茶番と晩餐(35)

2024.8.10 19:00

   新宿はゴミゴミしている。トー横に来たが警察が立ちんぼと呼ばれる女性たちに声を掛けている。彼女らに声を掛けようとしていた男性たちを次々と捕まえて職務質問している。私はここで私の性欲を満たす男性に会うのはリスクが高いと感じた。Xなんかもセックス目的の出会いで使うのは警察が絡んでくるリスクはある。
   マッチングアプリでも登録するしかない。それもパパ活目的ならダメなのかもしれない。

2024.8.10 21:20

   男性用風俗に行こうとふと考えたがどこも安くはないし病気の心配もある。
  とにかく男がたくさんいる場所に行きたくなって、歌舞伎町の雑居ビルの地下一階のホストクラブ「零蝶」の黒くて重いドアを開けた。

2024.8.10 21:35

  東村へろゆきのX
「根岸もプーチャンも世界を牛耳っているバッキードの駒になって世界に捨てられたのよ日本とロシアの国民が割を食ったな次の日本の首相もバッキードの駒だよな」

2024.8.10 22:00

   零蝶のソファー席で、鏡月のボトルを空けながら死ぬほどつまらない、顔が細長くて汚いホストたちとどうでもいい話をしている。日本はある意味もう滅んでいる。何か抱きたいと思うような男性もいない。私は鏡月の安い匂いとアルコールで頭が痛い。気分も冴えない。ただもう新宿界隈の快適クラブのブースも満室だろうし、このままここでオールでいてもいいのかもしれない。
「日本って滅ばなかったですね」
   金髪で狐みたいな細面の、ヴェルサーチの黒の上下のスーツを着た拓真という名の二十代後半くらいのホストが、私のグラスに鏡月を注ぎながら喋ってくる。
「まあね、日本が滅んでも、滅ばなくても私はどうでもいいかな⋯⋯」
「俺たち、東京が核爆弾で焼かれたら、札幌か博多に移って、店を開こうかと思っていたのですよ。核爆弾が東京を破壊しても、三年くらいである程度は元通りになるから、その時にまた歌舞伎町に戻れれば、と思って。
   この国は広島や長崎に核爆弾を落とされても、何やかや言いながら復活しているし。
   東日本大震災の後も、日本は蘇っているし」
   私は拓真のその言葉にハッとなった。核ミサイルが東京に来ても、日本が滅ぶわけでもなかったのだ。だとしたら、百合が自ら死を選んだのは無意味だったのかもしれない。
「俺、広島の出身で先祖は原爆の放射能を浴びたけど、何とか生き残って俺が生まれてきたのです。
   まあ戦争って大抵、偉い人が仕掛ける茶番なんですよ⋯⋯」
「⋯⋯」
「あ、すみません、会ったばかりなのに重い話をして。シャンパンか何か入れます?  安いのでいいから」
「はい」
   拓真は自分がオーダーしたシャンパンを私のグラスに注ぐ。
「繭ちゃん、だっけ。繭ちゃんと平和な日本に乾杯!  」
「乾杯!   」
   拓真と今すぐ寝ようとか、あまり思わない。下世話で品のない男なら、今の私に合うかもしれないが、拓真は違う。私はシャンパンに酔いながら、まあ悪くない夜だな、と感じていた。
    店の入口のドアが開いて、制服姿の大柄な警察官が二人、入ってきた。パトロールか何かだろう。四十代くらいの店長らしき背が高いホストが恐縮しながら応対していていた。 
   警察官の背が高い方が、私を一瞥して、つかつかと私の目の前にやってきた。拓真も私も緊張しながら彼を見た。
「すみません。足立⋯⋯繭さんですよね⋯⋯」
   その言葉を聞いたもう一人の警察官も私の前に来た。私は黙っていた。
「あの、マイナンバーカードか免許証か、何か身分を証明するものはありますか?  」
   私は観念したが、自分の名前を言いたくなかった。
「黙秘なさいますか。まあそうなると、署までご同行をお願いすることになりますが⋯⋯」
   私はその言葉に項垂れた。背が高い方の警察官が私の腕を取って、店の外に連れ出した。三分もしないうちにパトカーが赤色灯を光らせて店の前にやってきて、私はそれに押し込まれた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?