新刊以外の面白本を見つける2つの方法

読み返したい!『辺境の怪書、歴史の驚書、ハードボイルド読書合戦』

発売後3カ月以内の新刊しか読まないことが、自分に課したルールだ。それゆえ、長い休みになると普段とは違うことをしたくなり、すでに名著と認定された、新刊以外の本に手を出すことも多い。しかし悲しいかな、新刊以外の探し方がよくわからない。そこで、以下の2つを実践している。

1つは、ブックガイド系の本にあたる、だ。中でも最も多く読み返しているのが『辺境の怪書、歴史の驚書、ハードボイルド読書合戦』。

世界の辺境を主戦場とするノンフィクション作家の高野秀行、そして日本中世史を専門とする大学教授の清水克行。それぞれが本を選んで、8冊を足かけ2年で語り合った。本書はそのハードボイルドな読書会の模様を収めたものである。

ポイントはディープな選書だ。『ゾミア 脱国家の世界史』『世界史の中の戦国日本』『大旅行記』『ピダハン「言語本能」を超える文化と世界観』『列島創世記』『日本語スタンダードの歴史』など、中心と辺境、あるいは常識と非常識の両端を見せてくれるものばかり。2人が試みているのは、両端を入れ替えるようなアナーキーな企みだ。清水はアカデミックな観点から、高野は実際に見聞きした体験談から、本の内容を話題に、物の見方を論じていく。

紹介される8冊は、どれも読了に体力を要するものばかりだが、本書が滑走路としての機能を十分に果たしてくれるため、結果的に長い休みのたびに読み返すことになるのだ。

おすすめ『最後の秘境 東京藝大』

もう1つは、文庫になったタイミングの本を狙うというやり方。

単行本が出た後に文庫化されるわけだから、すでに高い評価を得た内容であることが多く、外す確率が低い。さらに価格も安く、持ち運びもしやすい。考えれば考えるほど、よくできたシステムである。

最近文庫化された本の中では、『最後の秘境 東京藝大』が圧倒的に面白い。著者の伴侶は現役の芸大生。一つ屋根の下、あまりに不思議な暮らしぶりに興味を持ち、キャンパスの案内を請うた。本書は、東京都心「最後の秘境」といわれる東京芸大に潜入し、全学部・全学科を完全踏破した前人未到の探訪記である。芸大がテーマというだけでも珍しいのだが、本書に登場する人物たちは、もっと珍しい。まさに珍獣、猛獣のオンパレードである。

本書を読んでも、決して芸大に入れるようにはならないだろうし、クリエーティブに仕事をするためのヒントもいっさい得られないだろう。つまり役に立たない。本当に役に立たない。驚くほど役に立たない。こんなぜいたくな読書ができるのも、大型連休ならではといえるだろう。

※週刊東洋経済 2019年4月27日号

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