南雲麗
強大なるガノン。南方蛮人の生まれでありながら戦神の寵愛を受け、戦士として、指揮官として、そして王として名を馳せた男。本作は一介の戦士から一廉の王に至るまで。彼の往く道を綴った物語。 ※異世界ファンタジー ※不定期更新 ※エピソードは順不同です ※じっくり書き進める予定です。カクヨムで清書版を連載しています。 https://kakuyomu.jp/works/16817330655392121464
毎日投稿される思考の記録。
蛮迦羅――それは怪人を屠る修羅道の者。 怪人――それは悪意の者によって造られし生体兵器。 蛮迦羅――番長五郎(つがい・ちょうごろう)は、祖父の敵を討つために修羅となった。 近未来SF風味架空変身ヒーロー戦記。
寄稿品
ヴァレチモア大陸の中央部には、国境をも知れぬ荒野が広がっている。街道はなく、わずかな草と山々、そして荒涼たる風と獰猛たる野獣どもが荒野に彩りを添えていた。 そんな殺風景の中に、二人の人間がいた。一人は砂塵に叩かれつつも、豪壮な装備に身を包んでいた。豪奢な兜の下には、陽光に照らされた栗色の長い髪。壮健なる鎧の胸元には、胸を納めるためのわずかな隆起。有り体に言えば、女であった。 「貴様は、何故に鎧を付けぬのだ」 吹き付ける風を長い薙刀で防御しながら、女が問うた。重く、厳
<#1> <#2> さて。ここまで話を聞いててどう思った? 人間臭い? ガノンが? そりゃそうさ。アンタ、【強大なるガノン】がまさか超人だとでも思っていたのかい? 冗談じゃない。彼も、他の英雄たちも、みんな人間だったさ。 アタシを殺そうとした奴も。アタシと決裂した奴も。アタシと向き合ってくれた奴も。みんな人間だった。どこも、他の人間と変わらなかった。アタシのような、人でなしじゃなかったよ。 おっと。さっきのような発言はよしとくれよ。アタシはやっちまったんだ。だから魔女
<#1> あの時のガノンの顔と言ったらねえ。今でも鮮明に思い出せるよ。こう、口をポカンと開けて……なんだい? なぜそんな質問をしたのか、だって? 好奇心だよ。アタシも若かったのさ。アンタだって、まだ南方蛮域にまで足を伸ばしたことはないんだろう? そういうことさ。聖堂や教会に置かれた本にゃあ載っていない、生の知識。そういうものが欲しかったんだ。 なに? 他の英雄たちや旅人にも聞いたのか? ああ、聞いたよ。当然さ。すでに英雄だった者。アタシと出会った後に、名を知らしめた者。
おお、おお。また来なすったか。お前さんは、どうして『ここ』に自由に足を踏み入れられるのかねえ。おっと。喋らなくてもいいさ。もう幾度となく会っているけど、こればかりはアタシが、自分の手でわかりたいからねえ。それで良いのさ。 で? 今日の用件はなんだい? またあの【強大なるガノン】の話かい? 良いけどね、たまには他の話も聞いとくれよ。長く生きちまっただけあって、色々とネタには事欠かないのさ。『ここ』に来た人間に限るけどね。 たとえば、この大陸におさまるどころか、隣の大地にま
<#1> <#2> <#3> <#4> <#5> <#6> <#7> <#8> <#9> <#10> <#11> 大武闘会を終えてしばらくの後。とある邸宅。すっかり旅支度を整えた男と、貴族じみた装いに身を包んだ女が、語らいの場を持っていた。 「では、行くのか」 「ああ、行く」 旅支度の男――ラーカンツのガノンは、正装に身を包んだ女――ローレン・パクスターに向けてハッキリと応じた。ガノンの手には、幾枚かの札――近隣数カ国の通行証が、しっかと握られている。『ガナン』とし
<#1> <#2> <#3> <#4> <#5> <#6> <#7> <#8> <#9> <#10> 罵声にまみれていた観覧席も、今に至ってはパリスデルザへの圧倒的な声援へと変わっている。しかしその中にはチラホラと、この戦いの真実を見抜く者どもが隠れていた。 「兄者。今の言葉」 禿頭大柄にして、背に大斧を携えた男が口を開く。 「聞こえた。聞こえたぞ弟。あの蛮人、一刀命奪の境地を否定した」 すると、隣に座りし長髪矮躯の男がそれに応じた。口ぶりからすると、二人は兄
<#1> <#2> <#3> <#4> <#5> <#6> <#7> <#8> <#9> 両雄の開戦を前にして、時はわずかに巻き戻る。円形闘技場にほど近い路地裏にて、違法なる賭博師は暇をかこっていた。 「あの蛮人、こっちの儲けを軒並みかっさらいやがった。畜生め」 不穏な匂いを放つ薬草を噛みながら、賭博師は愚痴を放つ。さもありなん。かの蛮人――『ガナン』とやらが絡んだ賭けは、軒並み不成立に終わっているのだ。ログダン剣士との戦だった初戦はともかくとして、罵声まみれだった
<#1> <#2> <#3> <#4> <#5> <#6> <#7> <#8> その提案は、ガノンにとってあまりにも魅力的なものだった。さしもの彼ですら、即座に首を縦に振りかねなかったほどにである。 『貴君がここで引いてくださるのであれば、我が国は貴君への手配には加担せぬと約定しよう』 彼にとって、この提案が魅力的だった理由はいくつか存在する。だが、最大の理由は一つだった。彼は。ラーカンツのガノンは。すでに己の底を晒してしまった。ハク――正確にはログダン王国王家・先
<#1> <#2> <#3> <#4> <#5> <#6> <#7> 攻防が始まった。 互いが一手を繰り出す度に、それ以上の返礼が成された。 それを受ける度に互いがたたらを踏み、しかし踏み止まって殴り合った。 もはや観客の嘲る声、蔑む声は皆無となっていた。否。あまりの戦いに、誰一人として声を上げられなかった。 「オオオオオ!」 ガノンが蛮声を上げ、少女を手酷く殴り付ける。少女の身体はわずかに浮き、地面へと打ち付けられた。 「ハァッ!」 少女が変わらぬ清冽
<#1> <#2> <#3> <#4> <#5> <#6> 「ガ……ナンっ!」 ガノンが吹っ飛ばされた姿に、貴賓席のローレンは思わずして真の名を発しかけた。身体は跳ね上がるように立ち上がり、食い入るように闘技場を見つめている。貴族としては少々―― 「はしたないですぞ、パクスター公」 「お熱の蛮人が危地にあるのです。仕方がないでしょう」 「――っ、コホン。取り乱しました」 周囲の公爵どもからからかいじみた言葉を投げられ、ローレンは恥辱に顔を赤らめた。席に座り直しつつ
<#1> <#2> <#3> <#4> <#5> 「ハイッ!」 開戦のドラが鳴り響いた次の瞬間には、白布の少女はガノンの視界から消え去っていた。 「ぐっ!」 後手に回ってしまったガノンは、あえて動かずに腰を落とす。ここでつられて動いてしまえば、そのまま翻弄されるおそれがあった。動きを見極め、正確な一手を繰り出す。戦神の力を使い難い以上、相手に歩調を合わせるのは愚策極まりない。 「セイッ!」 ガノンの背後から声が響く。振り向けばそこに、迫り来る少女の姿。ガノン
<#1> <#2> <#3> <#4> 長いように思える四戦も、いざ始まってしまえば早いものである。闘技場はわずかに、その役目ならざる時間を迎えていた。もっとも、闘技場の上ではログダン王国軍の兵士たちが所狭しと駆け回っている。地に滴った汗や血の痕跡を、新たな土砂にて覆い尽くす作業に追われているのだ。 「三戦目は、デルフィンなる軽装髭面の戦士が敵を寄せ付けずに勝利。そして四戦目は……」 そんな様子を貴賓席にて眺めながら、ローレン・パクスターは戦を振り返っていた。白布無
<#1> <#2> <#3> 時は再び、大武闘会へと戻る。戦を終えたガナン――否、ガノンは、再び西門をくぐり、他者と距離を取った位置へと腰を据えていた。他の戦士や、次なる戦――二戦目において、己の相手となり得る者どもの戦い――に、一切の興味はない。ただただ使命を果たすため、ローレンの願いを果たすためだけに、彼は在るからだ。しかし―― 「また乱心か!」 「大武闘会への侮辱を許すな!」 「グシュ公爵家に誅伐を!」 再びの罵声が門を越えて響き渡り、ガノンは閉じていた目を開
<#1> <#2> 「なっ……!」 『ログダンにて陰謀があり、それをガノンに打ち破って欲しい』。その依頼を聞かされたガノンは、本人ですらあるまじきと感じるほどに背を仰け反らせた。己は蛮人である。文明人からしてみれば異邦人であり、賤民である。そんな己に、国家の重大事を託そうなどとは。ガノンでなくとも、正気を疑うような発言であった。 「……いかなる仕儀によるものか。場合によっては」 「さもありなん、ですね。如何なガノンどのでも、我が正気を問うでしょう」 ガノンが疑問を
<#1> 時は幾日か前に遡る。蛮人ガナン――否、一時は【大傭兵】とも呼ばれていた男、ラーカンツのガノンは、不機嫌を露わにしていた。とある成し遂げなければならぬ旅路のさなか、己が行き倒れたのは一生の不覚である。しかしあらましさえも明かされず、どこの、誰の持ち物かさえもわからぬ邸宅へと運ばれていたことには非常な不快を感じていた。 「も、もうすぐ主人が参りますので」 「わかっている」 その不快の気配を、モロに味わっているのだろう。使用人の一人が、震えた声で頭を下げた。いか
強大なるガノン。南方蛮人の生まれでありながら戦神の寵愛を受け、戦士として、指揮官として、そして王として名を馳せた男。 彼の築いた王国はほぼ一代のみの国でありながら壮健を誇り、黒河から白江に至るまでのあらゆる民を尽く、その威光によってひれ伏させた。 しかしながら彼の道は、決して平坦なものではなかった。幾多の挫折、敗北。出会いと別れ。そういったものが、彼の人生を彩り、更なる魅力を与えている。 これは【赤髪の牙犬】、【大傭兵】と呼ばれていたガノンが、一敗地に塗れた頃の物語で