飛行機に置いてある雑誌風コラム #1

人生を旅になぞらえる人がいるが、一方では正しく、一方では誤りだ。
私にとっての「旅」とは、飛行機に乗り込み、生まれ故郷を遠く離れ、まだ見ぬ土地の空気を吸い込む、まさにその道程のすべてを指すのである。
先月のある雨の朝、編集者との掴み合いの大喧嘩がひと段落したところで、ふと旅に出ようと思い立った。
国道沿いで空車を確認したタクシーになだれ込み「空港まで」と呟く私。
「羽田か成田か」と尋ねる運転手。
「お好きな方へ」と返す私。
「それでは困る」と食い下がる運転手。
気が付くと私は、運転席と後部座席を隔てるアクリル板を殴り割り、運転手と掴み合いの大喧嘩になっていた。
助手席の運転手証明照明版に書かれていた
「偽宮 真」
と言う、おおよそプラマイゼロの氏名を白目で確認しながら。
運転席から飛び降りた偽宮に、大相撲のうっちゃりよろしく車外に引きずり降ろされた私。
膝小僧のすり傷の鈍い痛みを抱えながら、駅前へと向かった。
お目当てはここだ。
「立ち食いそば 粉ずり」
もう20年は通っているだろうか?久しぶりに大将の顔が見たくなり、また、今日の膝小僧の痛みを忘れぬ為、あえて立ち食いのこの店を選んだ。
「大将はいるかい?」
そう私が声を掛けた、若い男の店員は、金色に染めた髪とピアスが不愉快であった。
若い店員が喋り始めた。
「申し訳ありません、本日、店長は...
次の瞬間、私は彼に突進し、掴み合いの大喧嘩になった。
私が大人げないという意見も少数あるかも知れないが、殴る蹴るの暴行を受け、筆者は今、病院のベッドでこの原稿を書いている。
真白な天井を見上げ、私は思った。
掴み合いの大喧嘩もまた、旅である、と。

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