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「あやうく一生懸命生きるところだった」を一気読みしたら、爽快感につつまれた

「努力は人を裏切らない―。」この言葉に、いったいどれだけのピュアな若者がだまされてきただろうか?私たちは学校でさんざん、「努力すれば、必ず希望の未来にたどり着く」と叩き込まれた。しかし大人になると、努力が実らないことは、往々にしてあるものだ。

 本書の著者であるハ・ワンは三浪の末、韓国屈指の難関美大である弘益大学校に入学した。3年間もがき苦しみ、努力し続けた結果、ようやく望みを叶えられたのだ。これは一見、粘り強さを表す素晴らしいエピソードに聞こえなくもない。
 しかし、彼はこの実体験を通して、「目標を見誤ったがために、ほかの選択肢はないと妄信してしまうことがいかに愚かであるか」を読者に問いかけるのだ。『「絶対あきらめるな」という言葉ほど残酷な言葉はない。あきらめたって問題ない。道は絶対一つではないから』というメッセージは、なんと現実的で、やさしさに溢れているのだろう。この言葉にハッとさせられ、物事を多面的に見る大切さに気づかされる読者は多いのではないか。

 著者は彼女とのデートの際も、予めデートプランを決めることはせず、ノープランでムダ足を楽しむ。「移動するだけで疲れるお年頃」のため、まずはカフェで一休みし、コーヒーを飲み、疲れが取れたら町を歩いて散策する。偶然良いお店に出会える日もあれば、出会わない日もある。精神的にゆとりがあるからこそ、目的のない、優雅なムダ足を楽しむことができるのだ。毎日あくせくしっぱなしの現代人に今必要なのは、AIでもプログラミングでもなく、ムダ足を楽しめる心の余裕なのかもしれない。

 最後に本書内の好きなエピソードを一つ。著者がある日洗濯物を畳んでいると、1枚のパンツがひどくくたびれているのに気が付いた。それは5年ほど前に買ったもので、それ以来パンツを新調していなかった。

 新しい服はさんざん買っているのに、「外から見えない」下着のことなんて、考えてすらいなかったのだ。これは下着に限った話ではなく、人生全般においてもそんなふうに、内面をないがしろにしていたのではないかと気づく著者。
「目に見えることだけにしか気を配れない人間にはなりたくない。内面も素敵じゃなくちゃ。それでこそ本当にカッコいい大人なのだから」

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