茶番と晩餐(24)

2024.8.9 7:00

   ミサイルが東京から外れて、日本は滅ばなかった。
   私は軽い脱力感を覚えながら百合さんの裸の死体の傍で目を覚ました。
「ふあーっ⋯⋯」
   雛も目を覚ましたみたいだ。
   私はスマートフォンのニュースアプリで、ロシアからの核ミサイルが東京を外したのを知った。日本は滅ばなかった。
   寝癖でボサボサの頭の雛が、私を怪訝そうに見て尋ねる。
「ミサイルはどうなったの?  」
「ああ、東京から外れて南の海に落ちたって。成層圏で燃え尽きたのもあったって」
「じゃあ、私たちは助かったんだね」
「うん」
「百合さんは?  」
「舌を噛みきって死んだ」
  雛は、私の隣の百合さんの死体にそっと手を合わせた。それからそそくさと服を着て、スマートフォンを鏡にしながらメイクを整えた。
「私、山形に帰る。日本は無事だったし、私がやりたいことはやり終えたし」
「そう。元気でね」
「うん。繭はここに留まるの?   」
「うん。もうしばらく百合さんと一緒にいる」
「そっか」
   雛は身支度を整えた。黒い半袖のワンピースを羽織った彼女は、出会った時と比べて大人に見えた。
「じゃ、繭も元気でね」
「雛もね」
   私は彼女に手を振った。彼女は少し名残惜しそうに百合さんの部屋をあとにした。

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