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マイクロノベル集 145 「創るもの」

996
「たった一つの着想から生まれた君は、たくさんのクマさんが縫えるんだね」個性なんて知らないわ。私は捨てられたぬいぐるみを集め、綿を取り出し、食べる。生まれるのはクマさん。さあ、歌いましょう。元気よく。愛らしく。勇ましく。夢の楽団まであと一歩。


997
まいったなあ。仕事熱心で、部下思いの優秀な課長だけど、根を詰める悪い癖があるんだよな。こだわりが強いって言うか。倒れなきゃいいんだけど。「課長が暴走した!」言わんこっちゃない。しかし熱暴走したAIに水で足りるか?


998
いざ侵入。愛しのバーチャルアイドルのデータを奪うため、ぼくらは未知のコンピュータをハッキングする。協力すればハートだって盗めるはず。速やかにボーンを奪取。美しいネイルをゲット。知性は? 「ない」未知の警報が鳴っている。「最初からない」


999
猫がぼくの手を舐めている。「猫は嫌い?」どうかな。神様はぼくの手を取る。「預けてもよい? 私は猫に好かれないから。年に一度、会いに来ます」猫は今もぼくと暮らしているけれど、あれから神様には会っていない。でも時々、猫から不思議な匂いがする。


1000
ようやく山頂に到着。空を飛ぶ者なら一っ飛びだけど、ぼくは一日がかり。その一日で、走る者は島の端まで往復するんだって。想像もつかない。帰宅したらもう夕飯時。みんな食事の準備中。「地を這う者よ、なにを見つけた?」俳人級メニュー。「松茸ぇ!!」

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