国立駅大学通りのパン屋さん

国立駅前からまっすぐ伸びる大学通りを15分ほど行ったところ、駅を背にして左側にそのパン屋さんはある。今から10年以上前、まだ学生だった私と夫は、よく学校から散歩がてら、一緒にその店までパンを買いに行った。一番お気に入りだったのは、バターがふんだんに使われた生地に、アーモンドと粉砂糖が掛けられたパンだ。名前は覚えていない。

パン屋の前の街路樹の下に、ベンチがいくつか置かれている。そこに座って、買ったばかりのパンを二人で食べた。あれは確か3月の末だった。早春の陽気に誘われて、私たちはパン屋まで歩いた。二人ともまだ軽いコートを着ていた。店先のプランターの花が綺麗に咲いていた。ベンチに並んで座ってパンを頬張りながら、私たちは話した。

「今、この瞬間のことを、あの時は幸せだったねと思い出す日がいつか来るかなぁ?」

4月から、彼は大学院に残り、私は就職することが決まっていた。国立から私が引っ越す前に二人で学校から一緒に歩いたそれが最後の機会だった。

その後、私たちは結婚し、可愛い子どもにも恵まれた。それでも、時々、二人の間には不協和音が鳴る。そんな時、二人並んでパンを食べたあの日のことを思い出す。(2001年)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?