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【週末うちの一皿】ボイルズワイガニ姿 年末に自分へのご褒美

あなたの週末に、お魚との「未知との遭遇」を。さかな一代の大人たちが、あなたの食卓の一皿に「魚料理」が加わることを願って、静かに連載しています。どうもお魚と言いながら、甲殻類に偏っているとご指摘がありますが、年末の今回は、これをやっておかないと、と言うことでズワイガニです。さあ今回も、みなさんとの合言葉「肉料理には負けないぞ!(笑)」で行きましょう。

さて、年末の豊洲市場では、普段休市になる日曜日が、最終週に限り開市日になり、変則的な稼働日程になります。年末年始の市場は、12/31~1/4までがお休み、その間の場内取引はありませんから、まとまった休市に備え、市場人にとって一年のうちで一番忙しい時期になります。
この少し前の頃の豊洲市場のセリ場には、年末の小売店さんの店頭を賑わす、年末ならではの食材が一気に襲来して、一足早いにぎわいを見せる時があります。そうです、おせち料理に欠かせない、年末の時期が主役の、蒲鉾、伊達巻、といった練食品たちと、蟹たち。今日の主役は蟹です。

さかな一代のSNSをフォローしていただいている方ならご存じかもしれませんが、さかな一代の担当者が年末のカニの販売予測を誤りました。ネット通販専用で、押さえていた特大ボイルズワイガニ姿を余らせる結果となってしまいました。
担当によれば、今年獲れた個体なので、まだまだ賞味期限が長くて、食べ頃の冬に美味しく味わっていただけるので来年も引き続き販売する食材なのですが、市場人が認める、品質が良くて、納得の上物なので、せっかくなら年末年始に食べていただきたいなぁ、との切実な願いから利益度外視で販売中なんです。日本一お安く販売しています。

今回の週末うちの一皿、なんで正月なのか?みなさんに少しでもカニのことを知っていただきたいと思い、こうして急遽カニの記事を書いて、深い深い蟹の魅力をご紹介することにしました!

冬の味覚の代表の蟹。蟹の旬は、ズワイガニなら、冬だと言われています。
実際は、国内最大産地の北海道で蟹が美味しいシーズンは、3~5月の春なので、日本海側の本ズワイガニが旬を迎える、11月からの冬を基準として、「蟹の旬は冬」のイメージが定着しています。

日本国内でよく食べられる、人気の蟹と言えば、本ズワイガニのほかにも、タラバカニ、毛ガニ、花咲ガニなどがあります。よく、これらの蟹を指して「日本4大蟹」と呼ばれていますね。

4大カニの中でも、本ズワイガニは、産地ごとの名前がついていて、代表的なものとしては、山陰地方で水揚げされる「松葉ガニ」があります。大人気の蟹なので、みなさんも「カニ」と言ったら、まずは本ズワイガニを思い浮かべるのではないでしょうか。

まっすぐに伸びた足、大きな甲羅が特徴的な大型になるカニです。身の質としては、とてもみずみずしく甘みが豊かで、大きな甲羅の中にある濃厚な「カニみそ」が堪能できます。
同じくカニみそで有名な毛ガニもありますが、何と言っても、旨いカニ身と、カニみその両方をたっぷり堪能するのには、ズワイガニをしのぐものはありません。もちろん、好き嫌いは個人であると思います。
また、足の身が旨くて人気のカニの代表「タラバガニ」は、カニみそがありませんから、茹でガニでしたら「姿」で流通することはまずありません。

ぼくの若いころの夢は、年末年始を、豪華な温泉宿に泊まって、おいしい地の酒と、宿の料理長自慢の懐石料理に舌鼓を打った後に、雪が舞い落ちる露天風呂につかって、ゆっくーり年を越すことだったんですが、そこには大きな本ズワイガニが登場していました。
そんな冬のとびきりの贅沢が、決して実現されることなく、むなしく脳内イメージ映像の中で流れ続けて、もういい大人になりましたが、まだ諦めていません(涙)。

冬が旬のズワイガニ

冒頭で、「カニは冬が旬」なのは、日本海側の山陰、北陸のカニの旬とのかかわりが深いとお話しました。では、いつ頃から日本人は、ズワイガニなどの深海に住むカニを食べ始めたのか?食材との遭遇がなければ、食文化の歴史が始まりませんね。
カニ自体は、海岸付近に住む小型~中型のものや、内陸部でも淡水に住むカニがいましたから、珍しいものはなかったはずですので、ここでは深海に住む美味しいカニを代表して、「ズワイガニとの出会い」としましょう。

ズワイガニは、水深200M以上の深海に住む生き物です。ここまでの深さとなると、漁法の確立なくしては、なかなか取れない獲物となってきます。その水深の漁業が日本で商業的に行われるようになったのは、歴史の研究により江戸時代に入る頃だとされています。そして、同じくして、食用として漁村で出回って食べられていたものが、徐々に都でも知られるようになっていったと推察されます。

このように、漁法が確立されてきたとは言え、深海へのアクセスは難しく、まだまだ当時のズワイガニは貴重なものだったと想像できます。
江戸時代に、全国各地の特産品が調査されましたが、そのころになると、山陰、北陸の特産物にズワイガニが上がるようになっています。併せて、「取れない時節」もあると記されていました。ちょっとシーズン性を疑う記述の登場です。
とはいえ、身分の高い人への献上品だったりと、庶民にとってはめったにお目にかかる機会のないものだったようです。これが庶民にも広がってくるのはもっとずっと先の、明治期・近代以降、そして大衆化して隆盛を迎えるのは、戦後のことになります。

ズワイガニが食される料理法と日本の気候との相性

いろいろな生物の研究が進んでも、海の生物のことはよくわかっていないことが多いです。ましてや深海域の生物となると。。資源保護の観点からも、生態の研究を必死に進めている段階ですが、まだまだ謎は多い。
でも、「海流に乗って日本にやってくる」とかでないことは明らかそうです。だとすると、ズワイカニの旬とは、その時期しか取れないというものよりも、美味しく食べられる季節があるという方に、理由がありそうです。

ズワイガニの料理と言えば、茹でたりして食べるほかに、焼きガニ、しゃぶしゃぶ、てんぷら、鍋料理と、熱を入れる料理が多い。もちろん刺身というのもあるけど。他には、サラダなどで食べられるけれど、これは海外から蟹食の文化が入ってきて定着したケースと言えるので例外として、冬の季節に美味しい!と感じられやすい料理が多い。

日本には明確な四季があります。寒く厳しい冬、温かく安全な場所で、美味しい物を食べることは最高の贅沢ですね。蟹は栄養価が高く、厳しい冬を乗り切るのに、相応しかったということもある。家族で、親しい友人とで、仕事の仲間たちと、いろんな席でカニをかこんで幸せな時間の共有があった。
それは、今のぼくたちと何も変わらず、年末の風物詩でもあったと思う。
ところが。。。

今では高級食材の代表格の、マグロの大トロや中トロが江戸時代には、まったく見向きもされず、食べられていなかったという話は有名ですが、このズワイガニにも長く不遇の時代がありました。

サプライの無いところに、商機はある。

今も昔も、特産物が、産地の地域産業を支えてきました。希少さを守って。
冒頭のぼくの夢のように、消費者のイメージを守りながら。

漁業の近代化が進むと、200Mより深い海域で効率的に底引き網漁が出来るようになってきます。そこに、ズワイガニも入ってくるようになるのですが、当時、浜で必要とされる量はそれほど多くなく、港に打ち捨てられることも多かったそうです。そうです、ズワイガニは外道扱いだったのです。
この以外すぎる展開、つい50年くらい前のことで、びっくりしますよね。

この美味しい産地のカニが捨てられることなく、多くの人に食べてもらえるように、根気強く販売に取り組んだ産地の人たちがいました。目を付けたのは、ズワイガニが流通しない都市部、そして火をつけたのは、まったく新しいメニューでした。

カニと言えば? カニ〇〇!

大きなカニの看板が有名な、かに道楽。大阪、食い倒れの街のど真ん中に、かにすき、を引っ提げて乗り込んだ。そして、大阪人は、ズワイガニの旨さを知った。店は当たった。
それからの道のりは早かったと思う。「カニは冬の味覚」として、今の地位をあっと言う間に築いてしまった。

今では当たり前のように、食べられている冬の味覚のズワイガニって、そんなに歴史が古いものではないんですね。こうして盛んに食べられるようになり、本ズワイガニの産地が、注目されると、温泉をはじめとする豊かな観光資源を活用した、産地ツーリズムが起こり、松葉ガニをはじめとしたブランドガニとなっていったようです。

ズワイガニに限らず、水産業は、例えば深い海へのアクセスや遠い海へのアクセスを含めた、漁獲のためのコストに、マーケットのつける価格が拮抗するラインで成立しています。人間の欲望が勝っている限り、より高値で流通します。

そして、テレビショッピングで、インターネットの登場以降は、飲食品ネットショップがお取り寄せを企画してお客様の欲望をあおりました。いつの間にか、正月のおせち料理の一角として、年末年始にカニを食べるのが日本の風習として定着するところまで来てしまったというわけだ。

週末うちの一皿:カナダ産ボイルズワイガニ姿

今日の一皿を作って、味わっていきましょうか。早速、ボイルズワイガニを解凍して、さばいていきます。必要なのはキッチンばさみだけです。

言っておきますが、カニを茹でるのはすごく難しいと言われています。あの独特のみずみずしい柔らかい身質、噛んだ時にしみだす旨味を逃がさずに茹で揚げるのは、技術が要る。その点、ボイルズワイガニなら、しっかりとプロが炊いているので、失敗は無い。ゆで上げた後に、ガス凍結をかけて、ゆで上げの品質で冷凍されている。冷凍後、氷の被膜でコーティングするように、水分を付着させている。

解凍は、冷凍庫で半日から1日程度。
お皿の上でラップをかけて解凍します。先ほどのコーティングした、氷の被膜が溶け出して、冷蔵庫を水浸しにしてしまうし、冷蔵庫の中は乾燥しているので、お皿とラップが必要と言うわけだ。

次にズワイガニをさばいていく、何も難しくない。
甲羅の付け根にある柔らかい関節部分にキッチンばさみを入れて、ぶちぶちと足とカニのはさみを切り離す。これで、甲羅と、足が8本、はさみが2本。

次に、甲羅。裏返した腹側に、三角形の「ふんどし」があります。ここをへし折ります。ここは食べられません。そして、ふんどしを取った所に親指がかかるように腹側を下に手のひらに乗せ、逆の手で甲羅を外します。甲羅の側をはがしとるイメージ。

腹の部分に残っているズワイガニのかにみそを、はがした「甲羅の皿」に移します。ズワイガニの甲羅の内側には、白っぽい薄皮も付着していますが、美味しく食べることが出来ます。

左右に灰色の三日月のような部分が、魚のえらに相当するものなので食べられません。取り除いてしまいましょう。(ガニと呼ばれています・呼吸器官です)これで、一通りさばけました。

次に、身を取り出せるようにします。
足や、カニのはさみの断面の楕円形の頂点くらいにキッチンばさみを入れて、ガシガシ切っていきます。赤い側より、少し白い側よりの頂点の方が柔らかくて切りやすいです。ここまでくれば、ほぼあなたの勝ちです(笑)。上でも下でも硬い殻が外れて身にアクセスできます。

残すは、腹の部分です。
少しだけ構造を理解すれば楽勝です。たっぷり身があって、カニみそも残っていると思うので、頑張りましょう。

腹をキッチンばさみで、思い切り左右に割ります。
切断した足の付け根側から、中央に向けて筒状の半透明な部屋が並んでいるように見えると思います。この部屋の中に、身が詰まっています。筒にキッチンばさみを入れて、身を取ります。隣り合った連続した筒になっているので、隣の筒とつながっている部分を切っていくと、上手く半透明な筒の構造の半分(フタ)が連続して外せます。
これを、左右で行うと、腹の身の部分にアクセスできます。

さかな一代 中乃がさばく

ちなみに、腹の部分の身を取り出すためにキッチンばさみを入れていくと、身がボロボロになりやすいので、フタが取れた後は、先ほどカニみそを移した、「甲羅の皿」へ、箸で掘りながら入れて、カニみそと絡めて食べるのがお勧めです。

週末うちの一皿:ボイルズワイガニ

最後に、産地にとっては、貴重な資源でもあり、枯渇することが無いように、禁漁期間や漁獲枠を設けながら、大切に管理されて守られている。
それは、日本だけの話ではなく、世界のどの漁場でも同じことです。

最後まで読んでくださり、ありがとうございます。「スキ!」と、また読みたいと思ったらフォローしていただけると、励みになりますし、喜びます。ご質問などありましたら、本当にお気軽な気持ちで結構ですから、さかな一代の大人たちコメントへお寄せください。

年内最後の週末うちの一皿になります。さかな一代の大人たちは、豊洲市場の大人たちなので、冒頭の通り、変則日程の開市の中でまとめています。そして、週末の末の配信になりました。
来年も変わらず楽しんでいただけると嬉しいです。

では、また次回をお楽しみに! サラバジャ。


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