根腐の腐風 風力3

夕陽がグラウンドに校舎の長い影を伸ばし始めた。
その隙間からウインドバレー部の部員達の軽やかなウイングステップが見え隠れしている。
影の主の中央部に当たる教室内に誠の怒声が散散めいた。
「知らないのに何故オランダの話をした!?一瞬だけ、本場オランダの風発を知らない僕が悪いのかと思ったじゃないか!」
顔を赤化させてそう言った誠とは真対照に、旨垣は朴訥に返弁した。
「知らなければオランダの話をしちゃいけねぇのかよ?お前は知らない物や行ったこと無い国の話をした事がねぇってのかよ?全くよ...ことわざかよ!」
誠には旨垣の返言全てが、特に最後に声を荒げた部分の意味がわからなかった。意味がわからなさ過ぎて逆に冷静を取り戻した。
そして厳かに提言を切った。
「...ことわざじゃないよ。とにかく学園祭まで時間が足りない。旨垣が用意した岩とパンだけじゃ簡易な風発も作れないから、今日は一旦家に帰って...」
その建設的かつ収束気味な意見を遮って、城宮(しろみや)が金切り声を上げた。
「いい加減にしてよ!先崎君!」
誠は現実を疑った。
スリーステップで疑った。
まず一つ。
悪いのは僕か?
今までの流れを客観的に鑑みて、大きな声を出したという己の愚かさを認めてなお 9:1大きく譲ったとて 8:2で自分が正しい筈だ。
なのに現実の自分は何と、0:10のそれとして怒られている。
二つ目に。
異常に間が悪くないか?
どちらが正しかろうが、間違っていようが、口論になっていた事は事実だ。
止めるタイミングはいくらでもあった。
例えば自分の「知らないのに何故オランダの話をした!?」の直後や、旨垣の「ことわざかよ!」の直後。
これらは限りなくベストに近いベターだ。
ところが現実はどうだ?
声を鎮めて、下らない口喧嘩をやめて、事の全てをホワイトホールへ呑み込ませようとしている最中に被り被さった金切り声。
ベストかベターかと問われたら震える脚を腰で保ちながらこう答えよう。
ワースト オブ ワースト バイ ザ デビルであると。
そして現実に於いて最も重要な三つ目。
この娘は誰だ?
誠の脇汗を拾う様に、廊下から冷たい風が吹き巡った。

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