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20万円のドローンがベナンのジャングルに消えていった話。

どうも、アフリカ系男子のナイケルです。


2週間ほど前にこんなツイートをしました。

結構ご心配いただいたので、申し訳ないと感じてまして、ツイートで発信したからには、どこかでちゃんと詳細もお伝えしようと思っていました。


結論からいいますと、現在ベナンでやっているドローン事業にまつわるトラブルでした。タイトルでネタバレちゃってますが、20万円するドローンが消えました(笑)


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ベナンでドローンの会社やってます


ようやくあのショックを社員一同消化できましたので、あの日にタイムスリップした気になって語ってみようと思います。


結構長くなるとは思いますから、読んでくださる方にせめて笑いが届きますように。



ドローンの調子がおかしい


「うーん、困ったなー」


事件の日の数日前だった。


あたらしく購入したドローンのバッテリーを装着してテスト飛行していたのですが、送信機であるiPad miniのモニターから「GPSが取得できません」というエラーが出ていた。

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僕が使っているドローンは、DJIのPhantom4Proという、スマホでいうApple社のiPhoneXのような、ドローン界ではナンバーワンのメーカーで、プロ仕様のドローンを使っていた。価格も20万円くらいする。


お値段が高いのには理由がある。このドローンでは4K撮影ができるだけでなく、その画像データを使って3Dモデルが作れたり、測量まで出来てしまう超優秀なドローンなのである。


そのドローンの新しいバッテリーが届いたので試してみると、どうも不具合があるようだ。


ネットで調べてみるとアップデートの問題とか、初期不良の可能性もある、など色々でてきたので、やれる限りのトラブルシューティングはやってみた。



そして事故の当日。


オフィスの前にある空き地で飛ばしてみると、不具合のあったバッテリーも問題なく飛行ができた。


ちなみにこのドローンのバッテリーは、純正でおひとつ2万円もする。うちのスタッフの月収より高い。


お金が無駄にならなかったことにほっと胸を撫で下ろした。




水上都市ガンビエでデモンストレーションだ!


ベナンでドローン事業をやっている会社は数少ない。


僕たちをいれてガチでやってるのは3社ほどである。


日本も最近になってドコモとか楽天とか、僕らが知っているような会社がドローン事業を始める時代になってるけど、ベナンはまだまだこれから。


でも、ドローンが解決できるベナンの課題は計り知れない。


「だからこそ黎明期である今、ぼく達が参入してドローン産業を活性化させ、ベナンの経済を盛り上げたい」


と本気で思っているのです。



その活動の一環として、デモンストレーションをやっている。


理由は、まだドローンというものを見たこともない人がほとんどで、何ができるかも知らない方が多いから、人が集まりやすい場所で飛ばして、みんなに知ってもらう啓発活動である。

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飛ばしてほんの5分くらいで新宿にローランドが現れたときくらい人が注目し集まる。(この表現あってますか?w)


今回選んだデモンストレーションの場は、ベナンで一番の観光スポットであるアフリカ最大の水上都市「ガンビエ」の港である。

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ベナンに来るときは必ず観光してほしい


問題なく飛んだ…ように見えた


最近ドローンを飛ばせるようになった、うちの美人スタッフがパイロットを担当。前からドローン操縦士として働いている男性スタッフがアシスタントを務める。

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ぼくはスマホで彼らが飛ばしているのを撮影し、後ほどプロモーション用に使う素材をあつめるカメラマンこと下っ端の役割だ。



ブウィィイイイイイイン!!!!



ドローンがプロペラを回し真上に飛び上がる。


飛行前チェックも済ませ、無事上がった。


再チェックも兼ね、新しく買ったバッテリーで飛ばした。



「うん、全く問題なく飛んでいる」


安心してドローンを飛ばしている様を撮影していた。



そして、事件は起こる


飛ばしてから3分くらい経ったころだろうか。


「あれ?なんか様子がおかしいわ」


うちの美人スタッフが慌てている。


僕と男性スタッフがモニターをチェックしに行くと、


【GPSが取得できません】


という表示が出ていた。


「くっそー、まだ直ってなかったのか」


GPSが取得できないと、上手く操縦ができなくなったり、最悪コントロールを失ったときに自動的に帰ってくるという機能が働かなくなる。


「よし、一旦戻して別のバッテリーに変えよう」


美人スタッフにそう伝えた。



しかし、ドローンは我々と逆の方向へ飛んでいる。


「おい、早くこっちに呼び戻して」


「ダメ、コントロールできないわ」


 「なんだって?!」



慌ててモニターを見てみると、



【接続されていません】


という表示が真っ赤な警告バーと共に表れていた。



帰ってきてくれ!頼む!


美人スタッフからすぐにiPad miniを受け取り、僕と男性スタッフはドローンを目で追いながら再接続を試みた。


「ダメだ、まったく繋がらない」


と、男性スタッフは言う。


「ああ、でも本来は未接続になったら最初に飛ばした位置に自動的に戻ってくるはずだ」


先ほども伝えた通り、GPSをキャッチしていれば、このドローンは賢いから位置を憶えていて、万が一こういったトラブルが起きても自分で帰ってくるのだ。方向音痴の僕よりもはるかに優秀だ。


ドローンはすでにかなり遠くにいっているが、一旦止まっているようにも見えた。


この時までは僕も男性スタッフも、ドローンは必ず帰ってくると思っていた。




ドローンは再度かなたへ飛んで行った。



「これは、マズイな」


どうやらドローンの自動で戻ってくる設定が作動していないことを確信した我々は、


「ドローンを追うぞ!!!」


といい、乗ってきた車に飛び乗り、このエリアに詳しいといっているお爺ちゃんを乗せて発車した。



村への聞き込み調査


ドローンが飛んで行った方角は、市場があるので、そこを突っ切ることはできなかった。


かなり遠回りをしながらドローンが消えた方向へ行かないければいけない。


「すみません!通してください!!」


窓を開け、人だかりに向けて叫ぶ男性スタッフ。


大通りに出たとき、わずかに見えていたドローンはもう見えなくなっていた。


それでも飛んだ方角のエリアにはたどり着いた。


「聞き込み調査をするしかない」


幸い、この辺りは村となっており、人がたくさん農作業のために外に出ていた。


子供も今の日本と違ってスマホとかを持っていたりしないので、学校が終わったら外で遊びまくっている。


「ドローンを見なかった?空飛ぶ機体なんだけど」


ほとんどの人たちは知らないと答えた。


「うん、見たよ!」


「え?本当に!どんなのだった?」


とテンションが上がりヒヤリングしてみると、ただの飛行機を見ただけだったりしてガッカリして、また聞き込みを続けた。



「ジャングルの方に飛んで行ったよ」


農作業をしていた若い人が、確かにドローンを見て、しかもそれは湖と村をつなぐジャングル地帯に向かって飛んで行ったという。


このジャングルはただのジャングルではなく、下が沼のようになっている。もちろん車では入れないし、ボートでも厳しい。


試しにちょっと入ってみたが、5秒でも停止するとみるみる足が埋まっていき、僕がドロンしちゃう。


どうやってこのエリアを捜索するか、考えていると、日が暮れてきた。


このときにはドローンを探している外国人とベナン人たちがいるという噂を聞きつけ、村中の人たちがその現場に集まっていた。



ジャングルに突入


実は、僕はこの時点で覚悟を決めていた。


「これは諦めた方がいいかもしれない」


というのも、ジャングルに飛んで行っていたとして、おそらくもうバッテリーは0になってしまっているので、不時着しているはず。


可能性として一番高いのは、ジャングルを超えた湖に落ちたか、ジャングル内の沼地に降りたか。


この場合だと、見つかったとしても水にはめっぽう弱いこのドローンは、もう再起不能になっている確率が高いからだ。


奇跡を願うとすれば、ジャングルの木に引っかかっているか。


スタッフや村人たちは、いまだにどうやって探すかを話し合っている。


僕も仮にベナン滞在3年が経とうとしているので、こういうときはダラダラと時間が経ってしまうケースがほとんどだとわかっている。であれば、今日は諦めて、明日の早朝に探す方が得策だと考えた。


「よし、早朝に探そう」


「イヤよ!ぜったいに今日見つけるの!」


自分が飛ばした責任感を感じているのか、美人スタッフが涙目で叫ぶ。


「そんなこともいっても、もう夜だし、どうやって探すの?」


「待って。いま神様に祈ってる」


無宗教の私達からすると、冗談のように聞こえるかもしれないけど、宗教への信仰が強い人はトラブルの時に神に祈るというのは結構あるあるだ。


僕はこういうときの神頼みは信じないので、ここは僕が無茶をすることにより、今夜の捜索は諦めると言わせようという作戦をとることにした。


「じゃあ、おれが探してくる!」



「危ないから戻ってきて!!!」


そう叫ぶ美人スタッフと男性スタッフ。


「もう少し探し続けるそぶりをして、向こうから明日にしようという言葉を待とう」


油断すると下半身が埋まりそうな沼で、真っ暗でなにも見えないジャングルをかき分けて中に進んでいく。


「危ない!死ぬぞ!わかった!もう明日にしよう!!」


そう、その声が聞きたかったんだ。戻るとしようか。



「そこにはワニと蛇がいて沢山の村人が死んでいるんだ!」


このとき、僕は水の上を歩いたんじゃないかというほど全速力で陸に戻ってきた。



早朝、総勢30名以上で捜索


もう少しでこの物語は終わります。お付き合いください。


朝6時、まだショックから立ち直れないスタッフたちと、協力してくれる村人たちが現場に集まった。


「見つけてくれた人には報酬を出します」


先ほどもいったように、見つかっていたとしても、使うことはできないかもしれないドローンではあるが、奇跡が起こるかもしれないし、実はこのドローンは大切な友人が僕のためにプレゼントしてくれたものなのだ。


「せめて、亡骸だけでもオフィスに飾っておきたい」


もちろんスタッフたちは見つかることを信じていたし、僕も奇跡は起こるかもしれないと思っていたけれど、同時にそんなことも考えていた。


一番いいのは高い建物から、ジャングルを見下ろして捜索することである。


残念ながらここは村なので、ほとんどが平屋だ。


平屋の塀に登り、ジャンプしながら見渡すくらいしかできない。

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こういうときこそドローンがあれば探せるのに。あ、探してるのもドローンだった。



「Mavic(マービック)マンを呼ぼう!」


気づいたらそう叫んでいた。


先ほども伝えたが、数少ないドローン事業をやっている競合の社長とは知り合いで、彼の持っているドローンはMavic(マービック)といって、同じDJI社の僕らのよりもコンパクトなタイプだ。


我々の中ではMavicマンという名称で通っていた。


涙目で探し続ける男性スタッフに伝え、電話をかけてもらった。


電波が悪いのか、繋がらない。


「ちょっと電波が通りそうなところへ行ってくる」


Mavicマンが来てくれれば、上空からジャングルを探すことができ、万が一木に引っかかってたりすると、ミラクルで見つかるかもしれない。


「頼む!Mavicマン!来てくれ!」



現れたのは・・・


しばらくすると男性スタッフから電話が。


「残念ながらMavicマンは今この辺にいないようだ」


「そうか、仕方がない。諦めようか」


「いや、待ってくれ。今、Magicマンが現れた」


Magicマン?マジックという名のドローンは聞いたことがない。


「彼はこの村の呪術師だそうだ。おれたちのドローンを探してくれるらしい」


なるほど、Magicマンとは呪術師のことだったか。さっきもいったけど、こういうときに限っては僕は神やスピリチュアルな力は信じない。


「彼は100%見つけることができると言っている」


なんだって?


もしかしたら本当にすごい力で見つけてしまうかもしれない。実はベナンはブードゥー教という土着宗教があり、スピリチュアルな力を使えることでも有名なのだ。


どうせもう諦めようと思っていたし、一度信じてみようかという気になってきた。


「いくらで探してくれるんだい?」


「8万円と言っている」


た、高い。見つかったとしても壊れている可能性が高いものに8万円はかなりキツい。


しかし、100%見つかるというのも気になる。


仮に、これで本当に見つかったとしたら、今後捜索系のプロジェクトを彼と一緒にできるかもしれない。


などと頭で次の事業のことを考えている自分は、少しだけ経営者らしくなってきたかもしれない。


「わかった。見つかったら8万円を出そう。ただし、見つからなかったら0円でいいね?」


「・・・ダメだと言っている。仮にみつからなくても8万円だと言っている」


この言葉を聞いて、嘘かどうかは判断はできないが、今の財政状況ではこのリスクはとれないと判断して去ってもらった。サンキューMagicマン。



別なドローンマンが来てくれて捜索


その後も数時間、捜索は続いた。


ワニや蛇がいる可能性もありながら、沼に入って探してくれた村人もいた。


実はその後、他にもドローンを持っている人と連絡が繋がり、わざわざ遠くから駆けつけてくれ、ドローンで捜索もすることができた。



しかしながら、奮闘むなしく、ドローンを発見することはできなかった。


捜索メンバー全員もグッタリし、ドローンの充電も切れたところで、


「みんなありがとう。これにて捜索をストップします。もしも、あとでドローンを見つけたらもちろん報酬は払うから言ってください。本当にありがとう」


そう伝えて、ドローン捜索は終了した。



それでも前を向くしかない


帰宅中の車内では、落胆の空気が流れている。


「あのドローンがないと、どうやって仕事をすればいいんだ」

「私のせい。もう私は一生ドローンを操縦しない」

「神は我々にドローンをやるなと言っているのか」


うつむきながら呟くスタッフたち。


もちろん僕も凹んではいるが、もう過ぎてしまったことは仕方がない。


こういうときは無理矢理にでもラッキーポイントを探し、ポジティブにするのがリーダーの役割だと思っている。


「このトラブルは、下手したら人を傷つけていた可能性もあった。それが無かったことがラッキーだった。そして、僕たちは今後もっと高いドローンを導入する。その前にこういった事故を経験することで、未来の大きな損失を防ぐことができると思わないか?」


「全然思わない」


我ながらかなりポジティブに変換してカッコよく語ったつもりだったが、全然響いていなかった。神様、カリスマ性と大きなイチモツを僕にください。




後日談


これにて、ドローンがどろんしちゃった事故話は終わりです。


少ない軍資金でやっているので、この損失は正直相当痛かったです。


この月に入っていた空撮案件は全て無くなりましたし、いまだに新しいドローンは手に入っていないので、経費垂れ流し状態です。


それでも、新しいドローンは近々届くようになりましたし、僕も年末に帰国するフライトをキャンセルして、そのお金を事業資金にあてることにしました。


同情していただける方もいるかと思いますが、それはありがたい反面、どちらかといえば、このストーリーでクスッと笑ってもらったり、「よし、私もトラブルを乗り換えてがんばろう」みたいに思ってもらえれば幸いです。


数年後に、ドローン事業で大きな結果を出したとき、このストーリーがあったからこそ成し遂げられたといえるように頑張ります。


そして、ありがとうドローン。


君のおかげでここまで来れたよ。


君のおかげでもっと強くなるよ。


安らかに・・・

人生賭けてアフリカで活動中ですが、ご飯を食べないと死んでしまいますので、いただいたサポートは僕の燃料として大切に使わせていただきます。