梅雨

メールには添付できないぬくもりと共に手紙は海を越えゆく
深夜2時の路上でタバコを喫う人も見ている自分もどこか哀しい
気の早いセミが一匹鳴き始め慌てたように夏が来たりぬ
今だけは何も気にせず心地よく吹く夏風に身を委ねよう
空高く伸びる細身に連なったつぼみ弾けてタチアオイの花
雨だれを避けるが如く低空で右に左に飛ぶ燕たち
丑三つの闇世に響くカラスの声そうかお前も眠れないのか
マンションの軒にはためく洗い物は古(いにしえ)の山の衣に似たり
雨降らす雲に阻まれ見えねども星は変わらずあの空にあり
人は人自分は自分それぞれの歩んだ道は確かに残れり

「幻桃9月号」投稿作品

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