後悔の魚の絵

おはようございます。
私が今寝ている部屋からは、一枚の絵が見えます。
私が中学校の時に描いた、美術室の一角の風景です。

この絵には少し苦い思い出があります。

中学校の美術の先生は、見た目がかなりイカツい方でした。
背が高く、金髪にも見える白髪のソフトモヒカンで、そんなにレンズが濃くないサングラスをかけた男の先生でした。
話し方にもドスが効いていて、普通に話しているときも「この人迫力あるな」という感じでした。

しかもその先生は、かなり熱心な方でした。熱心が故に、生徒がいい加減なことをするのを見つける度に叱ってきます。絵の具セットを忘れたり、教科書を忘れたのにそれを隠していたり、いい加減な態度で作品を作っていると、「おい、それはあかんやろ。」と叱られます。

叱っている内容にはこちらが反論できないくらいハッキリと筋が通っていて、叱っている時も目は優しかったので、本当に私たちのことを思って叱ってくれていたのだと思います。
内容は基本的に、「副教科とはいえそんなにいい加減な態度で授業を受けていてはだめだ、一生懸命作品を作りなさい。」という感じだったと思います。

でも、他の副教科の先生は優しくて、英、国、数、理、社の教科の息抜き程度に楽しく授業を受けられていたので、副教科なのに生徒に真剣さを求める美術の先生に、生徒からは不満がタラタラでした。私も美術の時間の緊張感は少し苦手でした。

でも、真剣に取り組んでいい作品ができたときの達成感は、美術ならではのものでした。例の絵もこの先生の授業で、写生の時間に描いたものです。

「なんでも良いから、描きたい風景を絵にしてください」と言われたとき、私は美術室の一角に目をつけました。そこにある黒板の上には、誰が作ったのか分からない、木彫りの魚が立てかけられていました。
目だけがビー玉のような、キラキラしたものが埋め込まれています。

そのキラキラした目の魚と目が合ってから、その魚がずっと気になっていました。同級生が、窓から見える景色や町の風景、朝の霞がかった山を描き始めるなか、私は美術室の一角、特に誰かの作った木彫りの魚を絵にすることにしました。

外の景色に比べて、人が作ったものは絵の具の色が分かりやすく、配色や重ね塗りは思ったより順調にできました。私の画用紙の中で、キラキラした目のきれいな魚がどんどんその存在感を強めて行きます。
熱心な美術の先生も、私の絵が完成するのを楽しみにしてくれていたと思います。

この絵の主人公である魚の絵が完成し、魚が普段立てかけられている黒板や、その周りの背景も描け、作品は順調に完成に近づいていきました。

その順調さが仇になりました。

写生の授業後半、他の人の作品も完成に近づいてきたとき、先生が別の生徒にこのようなアドバイスをしているのを耳にしました。「白い絵の具を水で薄めて全体に重ね塗りすると、もっといい感じになるよ。やってみて。」

なるほど、白い絵の具を薄めて全体に塗ったら、もっといい感じになるのか!
ほとんど作品が完成して、時間に余裕があった私にとって、先生のその言葉は何もしなくていい時間を埋め、なおかつ自分の絵をもっと良い感じにできる、とてもいい助言でした。私は先生の言葉を真に受けて、自分の描いた絵に何の迷いもなく、水で薄めた白い絵の具を塗り重ねました。
塗ってから気付きました。あ、これあかんやつや。失敗した。

絵の中心で鮮やかな朱色を輝かせていた、キラキラした目の魚は、白いもやに隠れてその存在感を消してしまいました。それを見た先生も、落胆の表情をしていたように見えました。それも含めてかなりショックな出来事でした。

後から聞いたのですが、先生がアドバイスしていた生徒は早朝の風景を写生の対象に選んでいて、絵の具の色が強すぎると悩んでいたそうです。先生のアドバイスはその人の絵にとっては最適なものでしたが、それを考えなしに採用した私にとっては蛇足でした。

その後の作業は、隠れてしまった魚にひたすら元の色を塗って、「お~い、出ておいで~」という作業でした。魚は何とか出てきてくれましたが、はじめに見たときの自信はその魚からは感じられませんでした。かわいそうに、、

この出来事から私は、他の人から言われたことを真に受けてはいけないということを学びました。というか人に言われたのを聞いていただけで、自分に言われたわけではないんだけど、、
とにかく、入ってくる情報をすぐ信じず、それが正しいものなのか、自分に合ったものなのか、一度考えてみることは大切です。

その時の後悔と反省の意味を込めて、その時に描いた絵をここにも貼っておきます。集合体が苦手な方はちょっと閲覧注意です。
ご査収ください。

キラキラした目はなんとか取り戻しましたが、身体はもっと鮮やかでした。

ありがとうございました。

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