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「マイパブリック」について考える。喫茶ランドリーに行ってきました。

2/21(木)喫茶ランドリーにて行われた『マイパブリックとグランドレベルと東京の水辺』というトークイベントに行ってきました。

ずっと行きたかった念願の喫茶ランドリー。PLANETSの宇野さんの番組(News X)で田中元子さんのことを知り、『マイパブリックとグランドレベル』という本を読んでから〝マイパブリック(自分で作る公共)〟という言葉がキーワードになっています。特に近々、自宅ギャラリーをオープンしようとしている我が身としては、マイパブリックをどう展開するのか考えどころ。
とにかく現場を見るべく、喫茶ランドリーは行こうと思っていた中、こちらのトークイベントを知り参加しました。

ちなみにこのイベントの主催は、東京ビエンナーレ2020 オープン・ウォータープロジェクトの実行委員会の方たち。タイトルに「東京の水辺」という言葉が入っているのもそのため。2020年の東京ビエンナーレに向けて、東京の水をテーマにリサーチをされているらしく、彼らのイベントとしてはこれが最初の回とのことでした。(すみません。この記事は喫茶ランドリーとか元子さんのお話中心に書かせていただきます。)

ではまず喫茶ランドリーを軽くレポ。

東京の墨田区、森下駅から歩くこと5分。背の高いマンションが立ち並ぶ住宅街の一角にあります。袋の梱包作業場だった建物の1階をリノベーションしたそう。この辺りは隅田川が近いため、昔は運河が通る物流の町として倉庫や工場が中心だったそうですが、法改正で一気にマンションが建ち並び、急激に住宅街になったようです。なのに人影がない…。そんな風景が、喫茶ランドリーができたことでちょっと変わろうとしている。

午後5時ごろ到着した外観はこんな感じ。全面窓で、中の様子が外からよく見えます。

座った席は「モグラ席」呼ばれるこちら。半地下で座ると窓の外の目線が地面です。
ちなみにビールが写っているのはクラフトビールのサーバを4種類も揃えているのに驚き、お茶の代わりについ注文してしまったもの。ポイントは、ビールサーバーからコップに注ぐのもセルフというところです。(ここ、のちのち重要)

モグラ席の向こうに見えるのは、入り口入ってすぐのフロア席。打ち合わせができそうな大きめなテーブルと、1~2名用の小さなテーブルがいくつか並んでいます。

店の奥には「まちの家事室」と呼ばれる所以のランドリーが。洗濯機3台、乾燥機3台。ミシンもあるので、洗濯物を待ちながら縫い物とかできます。
(個人的には今ミシンが必要で、でも買うほどではなく、こんな設備欲しかった…!という感じです)
テーブルも広くていい!足にタイヤがついているので移動できます。
(いろいろカスタマイズできそうな空間!部室感満載です。)

この写真の奥の扉の向こうには、グランドレベルさんが事務所として使っているダイニングテーブルが。でもいろんな人が座ってきて、おしゃべりして、ご飯も食べて…。プライバシーとか、ほぼありません(笑)。

ではここから本題のトークイベントへ。
前半は元子さんの「マイパブリックとグランドレベル」のお話。
後半はオープン・ウォーターの方とのトーク&質疑応答。

元子さんのお話の中で自分がピンときた言葉はいくつかあります。
例えば

「能動性を発露させるきっかけをつくる」

という言葉。
元子さんがこのことの重要性に気づいたのは、神田の東京電機大学の跡地(4000平米!)で、何かやれないか相談を持ちかけられて企画した "URBAN CAMNP TOKYO" のとき。

東京のど真ん中で2泊3日も過ごすんだから、楽しいことをたくさん詰め込まないと!と、神輿担ぎやら町歩きやらなんやらかんやらたくさんスケジュールに盛り込んだそう。でも参加率が悪い…。なぜか。

(↑参加率の悪かったラジオ体操?ヨガ?)

野山でキャンプする人の過ごし方は、自然を鑑賞したり、ご飯を自分で作ったり、川べりで遊んだり。全部「自分から」楽しんでいる。何か誰かから提供されたことを楽しんでいる感じではない…。
そのことに気づいた元子さん。次のアーバンキャンプを企画した時は、何もイベントを企画せず。そしたら、1日本を読んで過ごす人、近くの銭湯に出かける人、仲良くなった参加者同士でおしゃべりする人…などなど、参加者はそれぞれの形で過ごしはじめたそうです。
その時、運営側が用意したのは、それぞれの「能動性を発露」させるきっかけづくりのみでした。

これは、話の後半に出てくる「補助線のデザイン」にもつながっていきます。

喫茶ランドリーは、まさに「補助線」のデザインがすばらしい。絶妙な感覚で引かれています。例えば、前半に紹介した自分で注ぐビール。「いつも私たちはプロになってしまってコミュニケーションの機会がなくなってしまう」という元子さんの言葉(宇野さん番組)でありましたが、ここはプロの店員、プロの客の線引きを曖昧しています。

(↑壁に貼られた喫茶ランドリー完成前の写真。写真を貼るだけだと、ソリッドすぎてシュッとしてしまうため、フレームテープを貼ったとのこと。)

なんせここでは、パンを練る会、歌を歌う会、ミシンウィーク…などなど、たった半年間でプロジェクトが100個ほど立ち上がったのですから。しかも店側が企画したものはひとつもありません。
この何もない住宅街のど真ん中で、突如、一般の方のクリエイティビティが爆発するようなコミュニティスペースが立ちあがる…。これはある種ストリートアートではないか…?

喫茶ランドリーの前に元子さんがやられていた活動に、事務所にバーカウンターを作った話があります。下戸の元子さんは、一滴も飲めないお酒を買い込み、日々無料で訪れた人にただただ振る舞う。一方的に振る舞う。“Give and Take” ではなく、"Give"しかない行為。没頭した元子さんは、これこそ自分の“趣味”だと認識します。

この趣味を発展させて、今度は「コーヒーを振る舞う屋台」を創作して街に繰り出します。コーヒーを振る舞えば、道ゆく人にちょっと話しかける権利が生まれる。屋台は「記号」で、記号のブラッシュアップはスキルの問題。スキルを磨けばみんなできるよ、とのこと(これも宇野さんの番組の中で出た話)。

番組で元子さんが「大阪のおばちゃん、今日会う誰とも知らない人に渡すためにハンドバックに飴を仕込んでいる」話をしていました。 ハンドバックに小さな公共を忍ばせている例として。そこには“すぐにできて自分も楽しい”があります。(そして宇野さんは、「昔のインターネットはそういう世界だった」ということを言ってました。それをリアル空間で実行しているのが元子さんだと。なんかそこ、泣けるんですよね…。)

あの補助線の感覚は、言語で考えているものもあるんだろうけど、身体的な感覚もともなって引かれている感じがする…。きっと集まった人たちの場の雰囲気を感じながら、その日その日ちょっとずつ変えたりしているんだろうなと。私だったら、まったく違う補助線を引くだろうと思う。

この「補助線」というのが、まさに「人の話を聞く」という行為にも似ていて、「聞く」という行為自体が相互的なんだけど、どこのラインで聞くかによって、相手の創造性を引き出すことにもつながる。「能動性を発露させる」って、本当はどっちからはじまったか分からない微妙なラインで起こっていることのようで、実はかなり中動態的なんじゃないかと…。補助線を引くことって、いわばソクラテスの産婆術…。

考えるといろいろワクワクしてきます、マイパブリック。何をはじめようかな。


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