自己啓発コラム #1

20代の頃、運良くテレビで一流芸能人の方とお仕事させていただく機会がありました。僕はそこで数多くの失敗を繰り返したのです。
舘ひろしさんと柴田恭平さんに取材をさせていただいた時の事です。映画の舞台挨拶の合間にお時間をいただいたにも関わらず、僕は「タメ口・グラサン・アフロヘア」という異常なキャラクターでインタビューに挑みました。無名芸人を朝の情報番組に出す為に、恩人の作家さんが考えて下さった大切なキャラだったのですが、お二人からすると、全く意味がわからなかったはずです。
高級ホテルの一室に緊張感が走る中、カメラが回り始めました。僕は作家さんが考えて下さったキャラを守り、口を開きました。
「さあみんな!今日は舘ひろしさんと柴田恭平さんにお話を伺うぜ!」
その刹那、柴田さんが静かに諭しました。
「失礼の無い様にね...」
若く阿保な僕にも理解出来ました。柴田さんはご自身より先輩である舘ひろしさんへの失礼がない様に気を使ってらっしゃっている。ここでタメ口を続けるのは無益だ、と。
しかし無情にもディレクターさんが掲げたカンペにはこう書かれていました。
「そのままで」
僕は垂れる脇汗の冷たさを感じながら「そのままで」続けました。
「今回の映画なんだけど〜」
柴田さんが吐息で吠えます。
「先輩に失礼の無い様にね...」
阿保アフロの予感は当たっていました。柴田さんの舘さんへの尊敬は本物だったのです。
しかし僕の、恩人作家さんへの感謝も本物です。垂れる脇汗がサテン生地の赤シャツを黒く染めるのを感じながら、こうのたまいました。
「でもこういうキャラだからね!」
言葉尻を遮り、柴田さんが至極真っ当に、吐息で叫びました。
「関係ないでしょうが!」
僕はグラサンの中で白目を剥きながらただただ立ち尽くしました。
柴田恭平さんといえば、モノマネされる時の決めゼリフはニヒルに吐き捨てる「関係ないね」です。
そんな柴田さんに「関係ないでしょうが!」と叫ばせてしまった自分が情けなくなりました。
結局、一から撮り直し、お二人には、大鶴義丹さんの元奥様のマルシアさんぐらい丁寧な敬語でお話させていただきました。
撮影後はお二人とも笑顔で握手をして下さり、インタビューのVTRも無事放送されました。
その番組では他にも、ジャッキー・チェンさんにインタビューに行った時、緊張しなさ過ぎてチェンさんのSPに「彼はカンフーの達人かい?」と嫌味ギレされたり、ハリーポッター役のダニエル・ラドクリフさんに半パンでインタビューに行き、敵のモンスターみたいなサイズのマネージャーに遅走りでにじり寄られたりもしました。
僕は昔から、無意識で人を怒らせるセンスがある様です。
皆様はどうでしょうか?
目上の方とお仕事をする時に、自分の都合を優先して、知らず知らずの内に嫌な思いをさせているかも知れません。
僕の場合は、自分の都合=タメ口キャラを、優先した結果、大先輩に不愉快な思いをさせてしまいました。しかし、自分の都合=恩人の作家さんへの筋、でもありました。あの場合の正解は、インタビューが始まった瞬間、アフロとグラサンを投げ捨て、大鶴義丹さんの元奥様のマルシアさんぐらいの敬語で挑み、後で恩人の作家さんに謝罪し、今後のやり方を考えるべきだったのだと思います。
全員を立てて仕事をする事は難しいですが、立てる順序を臨機応変に組み替える事は可能です。今ならわかる事ですが、およそ10年間は理解出来ませんでした。僕はあの日ディレクターさんの出したカンペの「そのままで」を勝手に守り続けていたのです。
皆様も今一度「そのままで」いい部分と「そのままで」はいけない部分を炙り出してみてはいかがでしょうか?

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