見出し画像

人はコトが欲しくてモノを買う。

こんにちは。中村です。
最近いろんな方のプレゼンを聞く機会があるのですが、
皆さん、一生懸命その「ロジック」を伝えようとしてくれます。

ロジックは正論だけど、ロジックを聞いても面白くない。
ロジックは確かなことではあるけど、そこに「心は動かされない」ということなのだと思いますね。
人は論理で説得されるけど、心は動かされない。つまりロジックだけでは「納得」しないのです。
やはり人の心の中心にあるものはエモーション(感情)。
感情が伝わって そのロジックの理由が伝われば、人は行動するのですね。

今回はそんな話しをしていこうと思っています。ぜひ読んでください。


婚活をする50代の友人の話し。

僕の古くからの友人(51歳)がなんと婚活をすると言い出しました。
彼とはもう長い付き合いですが、付き合った女性を一人も知りません。まあ一言で言うなら「仕事人間」です。仕事はできるタイプ。20代で会社を興して今は年商7億のネットショップ経営者で、地味で地道なやつです。

「相手はいるのか?」と僕が聞くと、彼は「いろいろ候補はいるよ」と言いました。どうやら結婚相談所に入会してサポートを受けているようです。
彼は「自分は女性にモテないタイプである」と思っていて、自力では無理だと悟ったんだ と笑顔で言いました。

彼はいわゆる物欲のないタイプ。自宅の2階をオフィスと倉庫にしているから自動車も持っていないし、いまだにガラケー。いつも襟のよれたTシャツかイオンで買ったというちょっとダサいスーツのどちらかで仕事をしています。
それもなんか彼らしくて、誰も指摘せず、その身だしなみさえ”彼らしさ”の象徴のようでした。
それと彼の特徴はとても「いいやつ」だということ。ほんとに人に好かれるやつです。見た目だってイケメンではないけど清潔でノーマルです。豊富な話術で女性を楽しませることはできないかもしれないけど、人に思いやりを向けることはできる。そんないいヤツです。

彼は僕に「デートしてくれる女性を紹介されたんだけど、どうすればいいのかわからないんだよね。。」と言ってきました。僕は彼を誘い出して買い物に連れ出しました。とにかくいつものあの”ダサい格好”だけはデートでさせてはならないと思ったのです。

僕は彼を百貨店の紳士服フロアーへ連れて行きました。よれたTシャツかシワだらけのスーツ姿しか見たことがなかった彼のファッションを変えなきゃと思ったからです。
年齢は50代の経営者らしく。そしてあまり片意地はらずに自然にいい感じに見えたBANANA REPUBLICの紺ジャケットとスリムな濃いめのスキニーデニムを合わせて、中には古着だったけどイタリア系のストライプシャツを合わせて着させました。そして靴も靴下も。ついでに彼に似合うHatまで取り揃えて着させました。

全部合わせると結構な金額になってしまいましたが、彼は喜んで財布を開きました。
ファッションに無頓着な彼は、デートのために洋服を買うという発想がありませんでした。今回買った服も「こういうのが欲しかった」という気持ちがあったわけではなく、もっというと このショップに来るまではその服の存在はおろか、それを買いたいという欲求もなかったし必要性も感じていなかったのです。

その服の首元についていた値札を見た彼は「ほお〜結構するなあ〜」と驚いた表情をしましたが、なぜか次には「でもまあいいか。これ全部ください」と言って迷わずこの服を買いました。
僕も店員もしつこく勧めたわけではありません。僕なんて「いいじゃん」としか言っていません 。
さて、今まで欲しいと思っていなかった”結構高い”この服をなぜ彼は迷わず購入したのでしょうか。

婚活を始めた彼にとって”結婚生活”は希望の未来です。婚活が目的でもなくデートが目的でもない。結婚生活そのものが彼の目的です。彼の"願う未来”です。
それに対して僕は、結婚相手を紹介するのではなく「服を買いに連れて行った」。そこは本来大きなギャップというか、”違い”を感じるはずです。
結婚生活という「コト」を手に入れたいのに、服という「モノ」を買おうというのですから。そこに彼は最初は違和感を覚えたはずです。

でも彼は僕の「服を買おう」という狙いに乗りました。
そして彼はそのことを後悔したでしょうか。直しが終わって届いたジャケットとパンツを見て「買うんじゃなかった」と思ったでしょうか。
何日かして気になったので彼にLINEをすると、彼は「昨日が出来上がり予定だったので早速昨日取りに行ったよ!最高です!毎日着てしまいそう!」と踊るような文字を送ってきました。
「いやいや、デートの時に着てくんだよ!」と僕が返信したことは言うまでもありません。

彼が求めているのは、お嫁さんのいる人生。夫婦で過ごす幸せな時間。
僕が勧めた服は、その未来に向かうためのチケットのようなものだと感じたのかもしれません。少なくとも彼は単に「服を買った」とは思っていないでしょう。

彼は「モノ」を求めているのではありませんでした。
彼は「モノ」を手に入れた後にある「コト」が欲しいと思ったのです。
その服を着てデートをして、デートがうまくいき、恋愛に発展し、そして結婚し幸せな時間を過ごす、その瞬間を想像したのだと思います。
その時に感じる「幸せだ〜」という気持ちの満足、幸せ感、心の満ちた日々。それこそが彼が「欲しい」と思っていたものなのだと思うのです。


人がモノを買うとき、ニーズとウォンツが重要だとマーケティング的によく言われます。僕もマーケターなので、その心理的ロジックや人の行動科学を研究したりもします。それを分析する方法もいろいろあるし、データとして納得できるロジックもたくさんある。それは事実です。

しかし少なくとも、ロジックだけでは人の心は動かないし専門用語が飛び交う中に「納得」は生まれません。
なぜなら、それを買う人の気持ちは論理ではないからです。
それを買う人はデータだけでそれを買うわけではないからです。

彼はきっと「服を買った後の自分」「未来の自分」を買いたかったのだと思います。実際に買ったのは「服」というモノだけど、間違いなく彼は「未来の自分」が想像できたから買うことにしたのです。
マーケティング用語でいうとそれを「ベネフィット」と言いますが、この長い話しを6文字の「ベネフィット」という言葉で表すことこそが、そもそも間違いなのではないかと思うわけです。
だからストーリーは大事。ベネフィットはもちろん大事だけど、お客様ひとりひとりに「買った後に訪れる素敵な未来」を見せるために、何が必要なのかを考えるべきだと、僕は強く思うわけです。

そして彼、昨年結婚しました。50代の初婚です。お相手は再婚の方ですが、なんと12歳も年下です。
彼の願っていた結婚生活。またしてもLINEで「結婚生活はどうだ?」と送りました。そうしたらすぐさま「風邪ひいた時に心配してくれる人がいるっていいな ^^」と返ってきました。
きっとあいつらしく、優しくてなんでもやってあげる夫になっているんだろうなと思います。
だってあいつはすごく「いいヤツ」ですから。



それでは今日はこのへんで。
またお会いしましょう。



この記事が参加している募集

買ってよかったもの

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?