飛行機に置いてある雑誌風コラム #4

さて、酒の話でもしようか。
いま機内でこれを読んでいる読者諸君並びに、当雑誌を機外に持ち帰り読んでいるテイクアウト族諸君。
酒は好きだろうか?
「毎日飲む」「嗜む程度」「一切飲めない」
様々な人間がいるだろうが、私にとって酒と旅は決して切り離す事が出来ぬものだ。
言うなれば、龍と虎である。
「どちらが龍でどちらが虎か」などと言うくだらぬ疑問を持った者とはぜひ掴み合いの大喧嘩をしたい。
先日、今年で5歳になる愛息と訪れたデパートの屋上で、戦隊ヒーローショーを観ていた時、動きの悪さが抜きん出ていた緑タイツと掴み合いの大喧嘩になり、ふと思い立った。
「次の旅は酒を主役にしよう」
泣き喚く愛息の面倒をデパートの連中に任せ、私は国道沿いで空車を確認したタクシーに乗り込んだ。
「羽田空港まで」と呟く私。
「高速は使われますか?」と尋ねる運転手。
「お好きな方で」と返す私。
「それでは困る」と食い下がる運転手。
気がつくと私は、運転席のシートをテコの原理さながらバールで引っぺがし、運転手ごと車外に放り投げ、掴み合いの大喧嘩になっていた。
助手席の運転手証明照明版に書かれていた
「偽宮 真」
と言う、おおよそプラマイゼロの氏名を白目で確認しながら。
偽宮にバールを奪われ頭をカチ割られた私は、パチンコ店の外壁の鏡を覗き込み、縫うほどの怪我ではない事を確認すると、駅前へと向かった。
お目当てはここだ。
「立ち飲み・座り飲み 酔いの字固め」
初めて訪れたのだが、以前から食べログや飲みブロ、店ッター等の評価が高く、気になっていた店だ。
流石に血まみれで入店するのは気が引けるので、はす向かいにあった100円均一の店先でタオルを盗み頭に巻いて、のれんをくぐった。
店内は満席で、厨房には50絡みの店長と思しき男性と、ツーブロックの髪と和彫りの刺青がしゃくに触る若い男の店員がいた。
若い店員が口を開いた。
「いらっしゃいませ!申し訳ございませんお客様、ただいま店内は満席でして...
次の瞬間、私は重心を下げ、割れた頭の位置をグッと落とし、マーベル映画のウルヴァリンよろしく彼に突進した。
さあ、掴み合いの大喧嘩だ...
と、その刹那、無理に力んだ私の頭から、凄まじい量の血液が噴射したのである。
まるで水芸であった。
まるで水芸であった事を伝えたかった私は
「裏江戸名物赤水芸!これがホントの赤富士噴火!」
とおどけて大声を出したが、これが良くなかった。
更に勢いを増す出血に、飛び交う怒号と悲鳴。
結局、念願の掴み合いの大喧嘩も出来ずに、筆者は今、病院のベッドでこの原稿を書いている。
日に日に増す手術の可能性と、賠償金の膨らみに怯えながら私は思った。
そう言えば私はほぼ下戸であった、と。

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