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専門性を組み合わせて世の中に新たな価値を提案していける人材に|八塚 敦輝 氏(PhD)

2020年3月卒業
現職:日本たばこ産業株式会社 たばこ中央研究所(R&D部門)

2020年3月に卒業し、日本たばこ産業株式会社 たばこ中央研究所(R&D部門)に入社。NAIST時代は、中枢神経系に存在する多様な神経細胞やその前駆細胞がどのように生産されて、どのように正確に配置(パターン形成)されるのかという分子機構の解明を行う。現在はたばこにおいて至上命題の1つ、加熱式たばこの味香りや心理学的な付加価値などを、様々な分野の研究からアプローチ。そんな八塚さんにお話を聞きました。


将来なるなら大学の先生に!

幼い頃から動物や生物学に興味を持っていました。高校生の時、進学先を考える機会があり、その時に出された職業一覧を見て大学の先生がいいなと思ったのです。そのためには博士号が必要だと思い、大学入学時からドクターに進むことは決めていました。学部生の時にバイオサイエンス研究科の稲垣先生の研究室で1か月の受け入れインターンに参加して、いいところだなと思い奈良先端に進学しました。好きなことを仕事にするということに憧れていました。

鍛えられた論文発表

博士後期課程では海外学会での発表なども良い経験ですし、何と言っても論文を出すというところですよね。ドクターまで進学したのであれば、論文の1本ぐらいは出しておきたいという多少プライドもありました。ただ、まだ世に知られていない何か自分の手で見つけたものを発表するっていうのは、一筋縄ではいかないなと痛感しました。雑誌社に論文を送ると、ここがダメだとかこういう実験が足りないとか色んなコメントが来て、そしてそのコメントに答えて再度送るというやり取りを繰り返すのですが、実際にはコメントがあればまだ良い方で、コメントもなくリジェクトされることもあるわけです。私の場合は1社目に論文を送ったらリジェクトされて、でもコメントがついていたのでチャンスはあるなと思い、リクエストに答えた実験を行い、データなど追加して再送したら、またリジェクトですと返答が来ました。であればということで他の雑誌社に出してみたら、また新しいコメントがつくわけです。1度や2度ぐらいだったら何くそって頑張れるのですが、自分としてはもう成果出ているじゃないかと思っている中で、このやりとりが重なってくると結構根気がいりましたね。1年間ぐらいそのやり取りをしていましたのでいっそう。そういう意味では非常にメンタルも鍛えられたと思います。しんどい時期ではありましたが、他の研究室の同級生との議論だったり、みんなで料理を楽しんだり、ゴルフの打ちっぱなしに行ったり、リフレッシュすることもできました。そういう意味ではよい仲間に恵まれて、楽しい生活が送れていたと思います。最終的にDevelopmentという学術雑誌に論文が掲載されたことは博士課程における大きな成果の一つです。

「自分が1番専門家じゃなければならない」気づかされた教授の一言

ドクターに上がると自分のやっている研究に対する責任が、一段階も二段階も上がる気がしましたね。修士の頃は良くも悪くも教授からの研究テーマがあって、それに対して実験をして、自分で多少考えて考察して話すということはしてきていました。しかし、博士後期課程では、教授に研究について指摘されたときにどれだけ議論ができるか、教授の指摘に納得するだけじゃなくどれだけ自分の考えを述べられるかが、より一層大事になりました。教授には口酸っぱく言われましたが「その分野で、自分が一番専門家じゃなければならない」と。自分の研究テーマに対する責任は教授ではなく、自分にあるのだと強烈に感じました。その感覚は会社でも同じだと思っています。与えられた仕事に対して、自分が一番専門家でないといけない。上司がどうだとかではなく、自分のミッションとして。

知らない人と気軽に議論していた奈良先端での経験が今役立っている

今は企業の研究職をしていますが、基本的にはもうバイオロジーはやっていなくて、専門外の研究をしているのですが「仮説、検証、考察のループ」を回すということは変わりません。またドクターまで出ているということで、正しくそのループが回せるという周りからの信頼もあります。あと、私は喫煙者なのですが、奈良先端の喫煙所で、他のラボの授業の先生や他のラボの先輩とか後輩とかいたりして、知らない人と知らない専門の議論を気軽にするっていうことは、仕事でも非常に活きています。会社に入って、自分の興味がある研究ばかり続けられたらいいのですが、自分の専門性のないところの研究をする時や、幅を広げる必要がある時に、 知っている人に軽く聞くとか、サッとコミュニケーションが取れるということが大事で。あとは奈良先端には留学生も多いので、英語で話しかけられることもしばしばあって英語に対する抵抗感も減りましたし、コミュニケーションを気軽にすることの訓練になっていたのかなと思います。

「なんでもやっていたら楽しくなってくるもの」そんな視点で将来を模索

就職活動は自分のペースで時間を取れていたと思います。奈良先端に入学したとき、博士後期課程卒業は5年後なので先が見えないなと思って、修士の時にどれだけ頑張るかが大事だと考えて、結構必死に研究に取り組みました。そうすると多少研究の骨格と言いますか、ストーリーが修士の時に組めてきて、ドクターになった時には見通しが立つ段階にはなっていたので、D2の夏ぐらいに就職するか大学に残るかも含めて、企業を知っておこうというつもりで就職活動をはじめました。正式に受験をしたのは3社で、JT他、製薬メーカー、コンサルティング会社と見ました。馬が合うところというと非常に感覚的にはなってしまいますが、面接や社員さんと話すことによって肌に合う合わないが分かりました。自分の研究領域からして王道でいけば製薬メーカーなのかもしれませんが、私の感覚では大学の研究と会社に入ってからの研究は、やりたい事だけをやり続けるのか、そうじゃないのかというところで大きく違うだろうと考えていたことと、加えて私自身性格上、なんでもやっているうちに楽しくなってくるというのがありまして、仕事内容はもちろん大事ですが、一緒に働く仲間と馬が合うところなら良いなと思っていました。あとはJTに決めた理由としては、たばこが転換期を迎えているということも興味が駆り立てられていたからです。扱っている商材がたばこというそもそも特殊なものであり、紙たばこから加熱式たばこが出てきて、例えるなら携帯電話業界にスマホが出てきたっていうぐらいの転換期を迎えていて、研究要素も多分にあるだろうと思って決めました。思い返すと、私が入学した時に笹井先生のLabが奈良先端で初めてできまして1期生で、博士後期課程に進学したこともあって、多くの後輩を見送ってきました。ドクターに進むと後輩の修士の子たちがES見てくださいと言ってきて、たくさんES添削しましたね。それも自分の就活へのノウハウになっていたと思います。就職活動の時は、こうやって書けば良いのかとか分かって、今になるとラッキーな経験だったかなと思います。

会社に入って幅広くやれる面白さとマインドチェンジ

今の仕事のやりがいは、やることがどんどん変わっていろんな専門性をたくさん持てるというところだと思います。大学での1つの専門性を持ってずっとそれをやり続けるということとは違い、 会社では、部署移動もあるし、研究の課題とかテーマも変わるし、1つの専門だけにとどまれない。ここは大学と会社の決定的に違うところかなと。実際私は入社した1年目は、大学でバイオサイエンスをやっていたこともあり、嗅覚とか嗅覚の細胞とかの生物学的な研究をやっていましたが、次は健康懸念物質低減というたばこにおいて至上命題の1つのところを化学の研究で行ったり、加熱式たばこの味香りを良くするにはどうしたらいいのかとか、加熱式たばこにどんな心理学的な付加価値をつけられるかなど様々な分野の研究に携わらせていただいています。
入社してからのこの4年だけでも、生物学、分析化学、心理学をやっています。たくさん勉強はしないといけないのですが、幅広くやれる 面白さとやりがいはあります。上司に生物やっていたから、心理学もいけるだろ?と言われたときは驚きましたが…。分子生物学とヒトの心や行動って、1番離れたとこにあると素直に思いましたね。そして会社に入って色んな研究していて思うのは、自分の土俵だけでは到底戦えないということ、いかに自分の土俵を出るかが大事であるかということ。弊社には本当に色んなスペシャリストの方がいて、大学内では出会わなかったような心理学のドクター持っている人、統計学のドクターを持っている人など色々な人がいるので、そういう環境変化もある意味楽しいですね。基本的にその研究に共通である考え方(仮説検証考察)というのは心理学だろうと化学だろうと一切変わらないので、どこを調べて過去にどういう知見があるか、実験系を組むときにどういう情報があったら良いのかとか、この実験に穴はないのか?とかそういった勘所は大学時代に身に付いたものが活かされているなと感じます。あとは、会社に入って、コンプライアンス、法令順守に対しての意識は一層強くなったと思います。決して大学にないと言っているわけではなくて、仕事という意味で 自らの研究だけには専念できませんよというところはあるかもしれないですね。どれだけ面白いアイデア出して、実際いい結果も出してという人がいたとしても、そういうところを守らない人というのは、基本的には信頼をされていかないと個人的には思います。入社してからそういうマインドチェンジがありました。

今後の目標

具体的に表現するのは難しいですが、新しい何かを生み出したいというか提案していけるようになりたいと思っています。今現在、生物学はドクターを持っていて、他には化学とか、心理学とか勉強して専門性を広げているところですが、それをコラボレーションさせて、面白いアイデアを出して、仮説たてて企画するとか、それが会社の目標とかあり方に乗るように、専門性組み合わせて提案していけるようになりたいと思っています。
そのためにも仕事で気を付けていることは、1番はやっぱりコミュニケーションとることですね。躊躇なく知っている人に聞いて聞いて聞くこと、そして話すこと。それが結果につながったり、周りからの信頼に繋がっていたりすると思います。そしてもう一つ気を付けているのがレスポンスの速さですね。日常的なチャットとかでもそうですし、資料は7割で出せとか聞いたことあると思いますが、スピードはかなり意識しています。この先が読めないVUCA時代にアジャイルに何事も早くやっていこうというところに通ずるものがあると思うのですが、たばこ業界も転換期で、デバイスだと1年ごとに新しいものが、スマホのように出たりする中で、 スピードは細かいところから大きいところまで意識しています。

奈良先端大の皆さんへメッセージ

奈良先端は何か1つのことをしっかり集中できる環境だと思います。自分で責任を持って、考えて行動をしていたら、辛い時やうまくいかない時が、就職活動でも、研究活動でもあるとは思いますが、早いうちに一緒に頑張れる仲間を見つけときましょう!奈良先端は学部から連続している大学じゃなく、同じスタートラインに立った仲間がたくさんいる。修士の時も、博士の時も、本当に仲間に助けられました。研究室は違えど、一緒に苦楽を共にする仲間という感じで。あと博士後期課程に行きたいのであれば、是非進学すればよいと思います。実際にPh.D.を持っていることで、信頼されることもたくさんあります。それこそ、研究職に就きたいとかあれば、会社の中でも1つのステータスにもなりますし、博士後期課程は決して簡単な道ではないですが、ひと踏ん張りしてそういう価値を得るっていうのは、研究職として生きていくのであれば、ありかなと思います。


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