名古屋で暮らして、すでに数十年になります。名古屋と言ってもかなり広いので、ざっくりで言うと、だいたい南の方に住んでます。

名古屋という街は、ご存じのとおり、よく多くの人たちからいじられてきました。少し昔ですとタモリさん。最近でも村上春樹さんの旅行記や、名古屋を取材したテレビ番組でも、いつもどこか面白く取り上げられています。

当然かもしれませんが、長らく名古屋に住んでいると、その少し笑われたり、変だと言われたりする事柄にまったく実感がなく、自分としては、ごく普通の町で普通の暮らしを送っているのにと思ってしまいます。いったい、どこが変なんだろうと。つまり、それが、ガラパゴス都市と言われる所以かもしれませんが。

有名な赤味噌を使った食べ物や名古屋弁は、だいたい全国的にも知られているので、わざわざここで取り上げませんが、県外から引っ越してきて、名古屋で暮らし始めた人からの感想を集約すると、
「とても暮らしやすいけれど、見事に何もないね」という言葉に尽きます。
「美術館・・・あるね。動物園・・・あるある。繁華街も・・・あるね。空港も・・・近くにある・・・しかし」。

確かに、全部そろっている。他の大都市にあって足りないものはない。だったらなぜだ、どこがおかしい？、しかし、やっぱり「何かが足りない」。

それは、東京や大阪、最近では博多と比べて、町全体として、どこか熱気が足りないせいかもしません。さらに言えば、どこか、さっぱりとしてさびしい感じ。つまり、ギラギラした欲望渦が巻くといった強い熱気が。

そうなった原因に、三大大都市圏と言われる割に人が少ないということがあるかもしれません。しかし、それだけでは、全ての説明がつきません。

そういった感想を言った人に、もっと突っ込んで聞くと、「箱モノを始めとした建物や、有名観光地も、名物も、お笑いなどの文化も、ふと思い出すと、どこかに他にもっと卓越したものが存在していて、名古屋にあるのは全部、その二番手、三番手、の感じがする」と言われました。

具体的には、名古屋城は大阪城に、ナゴヤドームは福岡ドームに、熱田神宮は伊勢神宮に、テレビ塔（昔の名前）は東京タワーに、中日は阪神に、といった感じで、いずれもそれぞれ立派だけど、目を見張るインパクトに欠けるということらしいです。さらに、ひどい人からは、「すべての感動が腹八分」とまで言われました。

それを聞いて、なんというひどい悪口だと思って、むかっとしながらも、同時に一理あるなと納得してしまいました。

確かに卓越した文化も物もないかもしないけれど、必要なものはそろっている。しかし、それだけではなく、そもそも住んでいる人の気質自体がそうじゃないかと。

かつて、戦国時代、尾張の兵は日本で一番弱かったと言われています。言い換えればそれだけ戦闘意欲が薄かったということです。その理由は何となくわかります。木曽川を始めとする三大河川のおかげで水が豊富。作物の収穫量もたくさん撮れ、さらに、海運業も、手工業も盛んである。

住民がそれほどがつがつしなくても暮らしていけるような地域だったのです。

「なぜ、自分たちは戦わなくてはならないの？」そうなるのもごもっともです。これでは、いくら鍛えても強くなるわけがありません。織田信長が兵農分離した理由もよくわかります。

そして、こうした欲がない住民を動かすには、もっとそれらしい大きな欲で無理やり掻き立てるしかありません。「天下布武」とか、「立身出世」、とか「太平の世」などなど。

そして、それはそのまま、三英傑（徳川家康は三河ですが）の理想に当てはまります。そういったものがないと、名古屋人は決して動こうとせず、勝手気ままに、のんびり過ごしてしまうのかもしれません。

それと同時に、かつて三英傑に欲望を煽られた名古屋人たちは、そのまま、日本全国に散らばっていきました。

つまり、名古屋人の気質は、そのまま日本人の気質になったのかもしれないないのです。変な意味での日本統一。というのも、世界の中で見た日本の特色は、さっきあげた他の大都市と比べた名古屋にそっくりだからです。

ちょっとこじつけかもしれませんが、要するに「何もないけど、暮らしやすい」という評価は、悪口に聞こえても実は最大の誉め言葉で、どれだけすばらし観光名所や、建物があったとして、渋滞もなく、地域の不況もなく、満員電車もないような暮らしを送れる方が勝っているという証左だということです。

と、まったく、歴史的考証もなく思いつくままつらつらと書かさせていただきました。ご容赦ください。

ではまた