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52. ゲノムのコピー数の個人差がもたらす、多様な精神症状とは?

今回は、ゲノムのコピーの個人差がもたらす多様な精神症状についての話題です。文学部4年の井田明日香です。

私がこのトピックを選んだのは、ここ数年、「うつ病」や「大人の発達障害」といった言葉をよく耳にするようになったからです。最初は自分の親戚や友人などの狭い範囲での話だと思っていたのですが、最近はテレビやネットニュースなどで特集が組まれるほどメジャーな話題となっています。今回の配信を通じ、精神疾患について少しでも理解を深めたいと思い、取り上げました。

↓ポッドキャストもどうぞ。
学生メンバー井田&越川が、独自の視点で話題を広げます。


ゲノムとは、親から子へ受け継がれる一揃いの遺伝情報のことで、ゲノムはDNAという物質として細胞に保管されています。

ゲノムは細胞分裂の際にコピーされるのですが、コピーする数が個人間で異なる箇所があります。このコピー数の個人差が、精神疾患や神経発達症などの発症に関係することがわかりつつあります。しかし、一人一人の患者について、詳細な臨床情報や症状の変化などの報告はほとんどないのが実情です。

そこで今回の研究では、16p11.2じゅうろく・ぴー・いちいち・てん・に重複患者4人の臨床経過を調査しました。16p11.2重複とは、「16番染色体のp11.2という領域のゲノムが、通常2コピーのところ3コピーに増えている」状態を言います。集められた4人の患者のうち、2名が統合失調症、もう2名が自閉スペクトラム症の患者でした。

調査の結果、16p11.2重複患者は、診断された病名以外の多様な精神症状を見せることや、時間経過の中で症状が多彩に変化することがわかりました。また、調査対象であった統合失調症の患者2人は、薬物治療に抵抗性を示していることもわかりました。このような臨床データを集めることで、エビデンスに基づいた治療法の確立に役立つことが期待されています。

研究を行った尾崎紀夫おざきのりお教授からのコメントです。

現在の治療法で、副作用なく効果が得られる方もおられるのですが、未だ十分な効果が得られていない方もおられます。今後、精神疾患の発症に関わるゲノム情報から、どの様なメカニズムで精神疾患の発症に至るかを、患者さんから作製したiPS細胞などを用いて解明し、新たな治療法の開発に繋げたいと思っております。

この研究について詳しくは、2022年2月1日のプレスリリースもご覧下さい。

(文:井田明日香、丸山恵)

◯関連リンク
名古屋大学大学院医学系研究科 精神医学・精神生物学・発達老年精神医学・親と子どもの心療学・精神医療学(寄附講座)

尾崎紀夫教授(執筆記事)


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