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焼肉ホルモンと肉食文化を学ぶ本!読んでおきたい7選

今回は、焼肉ホルモンや肉食文化を勉強してきたなかで、特に影響を受けた本、今後読みたい本をまとめてみた。

これらの本には、焼肉ホルモンの知識だけでなく、肉食文化にまつわる大事なことが書かれている。その理由を、私ならではの視点で語りたい。


1:プルコギ

よくあるグルメ漫画ともいえるが、ホルモンの部位解説や、肉の焼き方、炭火・ガスロースターの違いなど、かなりマニアックかつ専門的に書かれている。肉を扱う者の心構えも学ぶことができる。

この漫画は何度も読み返し、大事なセリフはメモを取り、どこに何が書かれているのか、巻とページ番号をまとめてある。そのぐらい私にとって教科書的な存在だ。

■ 舞台は「九州」

最近、改めて読み返してみると重要なことに気づいた。この物語の舞台は「北九州市・小倉」なのだ。一般的に「焼肉ホルモンといえば大阪」というイメージが強いが、あえて九州を舞台にしている点にも注目したい。

以前、日本のホルモン文化をまとめた記事 を書いたが、私は、九州エリアのホルモン文化が重要な鍵をにぎっていると考えている。

この付近には、セメント袋のホルモン鍋 や、廃材の鉄板を叩いて鍋にした「とんちゃん鍋」など、独特のホルモン文化がある。

いずれも朝鮮半島から船に乗って出稼ぎに渡って来た人たちが、日本で母国の料理を工夫して再現したことからはじまっている。ホルモン文化がどこから伝わってきたかを考えると、九州は重要な舞台なのだ。

そんなことも含めて、読み返すたび、いろいろ発見がある漫画だ。

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2:ネイチャージモン

説明不要の肉の変態・寺門ジモン氏のうんちくが存分に楽しめる漫画。第7巻は「一冊まるごとホルモンだけ」でまとめられている。

相当な焼肉通いをしているマニアじゃないとこだわらないような部分にも切り込んでいて、第1巻では「ホルモンは何曜日がウマイのか」という話題にも触れている。これはホルモン巡礼をする者にとって重要なテーマでもあるが、店のことを考えると言いにくい話でもある。それをズバリ言えてしまうのが、ジモン氏だからこそだろう。

■ ホルモンは何曜日がウマイのか

ホルモンは実にナイーブな食材だ。鮮度によって、味が天国から地獄まで激変する。いくらおいしい店でも、イマイチな日は意外とある。

「朝じめ」を看板に掲げる店もあるが、それは豚の話であって、牛の場合は事情が異なる。この漫画が描かれた当時(2010年前後)は、国産牛のBSE検査が行われていた。と畜した牛は、食肉市場で一時保管し、検査結果がわかる翌日に出荷されていたのだ。

当時、わたしも気になっていた

つまり「市場が休みである土日に流通が止まるので、新鮮な肉は月曜日に並びにくい」という話だ。私がよく行く焼肉店は、月曜が定休日だった。あえて月曜日を休みにしていたかどうかはわからないが。

ちなみに、2017(平成29)年4月1日から、健康牛のBSE検査は廃止されている。それなら「朝じめの牛」が復活したということなのか?

これについては、2019年に、品川の食肉市場に行き、担当者に直接質問したことがある。「BSE検査は廃止されても、福島第一原発事故の関係で、牛肉の放射性物質検査も行っている(当時)。やはり牛に関しては、検査結果が出るまで、1日保留を行なっている」との回答だった。

あれから時が経ち、令和2年3月31日、牛肉の放射性物質検査も終了した。今度こそ「朝じめの牛」が復活したのか? また、食肉市場で聞いてみよう。ネイチャージモンは、長きに渡って、すごい宿題を与えてくれた。


3:被差別のグルメ

ホルモンと肉食文化の勉強をはじめた頃、最初に買った一冊。「さいぼし」や「あぶらかす」などのご当地ホルモンの存在を初めて知った本だ。

被差別地域で誕生し、隠されながら食べられてきたローカルフード。これらのホルモン料理は、チェーン店によって日本の幅広い地域で食べられるようになった。何も知らない地域の人たちにとっては「未知で目新しいご当地ホルモン」でしかないのだ。昔とは異なり、差別的なイメージもなくなりつつある。おいしいから食べる。それだけだ。

それでもホルモンは「複雑な背景から生まれた食文化」であることは理解しておきたい。この本で、もっとも印象に残っているのは、以下の部分だ。

「内臓食の歴史は、日本の食文化を解析し理解するためには重要なテーマの一つである。そのうえ、資料は豊富に残されており、研究を進めるのにそれほどの困難はない。偏狭な差別意識を廃し、歴史の空白部分となってきた内臓食史の研究に取り組む人が、一人でも現れることを願ってやまない

第五章 焼肉 ー 在日と路地

これは、日本の焼肉文化を追求してきた研究者・佐々木道雄氏の言葉であるが、肉食文化・ホルモン文化を語ることの難しさがひしひしと伝わってくる。時代は変わりつつあるが、まだまだ簡単なことじゃないかもしれない。


4:牛を屠る

ホルモンや肉食文化を学び、食肉市場に足を運ぶようになった当初出会った本。「屠る(ほふる)」という言葉、読み方を初めて知った。聞きなれない言葉なのは、放送禁止用語だからだろう。

「屠る」には、“動物のからだを切りさく”、“生命を奪う”、などの意味がある。屠畜(とちく)の「屠」という文字だ。

この本は、著者が作家になる前に10年間勤めていた埼玉県の食肉市場「大宮市営と畜場」での話だ。2001年まで働いていたそうなので、まだ、現在のような近代化されていない90年代頃の食肉市場の様子が書かれている。

■ 埼玉の食肉市場

日本最大級の食肉市場は、東京・品川にある「東京食肉市場」(通称芝浦)といわれているが、埼玉の食肉市場やホルモン文化は、個人的に注目している。埼玉は、牛より豚が強く、豚の取り扱い頭数も芝浦より多い。

各市場の解体処理能力
東京食肉市場(品川):牛600頭/日、豚900頭/日
さいたま市食肉中央卸売市場:牛250頭/日、豚1,000頭/日

東京食肉市場「お肉の情報館」/ さいたま市食肉中央卸売市場

埼玉は、東松山市の「やきとり(豚カシラの串焼き)」や、秩父市の「豚ホルモン」でも有名だ。豚が強い、ということにも納得できるだろう。

私が敬愛する東京下町の焼肉店は、かつて先代が、大宮の食肉市場まで肉の仕入れに出かけていた。特別なコネがあったそうだが、芝浦ではなく、あえて「埼玉」だったことに注目している。

卸業者さんしか入れないところを、包丁を持って抜け目なく歩きながら、好みの部位を自分で切って持ってくる。普通の肉卸店が扱わないような部位を、バケツにどっさり仕入れていたそうだ。

この店は、とんでもなく新鮮でウマイ豚内臓の刺身を提供している。時代も変わり、市場のシステムも仕入れ方も変わっていると思うが、当時のホルモン魂を受け継いでいることには違いない。


5:焼肉の文化史(焼肉・ホルモン・内臓食の俗説と真実)

日本の焼肉文化を追求してきた研究者・佐々木道雄氏の著書。先に紹介した焼肉漫画『プルコギ』では、参考文献として登場。『被差別のグルメ』では、内臓食文化の研究に対する佐々木氏の思い(この記事の「3」参照)が紹介されている。

焼肉という食文化はどこから来たのか。
肉食文化を学ぶ者なら、読んでおきたい一冊。


6:カワサキ・キッド

元ジャニーズアイドル東山紀之氏の自伝エッセイ。極貧だった少年時代や、差別に対する思いなどが語られている。発売は2015年。ジャニーズ問題が表面化する以前の時代だ。当時の感覚では、元アイドルがここまで書いてしまって大丈夫なのか、と思うくらい、ものすごく衝撃的だった。

東山氏が少年時代に住んでいたのは、神奈川県川崎市にある、桜本のコリアンタウンだ。近所には、日本名を名乗り、焼肉店を営む朝鮮半島出身の母子が暮らしていた。貧しかった東山氏は、妹と一緒に、毎日のように豚足を食べさせてもらったそうだ。

「この街に戦前、朝鮮半島から来た人々が多く働いていたのも日本の重工業を基底で担っていたからだ。僕が幼いころは『ヨイトマケの唄』のように『エンヤコーラ』の掛け声に合わせて、泥の中でランニング姿で滑車の網を引いたり、ツルハシをかざしている人たちの光景をあちこちで目にした」

川崎市にもホルモンの名店が多いと聞いた。朝9時まで営業している店もあると知り、何かルーツがありそうだとは思っていたが、労働者の街ならではのホルモン文化があるのかもしれない。

このエッセイでは、芸能界デビュー後の話も登場するが、常に「差別」や「弱者」「マイノリティ」に対する強い思いが語られている。

「日本のスポーツ界にも多くの外国人の血が流れている。芸能界でもさまざまなルーツの人々が活躍している。それでこそ豊かな文化が花開くのだと思う」

食文化も同じだ。朝鮮半島からホルモン文化が伝わってこなかったら、いまの焼肉文化は、存在していないかもしれない。


7:夜を賭けて

伝説のホルモン料理「セッキフェ」を食べるシーンが出てくると聞いて、読んでみたいと思っている小説。先に紹介した『被差別のグルメ』の著者、上原善広氏のインタビュー記事で知った。

「梁石日さんの小説の中で、戦後、大阪の兵器工場の跡地から鉄を掘り出す、当時「アパッチ族」と呼ばれた在日コリアンのことを描いた『夜を賭けて』という有名な小説がありますが、闇の中で金属を掘り返して川を渡って帰ってくるというすさまじい労働のあと、男たちがマッコリをがぶ飲みしながら、セッキフェ──豚の胎児を生のまま叩きのようにしてコチュジャン等で味付けしたもの──を喰って、英気を養うというシーンが出てくるのですが、そういった血のしたたるような臓器を酒といっしょにむさぼり喰うと全身に力が漲ってくるかんじは伝わってくる。」

「グルメと差別」をノンフィクション作家・上原善広さんに聞きにいく・下

「セッキフェ」とは、豚の子袋のなかに入っている胎児、まさにこれから産まれようとしていた姿のものを、生のままタタキにして食べる料理だ。聞くだけでもおぞましいが、私が愛してやまない東京下町の焼肉店が、かつてこれを出していた。昭和45年頃の話だと思うが、全盛期の人気メニューだったらしい。

セッキフェは、済州島の郷土料理だ。豚を大量に屠畜したとき、何匹かは妊娠したままの豚がいるので、その腹子(胎児)を使用する。胎児を刺身のタタキにして、羊水とユッス(肉水・朝鮮半島古来の肉スープ)、酢醤油でのばして食べる。羊水にはうっすらと塩味があって、無菌状態なので生で食べても安全なのだとか。

セッキフェは、10cmぐらいの大きさのものが、おいしいらしい。食感は「脂の入った、ひんやりしたトコロテンのようだ」と表現される。一頭の豚から多くても7〜8匹しか取れない希少部位だ。

食品衛生法などの関係で、現在の日本では、セッキフェを提供する店はないだろう。ただ、私が信仰する焼肉店の伝説のメニューだ。私にとってセッキフェは、探し求める「青い鳥」のような存在なのだ。


肉食文化は、語ることが難しい

ホルモンや肉食文化を語る場合、必ずナイーブな問題にぶつかる。基本的にタブーとされていることはあまり語られないし、語ることが難しい。

焼肉ホルモンの歴史と肉食文化は、少ない情報をもとに、いろいろなことを調べ、つなぎあわせてはじめてわかることが多い。これらは、その作業のヒントとなった本でもある。

noteでは、私が調べてきたこと、学んだことをまとめているが、ひとつの記事にするには、まだまだ未完成なテーマもある。だけど、どこかに書き記しておきたかったことを、すぐに思い出せるようにまとめてみた。

今後、深堀りしていけば、わからなかった情報が、どこかでつながるかもしれない。自分の成長によって、新たな視点が生まれるかもしれない。そのときにまた、この記事を振り返りたい。



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