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事業者団体

第2 事業者団体

1 定義
(1)事業者の定義 2条1項「その他の事業」とは何か
 最高裁は「何らかの経済的利益の供給に対応し反対給付を反覆継続して受ける経済活動を指」すとし、一定の経済活動に対して反対給付(内容が均衡する必要はない)を受けていればよい。
(2)事業者団体の定義
 独禁法は、事業者団体を「事業者としての共通の利益を推進することを主たる目的とする二以上の事業者の結合体又はその連合体をいい、次に掲げる形態のものを含む」と定義する(2条2項)。
 ①共通の利益を増進するという主たる目的は、団体であれば通常満たされる。
 ②事業者の結合体又は連合体であるから、弁護士会を例にすれば、二以上の事業者が結合した単位弁護士会、二以上の結合体の連合した日本弁護士連合会は事業者団体となる。
→同業者の従業員で構成する団体の場合の論証例
「末広会のメンバーである同業者の営業部長は、それぞれ勤務する事業者の利益のために行為を行っていると評価でき(独禁法2条1項2文)、したがって末広会は「事業者としての共通の利益を増進することを主たる目的とする」事業者団体にあたる。」

2 事業者団体に対する規制
 8条は、「事業者団体は、次の各号のいずれかに該当する行為をしてはならない」とし、「一定の取引分野における競争を実質的に制限すること」(1号)、「第6条に規定する国際的協定又は国際的契約をすること」(2号)、「一定の取引分野における現在または将来の事業者の数を制限すること(3号)、「構成事業者…の機能又は活動を不当に制限すること」(4号)「事業者に不公正な取引方法に該当する行為をさせるようにすること」(5号)とする。
(1) 競争の実質的制限(8条1号)
 8条1号は、事業者団体が「一定の取引分野における競争を実質的に制限すること」を禁止する。事業者団体が主体となって、構成員間での価格カルテルや入札談合を行う場合が典型例である。事業者団体において価格カルテル、数量制限カルテルを行った事例や、共同の(間接の)取引拒絶を行った例がある。
→競争の実質的制限とは「競争自体が減少して、特定の事業者又は事業者団体が、その意思で、ある程度自由に、価格、品質、数量、その他諸般の条件を左右することによって、市場を支配することができる状態をもたらすことをいう」(百4 東宝スバル)
→1号は、「競争を実質的に制限する」とだけあり、不当な取引制限における共同して、相互拘束(2条6項)等の行為要件については限定していない。したがって、事業者団体がカルテル、入札談合などの不当な取引制限(2条6項、3条後段)に該当し、協同組合がその組合員にカルテルをさせれば事業者団体の行為(8条1号・4号)に該当する。
→なお、事業者団体規制においても課徴金制度が用意されている(8条の3)。課徴金対象行為は、不当な取引制限に相当する行為に限られ(同条第2・第3かっこ書)、私的独占に相当する行為は含まれない。

【百35 団体の行為と共同行為の区別】
「独禁法上の処罰の対象とされる不当な取引制限行為が事業団体によって行われた場合であっても、これが同時に右事業者団体を構成する各事業者の従業者等によりその業務に関して行われたと観念しうる事情のあるときは、右行為を行ったことの刑責を事業者団体のほか各事業者に対して問うことも許され、そのいずれに対し刑責を問うかは、公取委ないし検察官の合理的裁量に委ねられる」

【百36 事業法上違法な取引条件に係る価格カルテル】
「道路運送法に基づき認可された幅運賃を下回る事業者団体の価格協定に独禁法が適用できるか否かを検討する場面で、道路運送法の関係規定が当然に独禁法の関係規定の内容、趣旨を規定し、拘束するものではなく、この問題はもっぱら独禁法の見地から判断すべきである」
「最低運賃協定に関して独禁法上の排除措置を命ずることができるか。通常であれば、「一定の取引分野における競争を実質的に制限」しているとされる外形的な事実が調っている限り、原則的に同法3条、(2条6項)または8条1号の構成要件に該当すると判断されるが、その価格協定が制限しようとしている競争が、刑事法典、事業法等の他の法律により刑事罰をもって禁止されている違法な取引に係るものである場合に、このような価格協定行為は、特段の事情のない限り「競争を実質的に制限すること」という構成要件に該当せず、したがって同法による排除措置命令を受ける対象とはならい。」
「なぜならば、独禁法の目的をも考慮してみると、これらの場合には、他の法律により当該取引又は当該取引条件による取引が禁止されているのであるから、独占禁止法所定の構成要件に該当するとして排除措置命令を講じて、も、確保されるべき一般消費者の現実の利益がなく、また、国民経済の民主的で健全な発達の促進に資するところがなく、公正かつ自由な競争を促進することはならず、特段の事情がない限り、その価格協定を取り上げて同法所定の「競争を実質的に制限する」ものに該当するとして同法による排除措置命令を受ける対象となるということができないからである。
「特段の事情のある場合の典型的な例として、当該取引条件を禁止している法律が確定した司法部における判断等により法規範性を喪失とき」であるが、その他に「事業法等他の法律の禁止規定の存在にも関わらず、これと乖離する実勢価格による取引、競争が継続して平穏公然として行われており」、かつ、「その実勢価格による競争の実態が、独占禁止法の目的の観点から、その競争を制限しようとする協定に対し同法上の排除措置を命ずることを容認しえる程度までに肯定的に評価される」場合である。

(2)国際的契約・協定(8条2号)
重要性低いので割愛

(3)事業者の数の制限(8条3号)
→8条3号は、「一定の事業分野における現在または将来の事業者の数を制限すること」を禁止する。事業者団体が入会制限を行うような場合に問題となる。3号には4号のような「不当に」といった要件はない。しかし事業者団体が入会制限をすればつねに3号に該当するわけではない。医師会に加入しないと開業医となることは一般に困難な状況にあるといった事情(関係行政機関からの通達等、医療・社会保険に関する情報提供等の便宜を受けられず、診療面で他の開業医の協力を認めがたい等)がなければ、医師会に加入しなくても開業医という事業分野で事業を行うことができ、「数の制限」の要件を満たさないし、独禁法が公正かつ自由な競争の促進を目的とする(1条)ことからも、3号が適用されるのは市場における公正かつ自由な競争の促進が妨げられるような場合に限られよう。
 3号は「一定の取引分野」ではなく、「一定の事業分野」とする。これは一定の取引分野のような市場(取引の場)を意味するのではなく、相互に競争関係にある供給者群又は需要者群のいずれか一方の事業活動の範囲を意味するとされる。一定の取引分野の画定より簡便。
3号では、「一定の取引分野における競争を実質的に制限」しなくてもよい。3号該当行為が、一定の取引分野における競争を実質的に制限すれば3号ではなく、1号が適用される。

【神奈川県LPガス事件 令和2年3月26日】
「一定の取引分野における競争の実質的制限に至らなくても、競争政策上看過することができない影響を競争に及ぼすこととなる場合を対象としていると解するのが相当」

【百37 医師会による医療機関の開設・診療科目等の制限】
 原告たる観音寺三豊群医師会は、昭和54年の理事会において、医療機関の開設等および病床の増設をしようとする者は、香川県知事に対する許可申請又は届出に先立ち、あらかじめ原告に申出なければはならないとし、その可否について審議するため、相談委員会の設置等を決定し、実施することとした。その後、その審議対象を会員が標榜する診療科目の追加、医療機関の増改築、老人保護施設の開設に拡大することを順次決定した。
 原告は、原告の行為は、「よりよい地域医療の実現のための合理的な行為」であり、会員に対し意見を述べたにすぎず、しかもこれは県に協力して行い、医療計画制度の趣旨に即したものであり、独禁法に違反しないと主張した。これに対し東京高裁は、「原告は、もっぱら医療法所定の『医療を提供する体制の確保を図り、もって国民の健康の保持に寄与すること』を目的としてではなく、会員の既得利益の保護ということを主たる目的として審議システムを運用してきている」。「原告の審議システムは単なる情報提供・助言・指導の域を超えて事実上の強制になっている。したがって、原告の審議システムは、目的態様において医療法に定める医療計画制度の趣旨を逸脱して」おり、独禁法8条3号・4号違反との認定は相当である」。
 当該団体に加入しかければ当該事業分野に新規参入することが「不可能又は著しく困難であるという状況」といえるか。
 これに対し裁判所は「本件において独禁法違反が問われているのは、医師会への加入制限そのものではなく、医療機関の開設等の制限である。原告に加入できない又は除名されるということが医療機関の開設等を事実上抑制する効果を有するか否かが問題である。原告に加入できない又は除名されるということが医療機関の開設等を事実上抑制する効果を有するか否かが問題である。医師会の会員でなければ開業することが不可能又は著しく困難であるという状況にまで至らなくても、医師会の会員でなければ開業することが一般的に困難な状況があれば、原告に加入できない又は除名されるということが医療機関の開設等を事実上抑制することは明らかである。本件はこのような状況である」。

【百38 制増設部の買い上げ等による事業者の数の制限】
「滋賀生コン工業組合は、独占禁止法第2条第2項に規定する事業者団体に該当するところ、非組合員の生コン製造設備を買い上げ廃棄するとともに買上に際し今後生コンの製造販売を行ってはならない旨の条件を付し、又は非組合員による生コン制増設備の設置を中止させるなどにより、滋賀県の生コン製造業の事業分野における事業者の数を制限しているものであって、これは同法第8条第1項第3号の規定に違反するものであり、また、滋賀生コン工組は、生コン協組をして、不当に、建設協組の組合員に対し、生コン協組の競争者と生コンの取引をしないことを条件として当該相手方と取引させるようにしているものであって、これは、事業者に不公正な取引方法の第11項に該当する行為をさせるようにしているものであり、同法第8条第1項第5号の規定に違反するものである。」

(4)構成事業者の機能・活動の不当な制限(8条4号)
 8条4号は、「構成事業者(事業者団体の構成員である事業者をいう。以下同じ。)の機能又は活動を不当に制限すること」を禁止する。
 事業者団体は団体である以上、何らかの内部的規律として機能・活動を制限するのが一般的である。では、「不当に」とされるのはいかなる場合か。「不当に」の意味についての確立した考え方はない。けれど、競争を実質的に制限するとまではいえないものの、競争政策上看過できない競争への悪影響(反競争行為)があるものと解釈できる。「不当に」の多くは、不公正な取引方法にいう「公正な競争を阻害するおそれ」(公正競争阻害性)(2条9項6号)特に競争減殺ないし自由競争減殺に相当するという見解がある。「不当に」とは公正競争阻害性を意味する。
 4号該当行為にはいくつかの類型がある
①価格を直接に制限する行為であるが、参加者の市場シェアが少なかったり、アウトサイダーの競争圧力や取引相手の交渉力を見誤るなどして調整に失敗したり、価格引き上げに失敗するなどし、競争を実質的に制限したといえないものである。1号に該当せず4号に該当する。
②数量、取引先、販売方法などの競争手段を制限する行為であるが、競争を実質的に制限するとはいえず、しかし競争政策上看過できない競争への悪影響がある場合である。この競争手段の制限には、取引先制限、顧客争奪の制限、施設の新増設等の制限、顧客争奪の制限、施設の新増設等の制限、広告の制限などがある。

【百39 冷蔵倉庫保管料の決定】
8条4号の違反の成否
「Yによる会員事業者の届出料金の引上げに関する決定は認められるのであって、本件のような事業者団体の価格に関する制限行為は、同一の行為態様であっても、市場における競争を実質的に制限するものであれば、独占禁止法8条1項第1号(現8条1号)の規定に違反し、市場における競争を実質的に制限するまでには至らない場合であっても、構成事業者の機能又は活動を不当に制限するものであれば、同項第4号の規定に違反するものである。
 Yの届出保管料の決定及び周知は、本来会員事業者が自由になしえる届出を拘束・制限するものであるから、独占禁止法8条第1項第4号違反が成立する。」

【百40 社会保険労務士会による広告活動・顧客獲得活動の制限】
 本件は、社会保険労務士会に対する初の排除勧告で、専門職業の団体による構成員の広告活動の制限および顧客獲得のための活動が8条1項4号(現8条4号)違反に問われた事例である。
 排除措置命令として以下を命じた。①Yは、「会員のダイレクトメール、ファクシミリ等による広告活動を制限している行為及び会員が顧客を獲得するための活動を制限している行為を取りやめなければならない。」、②Yは、通知の方法について公正取引委員会の承認を得たのち①に基づいて採った措置を会員に通知しなければならない。③Yは、「今後、会員ダイレクトメール、ファクシミリ等による広告活動を制限する行為及び会員が顧客を獲得するための活動を制限する行為を行ってはならない。④Yは、①~③に基づいて採った措置を公取委に報告すること。

【百41 顧客争奪の制限及び新規参入の妨害】
 「おしぼり協組は組合員の得意先争奪を禁止しているものであり、これは構成事業者の機能又は活動を不当に制限しているのであって、独占禁止法8条4号の規定に反するものである」
 ガイドラインによれば、構成事業者や構成事業者の取引先事業者に特定の事業者に対する商品又は役務の供給の制限をさせるようにすることは、原則として独禁法3号、4号又は5号の規定に違反するものとされている。新規事業者の市場参入による競争者数の増加は、一般に、独禁法の目的である「公正かつ自由な競争」をより有効に機能させる効果を生じさせるものである。したがって、新規参入の妨害行為により、構成事業者間で形成される一定の事業分野において公正かつ自由な競争は阻害されることになり、事業者団体による新規参入の妨害行為の類型に従って、3号、4号、5項のいずれかの規定に一般的に該当する違反行為と考えられる。

(5)不公正な取引方法の推奨(8条5号)
 8条5号は、「事業者に不公正な取引方法に該当する行為をさせるようにすること」を禁止する。
 「させるようにする」は働きかけを行うことをいい、強制を伴うことを要しないと解される。事業者団体が、事業者に対して、不公正な取引方法に該当する行為をさせること(推奨)のうち、当該事業者が構成事業者である場合には8条4号を適用すれば足りるから、5号が適用される多くは被構成事業者を推奨の対象とする事例である。
 日本遊戯銃協同組合事件判決では、事業者団体Yが非構成員を含む問屋と小売店にYの設定した自主基準を満たさない商品を製造するアウトサイダーに対する共同の(直接の)取引拒絶(2条9項6号、一般指定1項)をさせたことが、8条1号及び5号に該当するとされた。

【百42 手形交換所の取引停止処分】
 本判決は、「手形交換を行わない手形交換所を想定できないのと異なり、取引停止処分は手形交換所にとって理論上絶対的に必要な制度ということはできないけれども」としつつ、「手形制度の信用維持を図るという公益目的に資するもの」であり、「我が国経済界において定着した制度である」と述べて取引停止処分制度は独禁法8条(4号および5号)に違反するものではないとした。これに対して、同制度に、当該公益目的を達成するための手段として、取引停止処分制度が相当性を有するかという観点から検討する必要があったのではないかといった批判や、同制度そのものについて何らかの見直しが必要だとする指摘が多く行われている。

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