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無菌室で不謹慎プール

いつか【このことをユーモアたっぷりに書ける日が来るはず!】と思っていたことを無事に言語化できるフェーズに来ている気がしたので、

辛い日々の中にもエンターテイメントを取り入れたら、なんかすごいほっこりしたこと

について書いてみようと思います。これはわたしのパートナーの「根本さん」が白血病で入院しているときのストーリーです。

思い出し笑いと、思い出し泣きで、変な感情になりそうです。


登場人物 : 根本さんと わたし

一人前の男性にとっても命の存続を脅かす血液のガン、白血病。

ウィズ白血病はどんなかと言うと、

ビフォアー白血病から【生活場所・時間・価値観】が全てがリセットされるような感じです。

苦しみや悲しみで胸が張り裂けそうなのに、自らが納得できるような新しい価値観を作り出して、なんとか現実に折り合いをつけないと苦しくて生き延びれない…

みたいな、過酷で壮絶な日々の始まりでした。

あ、そうです。
今のコロナデイズとびっくりするくらい似ているんです。

今までの日常は何だったんだ?もう戻れないの…?と絶望する辺り、そして隔離され、ウイルスが怖い…という所が特に似てます。

なにはともあれ、

根本さんとわたしは、大きな変化に真っ向から立ち向かっていくことになりました。アフター白血病を目指して。


抗がん剤でお坊さん化

いろんな検査をしてやっと正式な病名がわかったとき、あらためて主治医の先生から説明を受けました。

「すぐに治療を開始しないと余命2〜3週間」

こんな耳を疑うような悲しくて壮絶な言葉がたーくさん湧き出てきて、深刻な紙にサインをしたり、入院初期はいろーんな手続きを進めなければならず

わたし本当にこれをクリアできるのか?
と不安しかありませんでした。

この世の終わりだと思いました。
(ほんとうに思った。)

しかしわたし達を「医学」というこの世の大産物が、壮大なセーフティネットを広げて受け止めてくれました。

こうすれば、こうなる。
この薬を使えば、こうなる。
こうなったら、アレを使う。

小さな変化も全て教えてください。
全てにきちんと対処していきます。


先生からの言葉は現実であり人類の英知そのもの。感情を一切出さない方だったから笑顔は一度しか拝見したことがありませんが、(それが良かった)

淡々と語られる事実に一喜一憂することなく、でも未来に光る小さな点はしっかり共有してくれて、その点を目指すことを約束してくれて。

「最先端の医療を受けられることは奇跡だよなぁ」と、日本に感謝しました。


バリカンでウィーン

治療がスタートして精子保存やカテーテル手術をなんとかクリアし、今までまったく知らなかった世界の片隅に弾ける波にバシャバシャともまれる2人。

片手にスマホを握って病気に関する情報をかき集め、もうひとつの手をしっかりつないで、

アップアップしながらも溺れて自分達を見失ってしまわないように…

と、精一杯自分を保つことを心掛けるんです。この時のわたしは

「自分がメンタル崩したらサポートできなくなって終了しちゃう、あと事故も絶対ダメ。保てよ、自分を保てよ!!!」

と言い聞かせていました。

言い聞かせないと立ってられないくらい辛いことってあるんですよね。自分で自分を支える、みたいな、はじめての経験でした。


治療を進める中で、「抗がん剤で毛が抜け落ちると枕やシーツがどえらいことになる」ということを知り

バリカンでウィーンすることに。

ウィーンした根本さんはかわいさ満点!そして誰がどう見ても「お坊さんそのもの」で爆笑でした。なんか、手を合わせたくなる顔なんですよ。

(後ほどの写真で確認してください)

わたしは毎日そのツルツルの頭を拝みに病院へとせっせと足繁く通っていました。

毎日14時から20時までが面会時間。それに合わせてアルバイトを初めて、面会時間はほぼ一緒に過ごすという生活。

治療が順調に進んでいくと、当初あった「不安すぎて吐きそう」な状態からはいったん離脱。

無菌室の殺風景すぎる環境を「心地よさMAX」に整えられて快適空間を作った次は、エンターテイメントが必要だ!と確信したのです。


内緒でユニディ(ホームセンター)

実は、抗がん剤の治療中はお風呂に入れないんです。(入れる病院もあるのかなぁ)

カテーテルと呼ばれる【抗がん剤とか普通のお薬とかを流し込む管】が腕に付けられてるから、免疫が無い時に雑菌が入ったら命に関わるという理由と、

単純にクリーンルームにシャワーが無いためです。(トイレと洗面台は、ある)

洗面台からは滅菌されたお水やお湯が出るので、そこで頭を洗ったり、大量のおしぼり(あたたかいやつ)をいただいて、体を拭いたりしていました。

無菌室がどんなかと言うと、まさにリアル版「精神と時の部屋」。
外界と遮断され、1人隔離されてる感じです。(本当にコロナと似ている!!)

「なんか飲みたいな〜」と思ってもコンビニにも行けないし、院内すら歩き回れない。身体的にも精神的にもけっこう過酷です。

普通の生活をしていると、シャワータイムとかってなんかリセットされる感じあるじゃないですか。割と大事じゃないですか。

ほっとしたり、
思考をストップさせられたり。

そういうのが根本さんにもあるといいなぁと思って、急ですが、面会前にユニディへ向かったんです。


探したのは

子ども用ビニールプール。


「無菌室でリラックスしてほしい!わたしに用意できる最大限のエンターテイメントをプレゼントしたい!」と考えていたら、思いついたんです。

我ながら、天才だなぁ、と。


空気入れも、忘れずに


洗濯した服を詰め込んだいつものでっかいバッグにユニディで買ったばかりのビニールプールと空気入れを入れて、いざ面会へ行かん!

「きっと喜んでもらえるだろうな〜」と思いつつも、「看護師さんに見つかったらめちゃくちゃ怒られそうだな〜…」

根本さんにも

「真面目に治療受けてるのになんだよ(怒)」とか言われたり「遊びじゃないって分かってる?」とか言われたらどうしよう、、


テンション高めに買ってみたはいいものの、その後の展開を全く考えていなかったので

「買った後の反応くらい考えとけよ…」と自分にツッコミ入れつつ…

でもまぁちょっとでも根本さんがテンション上げて喜んでくれたらいいな…と思い、チャリをこぐこぐ。

考え事をしているとあっという間に病院なんですよね。何も考えなくても足が部屋を覚えてるから、病室に無事に到着。

「コレはだめだね」

って万が一言われたら!?

「だよねー!」って笑って、メルカリに出せばいーや!!これから本格的な夏だしきっと売れるでしょ!!!

と、よっしゃ割り切れると確信したところで

「おーい!来たよー!」

とニコニコしたわたし参上。  


洒落がわかる男

無菌室に一人だと、わたしそのものも1つのエンタメになれるのです。毎日行くのに飽きずに喜んでくれてうれしい。


無菌室に入るためのあれやこれやを丁寧にして入室。→手洗い2回、アルコール消毒、手袋・ガウン・マスク・帽子をして靴を履き替えてやっと入室。

洗濯物を渡して収納してもらう間に、様子見トーク。

わたし 「やっぱお風呂入りたいよね〜?」
根本さん「そりゃ入りたいでしょ」

だよね〜、すごい気分転換になるもんね〜
そうだよ、毎日風呂に入れてる人はマジ感謝した方がいいよ。

(わたしの風呂嫌いを暗に責めてるな…)苦笑
俺、毎日シャワー2回浴びてたのにな…遠い昔のことだよ…

そんなあなたに!ジャシャーン!!!!
……子ども用………ビニールプール…(察した)


「ふはははははははは!!いいじゃん、面白い!入りたい!」爆笑


さすが根本氏。洒落が分かるヤツだぜ。(ほっ…)

そして遅ればせながら「青と黄色の空気入れ」を差し出すニヤケたわたし。勝った。なんか勝ったぞ!!

そこからはそのビニールプールをどう安全に使うかという真剣トークに。(久しぶりのただただ楽しい前向きなトーク!)

・いつ使うか
・何時から何時までは看護師さんが来ない時間か(要リサーチ)
・ビニールプールにお湯を溜める方法を考察
・危険を絶対に侵さないためには?
・部屋の湿度を上げない工夫
・入り終わった後のお湯の処理はどうするか
・シャワーがだめな理由をとことん考えて、NGなことを完全に把握する
・排水に必要な洗面器をユニディで買う


考えるのがめちゃくちゃ楽しい。なんだこのワクワク感。根本さんが笑うのがいい。頭ツルツルで大変なはずなんだけど、なんか楽しい。

治療中に「楽しい」って思ってもいいんだ…(感涙)


数日話す内に【絶対に安全に入れるためのルール】ができたので、晴れた天気のいい日の17時から試してみることに。


で、空気を入れてみてびっくり!

めっちゃ小さい!wwwwwwwww


でもその小ささが後々考えると逆に良いんですが、印象はヤバかった。本当に子供用だった。しかも多分乳児くらいの子供用…

ビニールプール、買ったことがないからまちがった……(もはやネタになればいいや、と、開き直る)


ルールを作る楽しさ

さて、入るためのルールはこちら!

・腕のカテーテルの部分が汗で絶対に濡れないように、予め布で保護しておいてすぐに吸水させるようにする

・プールに直接お湯を入れると不衛生。繰り返しプールを使うために超巨大なビニール袋をプールの中にセットして、お湯はそこに入れる(体もそこに入れる)

・看護師さんに心配をかけないように、転倒などに厳重注意(そして見つからないように)

・室内の湿度を上げないために、ビニール袋の口は広げたままにしない

・お湯の温度に注意

・いくら気持ちが良くても一人では入らないこと

以上!


入ってみた


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さぁ、いかがですか!
この満足げな表情!(おいしそうなカツ丼食べてる)

めっちゃちっちゃいビニールプールでビニールに溜めたお湯に入る半身浴中の根本さんです!

場所は必然とココになるんですよね〜。

なぜならば洗面台から水を流すから。(ホースも無いから、流しそうめんの台みたいにお湯が流れるようにビニールを持って、ひたすらお湯を溜めるため)

トイレ、近っ!と思われたと思うんですが、無菌室ってこんな感じです!
トイレはもはや日常風景。なんの違和感もない。

さらに言うと「トイレちゃん、そこに居てくれてありがとう」と愛おしくなります。プライバシー的にはアレですが、近くにあると便利なのは間違いないですね。


無菌室にいると汗をかくっていうことがどうしても少なくなるんです。


初夏で外が暑くてわたしが汗だくでお邪魔しても、病院内はいつも快適温度。なのでこの【半身浴で汗が出る】という体験が


めちゃくちゃ気持ちいい


らしいんです。wwwwwwww

そして半身浴中に夕飯の時間となり、わたしが食事を受け取ってそのままご飯食べることに。そしてこの写真が撮られました。

いやしかし何度見ても笑えるなぁ、この写真。
ビニールプールの小ささと、根本さんのお坊さんフェイスのかわいさよ。


あとがき

入院中で一番楽しかったのって、この光景を眺めているときだった気がします。根本さんが喜んでくれて「気持ちいい〜」とリラックスしてくれたのが、本当に嬉しかった。


友人にこのことを話しても「不謹慎だ!」と言う人はいなくて、「二人らしいね」と笑ってくれたのもまたよかったです。否定しないで居てくれて、いつもありがとう。


当時、目の前には「骨髄移植」という、強風と大雪でてっぺんが見えないエベレストみたいな山が立ちはだかっていたのですが、

真剣な顔して緊張したまま歩いてしまうと苦しくて、一人でいるときは泣きじゃくって日常もあったもんじゃなかったけど

せめて二人で過ごせる時間は、特別に、スペシャルに、


【人生はエンターテイメント!


と、少しオーバーに感じたくって、無菌室で不謹慎プールしてしまいました。


(医療従事者の方が知ったら怒られるかな、ごめんなさい。もしかしたら看護師さん、気付いてらしたかな……ビニールプールはベッドの下に隠してたから…………多分気付いてますね………………)


おわりに

これからも笑いながら泣きながら、毎日を過ごしていきたいものです。辛い過去もエンターテイメントだ!と思える日が来ることを願って。


◎今も毎日、医療者の方への尊敬の念と感謝、そして治療が確立されるまでに治験に参加してくださった多くの方に心から感謝をしています。闘病中もずっとサポートしてくれた友人の健康もグッと祈っています。朝晩、神棚へ向かいながら。


最後まで読んでくださり
ありがとうございます!


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