【試訳】スクリーン・ニュー・ディール:大量死にまぎれて、アンドリュー・クオモはハイテク・ディストピアを構築すべく億万長者を呼び込む(1/4)

以下は、ナオミ・クラインによる2020年5月9日のThe Interceptの記事 “Screen New Deal―Under Cover of Mass Death, Andrew Cuomo Calls in the Billionaires to Build a High-Tech Dystopia”の試訳です(本文中にある亀甲括弧〔〕内の文章は訳者による補足)。全4回にわたり投稿します。
英語原文:https://theintercept.com/2020/05/08/andrew-cuomo-eric-schmidt-coronavirus-tech-shock-doctrine/

 ほんの数ヶ月のことであった。このかんニューヨーク州知事・アンドリュー・クオモ〔ニューヨーク州知事〕がコロナウイルスにかんするブリーフィングを水曜日におこなっていたが、私たちのスクリーンを数週にわたって埋め尽くしていた深刻なしかめ面は、すぐさま笑顔に似たものに取って代わっていた。
 「準備はととのった。みんなで一緒に乗り切ろう」、州知事はそう感情っぽく発言した。「私たちはニューヨーカーだ。だから積極的に、野心的に挑もうではないか。…知ってのとおり、変化が差し迫っているというだけではない。適切に取り組めば、この変化はじっさい仲間にさえなりえるのだ」。
 こうした珍しくも前向きな雰囲気を醸し出すにいたったインスピレーションは、前グーグルCEOのエリック・シュミットからのビデオメッセージから得られたものだった。シュミットは州知事のブリーフィングに参加し、ニューヨーク州のポスト・コロナ禍の現実を再構想すべくブルーリボン委員会〔調査・研究のための学識経験者の委員会〕を率いることになると発表した。そこで彼は、テクノロジーを市民生活のありとあらゆる側面に永続的に溶け込ませると強調していた。
 「私がやろうとしている最優先事項として」シュミットは言った。「リモート医療、リモート学習、そしてブロードバンドに焦点をおく。…私たちは現在提示可能な解決法に期待し、加速させ、そして事態をより良くすべくテクノロジーを使用しなければならない」。前グーグル最高責任者の目的が純粋な慈善事業であることに疑いの目が向けられないよう、彼のビデオの背景には一対の金色の天使の羽が額入りで飾られていた。
 このちょうど一日前、クオモは「よりスマートな教育システム」を開発するためビル&メリンダ・ゲイツ財団と同様のパートナーシップを結んだことを発表している。ゲイツを「先見の明がある」と評しながらクオモは、パンデミックが「(ゲイツの)アイディアを取り入れて発展させることが実際にできる歴史的瞬間」を作り出してきていると述べ、「〔対面式の授業が〕ありとあらゆる校舎で、ありとあらゆる物理的教室でおこなわれている。テクノロジーあるにもかかわらず、一体なぜだろう」と、いかにももってまわったような言いかたで尋ねた。
 事態がまとまるまでいくらか時間がかかったものの、パンデミック下での首尾一貫したショック・ドクトリンに似たようなものが姿を現しはじめている。これを「スクリーン・ニュー・ディール」と呼ぼう。これまでの惨事においてみられたどんなものよりもずっとハイテクな未来社会が、死骸が目下積み上げられてゆくなかで急速に形成されている。しかしこの未来は、物理的孤立状態にあった過去の数週間を痛ましくも生命を救うために必要だったものとしてではなく、永続的な―そしてきわめて収益性の高い―非接触型の未来を作り出すための生きた実験場として取り扱うのである。
 メリーランド州に拠点をおく、自動駐車場むけの技術を販売する企業であるスティアー・テックのCEOであるアヌジャ・ソナルカーは、対ウイルス防護技術についてこのような評価を最近下した。「人間不要の、非接触的技術がはっきりとウォーミングアップ段階にきている」と彼女はいう。「人類の存在は生物災害だが、機械はそうではない」。
 これは、私たちの家庭が完全に私的な空間ではもはやなくなり、高速デジタル通信によって学校でもあり、診療所でもあり、ジムでもあり、そしてもし国家がそう決定を下すなら監獄でもあるような場となる未来だ。もちろん私たちの多くにとって、家庭はパンデミック以前からすでに決してオフにならない仕事場であると同時に主要なエンターテイメントの開催地へと変化していたのであり、「コミュニティ内での」監視をつけた投獄はすでに大流行していた。しかし目下急速に組み立てられつつある未来社会では、こうしたトレンドの全てがワープスピードの加速に入る準備ができているのである。
 この未来社会では、特権階級にとってはほとんど全てのものが、ストリーミングやクラウド技術を通じて仮想的にであれ、運転手のいない車やドローンをつうじて物理的にであれ家庭に配達され、媒介となるプラットフォーム上でスクリーンが「共有される」。この未来社会では、教師、医師、運転手が雇用される人数はいっそう少なくなり、現金やクレジットカードの使用は(ウィルス統制の名のもとに)拒否され、大量輸送システムは痩せ細り、生でおこなわれる芸術活動はいっそう減る。またこの未来社会は「AI」によって運営されていると主張されるものの、じっさいには倉庫、データセンター、コンテンツモデレーション〔ネットの情報を監視・削除する仕事〕工場、電子スウェットショップ、リチウム鉱山、工業型農場、食肉処理工場に押し込められた数千万の無名の労働者の一群によって運営されており、またこうした労働者は感染症や極度の搾取から保護されていない。そしてこの未来社会では、政府とテクノロジー系最大手企業による前代未聞のコラボレーションによって私たちの全ての移動、全ての発言、そして全ての人間関係が追跡可能で、跡付け可能で、データマイニング〔膨大なデータを解析しパターンなどを発見すること〕可能となるのである。
 もしこれらいずれもどこかで聞いたことがあるのならば、それはコロナ禍以前に、こうしたアプリに駆動されギグ労働を燃料とする未来社会がすでに私たちにむけて、利便性、フリクションレス〔消費活動において手間やストレスを感じさせないこと〕、パーソナライゼーション〔サービスを個人向けにカスタマイズすること〕の名のもとに販売されていたからにすぎない。いっぽうで私たちの多くは懸念を抱いていた。遠隔医療オンライン授業の安全性、質、不平等さについて。歩行者をなぎ倒す運転手のいない車 や、ドローンが荷物を粉々にし (そしてに危害を加える )ことについて。位置追跡キャッシュレス化がプライバシーを抹消し人種差別や性差別を固定化することについて。無節操なソーシャルメディアのプラットフォームが情報環境や子どもたちのメンタルヘルス汚染すること について。センサーで埋め尽くされた「スマートシティ」が地方自治体にとってかわること について。こうしたテクノロジーが良質な仕事を一掃することについて。そしてこれらが質の悪い仕事を大量生産することについて。
 そして何よりも私たちは、一握りのテクノロジー企業のもとに蓄積した富と権力が民主主義を脅かすことに懸念を抱いていた。こうした企業は責任放棄の名人だ―メディアであれ、小売業であれ、輸送であれ、彼らが現在支配する領域に取り残された残骸にたいするありとあらゆる責任を回避していることからわかるように。
 ここで述べたことは、〔二〇二〇年の〕二月として知られる遥かな過去の出来事である。こんにちでは、こうした十分に根拠のたしかな懸念事項はパニックの津波によって一掃され、この二番煎じのディストピアが突貫工事の再ブランド化をつうじて成立しつつある。現在では痛ましい大量死を背景とし、こうしたテクノロジーがパンデミックから私たちの生命を守るための唯一の可能な方法であり、私たちやその愛する者の安全を維持するための必要不可欠な鍵であるという疑わしい約束のもとで販売がおこなわれている。
 クオモそして彼がさまざまな億万長者結んだパートナーシップ(例えば、マイケル・ブルームバーグと結んだ〔コロナウイルス感染の〕検査と追跡にかんするパートナーシップなどだ)のおかげで、ニューヨーク州はこのぞっとする未来を展示する輝かしいショールームとしての地位を確立しつつある―もっともこの野望の目指すところは、あらゆる州や国の境界を超えた場所にあるのだが。
 そしてその中心にいるのが、エリック・シュミットである。アメリカ人がコロナウイルスの驚異を理解するずっとまえに、シュミットは積極的なロビー活動とPRキャンペーンををおこない、まさに「ブラック・ミラー〔イギリスのドラマシリーズ。急速な進化を遂げたテクノロジー社会を描くディストピアSF作品〕」のような社会ビジョンを推進してきた。これはまさに、クオモが彼にたいして建設するよう権限を与えた社会そのものであった。このビジョンの核心は、政府と一握りのシリコンバレーの大企業とのシームレスな統合であって、公立学校、病院、診療所、警察、軍隊といったすべてがその中核的機能の多くを(高コストで)私的テクノロジー企業にアウトソーシングするところにある。
 これは、シュミットが国防イノベーション委員会で委員長としての役割を果たすなかで推進してきたビジョンである。シュミットは委員会のなかで軍がAIの使用を増やすよう助言するとともに、AI国家安全保障委員会 (NSCAI)という影響力のある組織の委員長として議会に「AIおよび関係する機械学習、および関連のある技術の開発を推進」するよう助言し 「経済的リスクを含む、国家・経済安全保障における合衆国のニーズに」取り組むという目標をかかげている。両委員会に名を連ねているのは、オラクル、アマゾン、マイクロソフト、フェイスブック、そしてもちろんシュミットの仲間たるグーグルといった企業からやってきた、影響力のあるシリコンバレーのCEOや最高幹部たちである。

(続く)

#ナオミ・クライン #惨事便乗型資本主義 #COVID19