の形をした玩具や模型)は人気があり、日本では1960年代から盛んにファンを増やしてきました。

 本物の拳銃やライフルは、もちろん、相手を殺傷するという目的から発明されたものであり、模型といえど、そのモデルとなっている実物を考えると、穏やかではありません。
 1960年代から、1970年代にかけて、本物そっくりのモデルガンの使用による犯罪が幾度となく繰り返され、社会不安を作ってきたことも、否めない事実なのです。

 その都度、トイガンを開発製造していたメーカーによって、犯罪に使用されないように改善が試みられてきましたが、とうとう1971年と1977年の2回にわたって銃刀法が改正されて、トイガン、とりわけモデルガンが法規制されるに至りました。
 ホビーとしてのトイガンの世界はこのように法律によって厳しく制限を受けているホビーなのです。
 今回から4回に渡り、トイガンと法律についてのお話しを少し書いてみたいと思います。

 トイガンの取り締まりの要となるのが銃砲刀剣類所持等取締法(銃刀法)で、トイガンに関する規制は第四章の雑則とされる第二十一条の三(準空気銃所持の禁止)、第二十二条の二(模造けん銃所持の禁止、第二十二条の三(模造けん銃の所持の禁止)の三つです。

 銃刀法が他の刑法と違って特殊である点は、この法律の第一条の条文からわかります。

第一条 この法律は、銃砲、刀剣類等の所持、使用等に関する危害予防上必要な規制について定めるものとする。

 これは「所持、使用等に関する危害予防上」を目的としているのです。
つまり、他の刑法では、犯罪が行われて初めて刑罰に関わる問題になるのですが、銃刀法では「他者に危害を加える恐れがある」ことを取り締まれることになっているわけです。

 簡単に言うと、泥棒をすれば窃盗罪になるわけですが、泥棒をするための準備をして、ガラスカッターや頰被り(笑)を準備したとしても泥棒をしていないので罪にはならないのです。
 しかし、銃刀法では誰かに危害を加えることができるだろうという想定のもとに取り締まりが可能になっている法律なのです。

 近年、制定された共謀罪法を除けば、このような法律は他にありません。

 例えば、銃刀法で刃渡り6センチを超える刃物の携帯所持は禁止されています。
 もしも、カッターナイフを車のダッシュボードに入れてあったり、カバンの中に入れて持ち歩いているとすれば、誰かに危害を加えるかも知れないという想定の元に警察は携帯所持者を銃刀法第二十二条に基づいて取り締まることができるのです。
 カッターナイフを持っている人はただ便利だから車やカバンに入れていたからかも知れません。荷物のテープを切るためかも知れないし、仕事の工作に必要だったかも知れない。しかし、そのカッターナイフが誰かに危害を加えることが出来る能力を有するものであるので、その目的に使用されない場合でも第一条の「危害予防上必要な規制」として法は機能して取り締まりの対象となります。

 バレルインサート切除(※1)や、貫通シリンダー(※2)にした改造モデルガンを所持していたガンマニアの人が逮捕されたような事件の報道で「鑑賞目的のために改造した」とか「銃弾は持っていなかった」とかよく耳にしますが、こうした検挙された人はモデルガンで人を傷つけたり強盗をしたわけではないし、その準備のためでもなかったことは確かでしょう。

 しかし、それでも危害を加えられる可能性があるという理由で取り締まることができるのが銃刀法の特殊性であると考えられています。

 だから、トイガンで人や動物を傷つけたり、強盗に使う目的でなく、単に鑑賞や愉しみのためにトイガンを購入や所持する場合も「危害防止の対象」となるわけです。

 となると、トイガンを持つと言うことは、「危害防止」を目的とした法の定めによって、趣味の目的であっても「危害を加えることが出来るかも知れない」という対象物を所持していることになります。

 つまり、法による規制によって、みなさんの所持しているトイガンは存在していることになります。

 このようなホビーのアイテムは非常に稀有です。同じ玩具でも、フィギュアをコレクションしても、戦車や戦闘機の模型を所持しても、法律で規制されることはほぼ、あり得ないからです。

 そもそも、トイガンのモデルとなっている銃器が危害を加えられる、あるいはそれを目的としたものであるという前提で、しかもほぼ実物大に再現されているので、これは致し方ないものでしょう。

 トイガンの所持と使用については、まずこのような特殊な法によって規制されていることを理解しなければならないのと、その規制について正確に知っておかなければ、思わぬ事件に巻き込まれないとも限らないのです。

※1 樹脂製のモデルガンのバレル(銃身)のなかにはメーカーの自主規制によって改造防止のインサート鋼が挿入されています。これを除去しようとする行為によって銃身が筒抜けにすることは違法改造となります。(エアガン・ガスガンの筒抜け銃身は、エアガンには弾薬を発火して撃発させる装置がないので合法とされていますが、モデルガンでは違法となります)

※2 樹脂製の回転式拳銃型モデルガンのレンコン状の回転式弾倉(シリンダー)の先端部分には改造防止用の鋼材が挿入されています。これを無理やりに除去すると弾倉は貫通状態となって、違法となります。こうした違法なシリンダーのことを指します。(エアガン・ガスガンの貫通シリンダーは火薬を発火させて弾薬を撃発させる装置がないので合法とされていますが、モデルガンでは違法となります)

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