428 群像劇の断片図③

右手にGEARを持つ男②

【抜天地下二層・裏通り】

地下二層も裏通りまで来ると、土塊がゴツゴツと行く足を阻んでくるようになる。しかしレイの健脚は、そんなものを意にも介さぬかのように進んでいた。
そうしてしばらく進んで。レイの足は、トタン作りの掘っ立て小屋の前で止まった。ようやく完成した支部を壊さぬように、レイはそっと粗末なドアを開ける。

「おかえりなさいやし!」

開けた途端に響くのはドタバタという騒がしい足音。つい先日こさえたばかりの支部だから仕方がないとはいえ、少々人を集め過ぎたようだ。しかし。

「お前等。組長の出迎えはいいが、掃除に買い出し、仕事はいくらでもあるぞ」

パンパンと手を叩き、構成員達に号令をかけるのは中性的な容貌を持った人物。服装も体のラインを巧みに隠している。
しかし、その指示はよく通る。集合しつつあった組員達は、ヘイ、へい、と答え、三々五々に散っていった。

「すまんの、支部長」
「なんの。レイの頼みだからな」

レイは靴を脱ぎ、支部の中へと入る。支部長が先導してある部屋へ向かい、仕掛けを動かす。すると、地下へと続く隠し階段が現れた。
若干角度が急な階段は、二人が一段下るたびに、音を立てて軋んだ。

「そういう仕掛けとはいえ、心臓に悪いな」
「もう一人が入れば崩れ落ちる。レイ、あんまり太ってくれるなよ」

支部長の言葉に、レイは苦笑しつつ階段を降りた。五十段は下った頃、ようやく地下構造物が現れる。そこは、地上の掘っ立て小屋とは全く異なる様相を呈していた。

「……地下に主体を置くとは聞いちゃいたが、こりゃひとかどの屋敷じゃねえか」
「本部だってどうなるか分かったもんじゃないだろう? その役割を担えるようにした。強度も、軍隊に攻撃されるでもない限りはお墨付きだ」

支部長が胸を張る。

「設計図を貰った時は怪しんだものだが……。悪かった」
「なに、構わん。いろいろと伏せて持ち込んだからな。ところで……」

支部長が話題を切り替え、レイの手を掴む。辺りに組員の姿はない。レイは支部長に道行きを任せることにした。

「アレについては、なにか分かったのか?」

早口かつ、意味不明な問いかけ。だが、レイには通じる。

「まだだ。表面をなぞっているだけだな」

故に、端的な答え。早足で歩いて、会議室と思しき部屋へと入り込む。さり気なく後ろへ回った支部長が、なめらかな手付きで鍵を閉めた。

「それで大丈夫なのか?」
「問題しかない。この支部の完成が、大いに有り難い」

レイは冷静だった。

「地上でも、動きが見受けられる。【バラ撒き屋】と思しき者を目撃した噂も入るようになった。俺はやる」

レイは、右手を支部長に見えるようにし、握り締めた。感情に呼応したのか、握り締められた手は、淡く光った。

「勝手にこんな拳を作った奴に、報復の一撃を浴びせてやる」


#小説
#日刊南雲
#繋がっても繋がらなくてもいいから俺の創作を見てくれ
#群像劇の断片図


もしも小説を気に入っていただけましたら、サポートも頂けると幸いです。頂きましたサポートは、各種活動費に充てます。