第4章 その① アクションプラン 「顧客を思い通りに動かすシナリオを作れ!」

DMからWebへの誘導だけではない。クロスメディアがさらに進化!

この章では「DMからインターネットにつなげる」戦略をもう少し深く考えてみたいと思います。
まずご紹介するのは、2019年のDM大賞で金賞グランプリを獲得した「ディノス・セシール」です。ものすごい進化をDMにもたらした、または今後のDMの方向を変えてしまうほどのインパクトを与えたものなのです。
賞を獲得したDMには2種類あり、DMの形状も用途も違っています。
一つ目は、はがきDMです。「えっ、はがきDMって、何をいまさら」と思うでしょう。しかし、このDMのシステムを聞かされたら唸ると思います。このはがきDMはネット注文時にカート落ちした商品を、その顧客へ24時間以内に送られ、再度プッシュを図るというものなのです。

カート落ちとは、つまりカートに一度は入れたものの結局は購入に至らなかった商品です。従来、ディノスではカート落ちした商品を、Eメールを送信してプッシュしていたそうですが、それを紙DMで24時間以内の発送が可能になり、しかも自動化されているというのですから驚きます。
はがきDMでは、カート落ちした商品を含めて3点の商品を掲載しているのですが、カート落ち商品が1点しかない場合でも、事前に設定した2商品を加えて、計3点を掲載しているようです。
キャッチフレーズは、シンプルに「ピックアップオススメ商品」とし、「カート落ち」ということを感じさせるのは、サブキャッチの「お買い忘れはありませんか?」という文言だけです。それは、顧客に「悩んで買わなかった商品まで知ってるなんて、気持ち悪い」と思われないための配慮だそうです。確かに考慮すべきポイントだと思います。

ネットではユーザーの「検索履歴」や、「サイト訪問履歴」をもとに自動で広告を表示する「サイトリターゲティング広告」があります。あなたも経験があると思いますが、例えば、Amazonで一度購入検討をした商品が、しつこく広告バナーとして表示される、あの広告システムです。つまり、ネット上では、あなたの行動履歴はすべて知られ、それを利用したマーケティング戦略が練られているわけです。
この技術はどんどん進化していて、某大手マーケティング会社(現在はYahooグループの傘下)とともに実験的ともいえるWebサイトを作ったことがあります。それは、あるサイトを訪問した時点で、そのユーザーの検索履歴をベースに趣向性を自動で判断。その人が共感できるコンテンツだけを表示し、クロージングにつなげるというものでした。つまり、そのサイトで見られるコンテンツは、私とあなたとでは違うということに他なりません。(もっとも、私とあなたが同じ趣向性を持っていたら別ですが)
未来の出来事のように感じるかもしれませんが、すでに実現している技術なのです。

このようなことがネットではなく、リアル媒体であるDMでも可能だというのが少し恐ろしい気もします。私たちマーケティングに関わる人間でさえ、そう感じるのですから、一般の方たちなら、なおさらでしょう。

先ほどのディノスのDMに話を戻していきましょう。
2つのDMがあるとお話ししましたが、もうひとつのDMは「小冊子DM」です。これも革新的なDMです。どう革新的かというと、顧客それぞれにカスタマイズしたコーディネイト提案を自動で行い、それを小冊子化してDMで送るというものなのです。
これにはAI技術を使ったそうで、その名称は「ファッションAI #CBK scnnr」と呼ばれています。この技術によって、Instagramから自動でファッショナブルに着こなされた写真を抽出するのです。しかも、以前に顧客が購入したアイテムに類似のアイテムをです。
信じられるでしょうか? そしてその横には、今回おすすめのアイテムをさりげなく載せてプッシュするという寸法です。「このインスタの写真、ワタシ好みだわ。この横の商品も素敵じゃない」という風に、顧客のマインドをくすぐるに違いありませんね。

ついにAIがDMの世界にも進出したという、新時代を代表するような出来事ではないでしょうか。そして、この二つのDMの気になる結果はというと、最初のはがきDMではコンバージョン率が20%アップし、もうひとつの小冊子DMでは、カタログへのロイヤリティが上がりづらいWeb顧客層であるにも関わらず、レスポンスが約10%アップしたという成果を出したそうです。
これは大手の通販会社だから出来たということはあるでしょうが、この先進技術は当然、他の印刷会社等でも取り扱うようになり、コストも安くなっていくはずです。コストパフォーマンスが良くなった時点で、導入するのはありだと思います。ぜひ、頭の片隅に置いておいてください。

 ディノスが「ネットからDMへ」だったのに対して、次にご紹介するのは「DMからネットへ」の活用を促進するものです。今までもお話ししたように、「DM+ネット」は時代の本流になりつつあります。
 「DMからネットへ」の例としては、2018年のDM大賞で銀賞に輝いたアドビシステムのアイコンコースターDMが話題になりました。アドビと言えば、広告業界では知らない人はいないと思います。PhotoshopやIllustratorといったグラフィックデザイナーが使用するシェアナンバー1のソフトメーカーです。一般の方でも、Adobe PDFは日頃の業務で使われているのではないでしょうか。

 このアドビシステムでは、PhotoshopやIllustratorといったソフトをCreative Cloudという商品で統合し、月会費を払えばそれらすべてが使用できます。さらにアップデートや技術サポートも無償で提供されるというサービスなのです。このDMは従来のソフト利用者に対して、作業効率が高められるこのCreative Cloudへの切り替えを促すためのものでした。
 DMは菓子折りが入っていそうなおしゃれな箱のパッケージにコースターが入っています。デスクに置いてもらえるこのコースターには、それぞれネットと繋がるQRコードが記載されていて、Creative Cloudのお得なサービスや利点を紹介するという寸法です。デスクでのちょっとしたコーヒーブレイクに、自社のWebサイトに来てもらい、Creative Cloudの良さをアピールして乗り換えを促進するのです。

この現物を見ての第一印象は、実にアーティスティックなデザインだなと思ったことです。先ほど言いましたように、今回のターゲットは間違いなくデザイナーなど、絵心のある人です。そういうターゲットがもらって嬉しくなるように気を配ったのは間違いありません。ターゲットの嗜好性を考えて制作した好例とも言えるでしょう。
このDMでの戦略の巧妙さは、DMを開封した後、すぐにネットへ繋げようとはせず、「コーヒーブレイクなど一息ついたら見てください」という「奥ゆかしさ」を感じる点です。顧客からは好感をもたれるでしょうし、確かに「一息ついたら覗いてみようかな」という気持ちにさせてくれます。

 この「奥ゆかしさ」というのは、実は、私が学んできたマーケティングにはない考え方です。ちょっと脱線してしまいますがお話しします。BMWなどの世界的なブランドの広告制作に携わる中で、最先端のマーケティングに触れてきましたが、欧米の作り出したそのマーケティング手法は日本でも通用するものと、何の違和感もなく考えてきました。しかし、フリーランスになって、ある有名な老舗ブランドの仕事をさせていただくことがあり、制作物について社長ご自身から赤字をもらいました。それというのは、「ダイレクトに自社の自慢話をしたら粋(いき)じゃない」という趣旨だったのです。その時、私の中で漠然と意識していたものが確信に変わりました。「日本人へのコミュニケーションには奥ゆかしさが必要だ」という気づきです。
脚本の世界でも、「多くを語らないキャラクター」は、たまに語る一言に重みを感じさせ、その人柄に好感をもってもらえることが多々あります。
 何を言いたいかというと、日本という国は島国であるがゆえに、人と人の間に「あうんの呼吸」のようなものや、「行間を読む」ということがあり、「多くを語る」または「自慢する」という人に対して、好感を持たない傾向があると思うのです。この独特の文化は、移民によって形成された多民族な西洋諸国とはまったく逆です。ですから、欧米から生まれたマーケティングは、一部、日本仕様としてカスタマイズすべきじゃないかと考えているのです。但し、「語らない」のも、コミュニケーションにならないので、その塩梅を考えていく必要はあります。

 さて、話をDMに戻していきましょう。
 このQRコードでネットに飛ばすという方法論は、決してお金のかかるアプローチではないので、ぜひ、街の小売店の方でも試して欲しいと思います。但し、ただQRコードを入れれば良いというのではなく、先ほどのアドビシステムのようなひと工夫が必要でしょう。
 例えば、いちばん簡単なアイデアは、何度かお話ししたQRコードでLINE@に登録してもらう方法でしょう。これは一度、登録してもらえれば、必要な時にクーポンサービスなどを送信して、直接集客を狙うことができるからです。
 そして、これはジャストアイデアですが、クイズとQRコードだけの「はがきDM」を送るというのはどうでしょうか。例えば、ヘアカットサロンのDMだとして、クイズは「どうして白髪が生えるのか?」
とし、大きなQRコードに誘導して「クイズの正解はホームページでどうぞ。ヘアカラーが特別料金になるクーポンも配布中です」といった具合です。
これだけ短いメッセージですから、見てもらえる可能性は高いでしょうし、ターゲットを中高年層に絞れば、「そういえば、そろそろ髪を染めないと白髪が目立ってきたわね」という風に、さりげなく集客を促せます。
ちなみに、「どうして白髪が生えるのか?」のクイズの答えは、「髪の毛の根元にあるメラニン色素をつくる栄養素が足りないから」だそうです。もう少し面白い答えが出せるクイズなら、もっといいと思います。試してみてください。

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