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「BE FREE!」を読んで自由になれた気がした

初めて会った人に、人生を左右した本や人を何でもいいから五つだけあげてくださいと、必ず聞いていた時期がありました。選んでもらうのは有名人でも、歴史上の人物でも、本の登場人物でも漫画でも何でもありです。

だいたい、五つを上げてもらうことで、相手の人間像が何となくぼやーっと見えてくるからです。経験上三つでは少ないです。十個では適当になりがちなので、五つぐらいがちょうどいい思っています。

そして、聞いた以上は、当然自分も聞き返されることになるのですが、その五つ(残り四つは別の機会に)はこの何十年間ほとんど変わっていません。

その中一つに『BE FREE!』という漫画が入っています。

これは、江川達也氏のデビュー作にして、当時の話題作(エロ漫画としても)でした。ストーリーは高校を舞台にした学園物で、新任の数学教師(作者の江川さんも名古屋の元中学校講師)が、とある進学校に臨時教員として赴任してきて、トラブルを巻き起こすというものです。

なぜ、この漫画が人生を変えたかというと、当初は単なる破天荒な教師が巻き起こすドタバタ漫画だったのですが、やがて当時社会問題になっていたいじめや、おちこぼれなど学校に起こるありがちな問題を、その教師がとんでもない方法で解決していくのです(似たような、とんでもない方法で問題解決する学園漫画に『ドラゴン桜』がありますが)。その方法がとにかくスカッとするものだったのです。

金八先生のように、ありきたりの道徳論や、人生論を振りかざして解決するのではありません。

時には教育委員会(学校側)とぶつかっても、モラルに反しても、生徒本人の個性に寄り添った方法を採るのです。周りの先生や生徒、頼った当人ですら困惑するのですが、最後は先生を受け入れて感謝するようになります(本当の先生として)。

そこには、学校というシステムに対する批判やアンチテーゼが、ふんだんに含まれていますが、当時、リアルタイムに生きていた自分には、その内容は心から共感できるものでした。

しかし、これだけでしたら、ありきたりの学園ものとして、人生を変えた五つにはノミネートされなかったでしょう。

やがてこの主人公の教師はやがて、おちこぼれ(実はそれぞれ隠れた特殊技能を持っている)を集めたクラスの担任となり、このクラスをばねにして学校全体を変えていきます。そして最終的に校長(いずれは総理大臣)になるのですが、校則も、カリキュラムも時間割もない、まさに自由な学校を作ります(同時に無軌道でもない)。

かつて、ガチガチの進学校だった頃に、生徒に人気はありましたが、厳しい校風になじめず、スミに追いやられていた中年の教師が、自由になった学校の中で、こうしみじみとこうつぶやきます。
「こんな学校で働けて良かった」と。

当時、受験戦争と呼ばれている(今でもその戦争は続いていますが)の中で窒息しかけていた自分にとって、まさに自分の望むようなあり方がそのまま体現されていました。

そして、それは大人になってもそのまま、自分なりの学校観・教育観へと繋がっていきました。今ではこの江川氏が描きたかった学校のスタイルは、一部で現実化もしている気がします。初めての東大生を出したKADOKAWAが創ったN高等学校の試みもその一つでしょう。

もし今私が中学生だったら、間違いなくこうしたフリースタイルの学校に入っていたと思います(私立なので授業料の問題はありますが)。

別に自分は、ドワンゴのまわしものでもなんでもないですが、今後こういったスタイルの学校が多くなっていくと思います。というより主流になっていくでしょう。

こうしたスタイルの学校批判として、団体行動を学べない、集団生活が苦手になるという話をよく聞きますが、あの息が詰まるようなクラスというものに閉じ込められて、わけのわからない校則に縛られ、やりたくもない勉強を何十年もやらされる弊害の方が、ずっと多いと思います。

つまるところ、江川達也さんの『BE FRREE!』は、大げさかもしれませんが、自分にとって基本的な教育観を作ってくれた教科書であり、同時に予言の書であり、おまけにエロとエンタテインメントが含まれた完全漫画だったのです。

ただし、今読むと若干の古さを感じたり、江川達也さんの漫画特有の(東京大学物語に顕著)エンディングに首を少しひねるところがあったりで、誰に対しても無闇におすすめはできませんが、固い教育論の本を読むよりは、楽しみながら、同時に教育について考えさせてくれる漫画だと思います。

もう一度、江川達也さんのこうした、ひりひりするような熱がこもった新作を読みたいと願っているファンの仲村でした。

ではまた


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