#48 アニメ制作会社のようにWebサービスを創る

ロックバンドのようなスタートアップ

自分が大学生時代の10年ほど前ぐらいだとiPhoneなどのデバイスシフトのような動きもある中で、自分がよく触るようなプロダクトが変わっていったという経験をしてしまっている。1プロダクト1サービスで上場し、世の中を変えていくようなことを見てしまった。AirbnbやFacebookなどのようなサービスに憧れた世代ではある。そういったものに憧れてこの世界に入っている節はある。
日本でいうとmixiやモバゲーなどから、mercariのようなサービスなどそういったサービスが多くでてきたりしていた。自分も大学生ながら、バンドが新曲を出すことを期待するように、techcrunchの記事などを毎日楽しみにしながら読んだりしたいた。

ワンプロダクトの幻影

それから10年ほど経ってきた中で、あれほどまで様々なコンセプトのサービスが多く乱立する時代は少しづつ変わってきているようにみえる。ワンプロダクトで世界を変えるといったものに憧れてはいるものの、Facebookなどを時代を頂点としてそこまでそのようなプロダクトは日米を見てもないのではないか。(もちろんいろんなところで様々な素晴らしいwebサービスは出てきている)
それはいろんなものの検証が済んだというべきかもしれないし、結局規模の経済/ネットワーク効果などをもつGAFAMに対してなかなか太刀打ちできなくなってきているのようなことなのかもしれない。

つまりワンプロダクトで大きな時価総額をもつ企業がでずらくなってきている節はあるのではないか。各国におけるSNSのようなプラットフォームになりる存在などにおいてある程度収斂していっている可能性がある。(それでも出ないという訳ではないと思うが・・、昔ほどそこに大きな夢が見えづらくなっている可能性はある)


WebサービスにおけるWinner takes all の可能性

どうしてもWebサービスというのは一強によりなりやすいと思っている。それは上記でも触れたネットワーク効果とかもあるとは思うが、ブランド・第一想起をとるとweb上での行動でいろんな場所にいくのはユーザーとして非常に不便なので、常に同じところに行くようになる気がしている。(まあそれをネットワーク効果とよぶのかもしれないが)

下記の記事でも書いたが、だいぶ大きなテーマなどインターネットの滞在時間をとるようなPlatform webサービスにおいてはだいぶAlternativeがなくなってきている時代な可能性はある。ネットワーク効果の閾値が超えてしまっている。(かといって、こういったインターネットスペースない議論は、いつもでてくるような議論なので、そういったときに新しいのが現れるっていうのもよくある話なので、本当にそうなのかは神と起業家のみぞしる)


Li jinが問う”C向けWebサービス企業の在り方”の可能性

上記のことを考えていたときに、元a16zのLi jinの記事である、Multi-Hit Wonders: Embracing Apps With Short Shelf Life を読んで、webサービス開発企業について考えてもよいなと思えたので、このような記事を今書いている。

ただ正直自分のこの記事全般はLi ijnの二番煎じ感はあるので、上記の記事のほうがまとまっている気がするので、ぜひ一読をオススメする。
簡単に内容を紹介すると、SNSが普及しきっている中でのコンシューマーアプリの成功は一過性のものとなりやすくなっているため、マルチヒットを狙うようにしていく企業の姿がよいのではないかという提言だ。(そこにCryptoを絡めていくが、詳しくは上記記事にて)

同時に、コンシューマー向けアプリの成功は一過性のものとなり、加速するニュースサイクルやアルゴリズムによるフィードによって、ユーザーの関心は常に変化している。新しい消費者向けアプリは、数週間から数ヶ月の間、輝きを放つかもしれないが、より新しい「それ」のソーシャルアプリに取って代わられるだけである。 ある意味、消費者向け製品は今やエンターテイメントに似ており、ユーザーは定期的に最新のものを試してみたくなり、すぐに次のものに移る。私は2016年から消費者向けスタートアップに投資しているが、その間に私のiPhoneの画面にはBeReal、Poparazzi、Fam、Dispoなどのソーシャル・アプリが溢れていた。どれもかつては人気があったが、今ではほとんど忘れられている。

(中略)

このことを考えると、別の コンシューマー向けアプリの領域で成功するための道は、 「キッチンシンク」のような巨大なソーシャルアプリを作るという、使い古されたモデルの先にあると私は感じて いる。 代替案として、あまり明白ではないが、おそらくより楽しいルートは、一連の小規模で一過性のヒット商品を作ることである。いつかは10億人のユーザーを獲得できるようなものを作るのではなく、一瞬のうちに注目を集めるようなヒットアプリを次々と発表することだ。 (DeepLによる翻訳)

Multi-Hit Wonders: Embracing Apps With Short Shelf Life

C向け企業なりのコンパウンド?

この記事を読んだときに、非常に自分が考えていたことと紐づいた感覚がし、今後も特にConsumer向けのWebだけに閉じたサービス/アプリに関しては、こういった小規模ヒット狙い×マルチライン(マルチヒット)みたいなものが、SaaSやB向けのCompoundのような概念になっていく可能性はあるなと感じた。(ただしSaaSほど関連性/シナジーがない場合があるので、それをCompoundと呼ぶのかは定義上怪しい気もするが、それはまた別論点のお話・・)

そういった文脈を後押しするような流れや前提がいくつか思い当たる節があるので、そこについてもう少し深堀りしていきたい。


アニメ制作のようなプロダクト開発会社

今の時代に新しいC向けサービスの企業のあるべき姿の可能性を考える上で、下記のような点を考慮した上でいれると、アニメ制作会社のようにプロダクトをどんどんシーズンごとにつくっていくような会社というのは現れるのかもしれない。1つで大ヒットやいわゆるプラットフォームサービスを目指すのではなく、1つ1つの収益も考えたうえで、アニメのように連続的に様々なものを作成していくようなエンタメコンテンツを創る気持ちで、プロダクトを創る会社などは有り得る気がしている。

そのようなことを後押しするものとしては、①ソフトウェアの利益率の高さの見直し、②Distribution channelの変化 、③Generative AIの進歩 があると考えている。


ソフトウェアの利益率の高さの見直し

そもそもソフトウェアであることは利益率が一般的には高いことがビジネスとして良いと言われている。工場のような大規模な設備投資もいらず、エンジニアという人材によって生み出されるため、初期投資も多額の費用をかけずとも進む場合が多い。

ただそれをうまくスタートアップというカルチャーが活かしていない可能性がある。例えばフリーミアムや無料などでひたすらユーザーを囲った後に、マネタイズすることでネットワーク効果を取りきった後に勝つという道を選んだときには調達したお金は広告費や開発費に使われていく。それが悪いわけではないが利益というものは後から回収するということがスタートアップというカルチャー/宗教においては定石になっている。

しかし、上記で記載してきたようにネットワーク効果の閾値をすぎた化け物のような企業/サービスが現状ある中でこの上記の戦い方は厳しくなってきているのではないか。そうしたときに、長期で仕込んで後から回収のような方法でない、そもそもの利益率の良さを生かしたConsumer向けアプリ/サービスの戦い方というのはあるのではないか。

それが今回Li jinのマルチヒットなのかもしれないし、自分はお会いしたことはないが、くふうカンパニーの穐田さんが下記記事なので書いたような思想に近いのかもしれないと思えた。コストの安さを考えたプライシングで、そこまで利益をとらずただ長くやるか勝てるみたいな思想は一つConsumer webサービスとしての道はあると感じた。

インターネットでユーザーの声を集めて、それをサービスに反映させる。オーソドックスなビジネスです。通信コストが安いから、高い利益を追求しなくとも営業していける。有料課金でもそれほど高くしなくていい。薄利でいいんです。ただし、時間はかかります。1年で儲もうける競争だったら負けるけれど、一生かけて儲ける競争だったら僕らのほうが絶対に勝つ」(伝説の経営者・穐田誉輝とは何者なのか…「食べログ」を作り、「クックパッド」を育てた男がいま考えていること

例えば、日本においても ROLLCAKEのような企業はこういった戦略で成長しているように思える。レターから始まり、コンシュマー向けのアプリ/サービスを続々とリリースしている。こういった登り方をするスタートアップは増えてくるような気配はある。(スタートアップとは何なのか?という以前考えた問いにもかえってくるが)


Distribution channelの変化

webサービスを開発して届けるやり方についても10年前とは大きく変化している点が多くある。それもこのような文脈を後押しするのではないか。

1つには、web広告費用の高騰がある。FacebookやGoogleなどのAdsの値段は当初に比べてはどんどん高騰してきているように感じる。それはweb上で広告を出す競合の多さや、今後Cookieが使えなくなることによる弊害など様々な要因があると思うが、ユニットエコノミクスは悪化してしまう。そういった収益性に合わない広告というものは今後どんどん削られていくことが合理的な判断となりうるであろう。

もう一つの要因として、Platform普及/SNSの成熟によるD2C化の深化がある。誰かに何かを届けようと思った際に、過去に遡ると何かしら媒体を利用して、お金を払って届けることが一般的であった。しかし、多くのプラットフォーム(YouTube/Tiktok/Googleなどが普及していったり、SNSが成熟化していくことにより、D2C的にユーザーに直接DistributionできるChannelが増えてきていった。例えば直近だと、Palworldなどは広告をかけずに動画によるマーケティングと口コミの拡散だけであの大ヒットを記録している。

広告がいらなくなったわけではないが、広告にお金を使わずともうまくユーザーに対してDistributionできるようなようになってきているのは新しいC向けの伸ばし方に寄与することは多いのではないか。(Bに対しても同じだがより営業ではない売り方ができるのはCのほうかもしれない)


Generative AIの進歩

これは言わずもがなだが、開発においてもMicrosoftのCopliotをはじめとしたそうした開発補助の生成AIサービスも多くでてきている。ここに画像やUIなどの生成が実用化されるのもの時間の問題であろう。そうするとより少人数・低コストでアプリやWebサービスをつくることができるようになってくるはずだ。

そうした際に、一つのアプリを創って育てていくよりも、例えばアート作品のように一つ一つのアプリが作品として完結するものを連発していくような開発会社というものは今後でていくのかもしれない。ゲーム分野におけるハイパーカジュアルゲームというトレンドがあった(今も続いているとはおもうが)が、そういったものと同じようなスタイルでwebサービスをニッチにただ多くつくっていくなどは有り得るのではないかと思う。


効率よく、ニッチに口コミで広がるものを、利益率を考えて続々と開発する

まとめると、GenerativeAIやOpensource・もっというとノーコードなどを活用して効率よく・低コストで開発をし、広告費をあんまりかけなくてもいいぐらい便利や、驚きのプロダクトを作り、口コミ中心に広げ、Jカーブを掘るのではなく、営業利益を初めから考えて経営をしていく。そういったC向け企業の経営スタイルは今後より増えていく可能性があるなと感じている。

書いてみると当たり前なのだが、どうしてもスタートアップという宗教の中では、1つのプロダクトをプラットフォーム化したいというストーリーにどうしても引力が働いてしまうことが多い気がしている。

これはいわゆる昨今も話題のブートストラップ型の起業・企業にあたるのではないかと思う。例えばこの言葉はVCからの調達なしでEXIT(M&A)までいった、Mailchimpのような企業などに使われていた言葉であった。調達を発表するまでのNotionもそういった気質があったと思う。そういったB2Bの企業では有り得た話をC向けにもどんどん今後広がっていくのではないかと思う。

例えばそれは、アニメ制作会社が受託をしながら自作アニメを創り出す挑戦に近い感覚で、C向けのwebサービスを開発する会社には起こり得るのではないかといった感覚を覚えたのでタイトルにもそのナラティヴを添えてみた。


このようなことを考えていった際に、一つ職業柄気になるのはこういった企業の在り方にVCは必要なのかということ。そのあたりについて少し考えていきたい。


VC-Background?ブートストラップ?

スタートアップとはなにか?という記事においても、提起してきたがVCは資金調達の1手段にすぎない。VCの仕事に就いている側の人間としては、全ての企業はもっと成長を早く目指すべきだというナラティヴに加担してもよいかと思いつつ、実際はやはり起業家の思考、事業のもつポテンシャル次第でどうするか考えたほうが良い。

上記で説明してきたような現象を考えると、今後においてもブートストラップにおいて起業を志すことは多くなってくるのではないかと思う。そういったときにVCが必ずしも必要かというとそうではないであろう。

ただVCというファンクションが必要ないかというとそういうことではないと思う、ブートストラップ型から、PMFやプロダクトの兆しを見ながら大きく調達をしていく道を選択するということはあるかもしれないし、初期そういったプロダクトを何個か試すために調達するという選択肢もあるかもしれない。どちらにせよ今後ラダーのような資金調達をしていくことはもしかしたら少なくなるのかもしれないが、スタートアップという成長の道を選んだとしたら、どこかでモメンタムを常につ作り続けながら走るという道を選ぶことになるので、少し今回紹介したようなメンタルモデルと異なってくるようにも思える。

こういった意味においてはNotionがなぜVC調達なしでいきながら、あのときに大きな額を調達したのかは気になったりはする。なので、本当に”VCからのEquity調達”というものをどこから使うかということは、より正解がなくなっていく時代に突入する気もしている。逆にいえばその使い方をうまく考えた人が、起業家としてもいろいろなことをショートカットできて、企業の成長・ミッション/ビジョンの実現を早めていくことができるようになるのではないかと思えた。


おまけ:Web3要素への発展可能性

Li jinも記事内で触れていたが、こういった潮流はどこかでweb3の要素と絡み合ってくるのだと思う。Farcasterについて書かれたNotboringのFraming the Future of the Internetにより書かれているが、小さなアプリケーションが多くでるときにプロトコルがそれによって強くなっていく。そのプロトコルを活用する人が増えていくことによって利益を得るような流れは発展可能性としてはありそうだ。

単体のアプリで勝つというよりは、個人やブートストラップ型の企業が小さなアプリを開発しまくり、その結果プロトコル自体が人気がでることによってトークンなどで収益を稼ぐようなモデル。少しまだ言語化できてないが、このあたりは分散型社会というのはAIの到来によって訪れるということを以前記事で書いたように、そういった社会/企業の在り方というのもあるのかもしれない。

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