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取るものも取り敢えず本、なんていうことは普段はしないんだけど

取るものも取り敢えず本を読んでいたら徹夜になった。普段はこんなことはしない。取るものも取り敢えず本、なんていう生活はしていない。特に本を渇望はしていない。本は読むけど、寝食を忘れて本、本の虫、そう形容できる生活はしていない。教養の為と、少しのエンタメと、少なくない義務感で読んでいるので、ちょっと糸が切れたらしばらく読まなくなるし、それによって禁断症状が出ることもない。そして徹夜などという緩やかな自殺行為も数年ぶりだった。

普段しないことをわざわざ重ねてやった理由は、そんなに大したものじゃない。図書館の返却期限が迫っていたからという理由だ。本は朝までにちゃんと読み終えた。そのまま寝ずにワールド・ベースボール・クラシック決勝戦を観終えて、パフォーマンスの低い重だるい頭を無理やり働かせて、今思えば徹夜を後悔すらしている。絶対徹夜しなくても良かった。だって、たとえ読み終えずに返却期限を迎えても、一旦返却してまたすぐに借り直せばいいだけだからだ。公共財産である図書館の本の返却遵守は重要だけど、なんなら多少遅れても死にはしないし重罰に処されることはない。司書さんに誠実に謝る、それだけだ。でも徹夜したらどうなる?徹夜の致死量には個人差があるだろうけど、量的に積み重ねることで確実に死に繋がる―――それが徹夜だ。僕は公共財産の目先の返却期限と引き換えに、数年ぶりに致死量に一歩近づいた。

ヒトは理屈に合わない行動を取る生き物だ。絶対しなくてよかった、徹夜なんて。本は返却ポストに無事返してきた。開館時間前なので窓口ではなく返却ポストだ。ポストに入れるためだけに徹夜した。割に合っているか?合っていない。返却ポストには、窓口で司書さんと対面することに比べて責任感を軽減させる役割がある。返却ポストだから適当でいいとか、そんなローカルルールはないけど、返却ポストだから適当でいいのだ。なのに返却ポストに対しても僕は義理を尽くした。義理のおつりが返ってくるぐらいだ――――ナチュラルハイの身勝手な思考だ。

そんな渦中の、取るものも取り敢えず読んだのはなんていう本かということは、恥ずかしいからとてもじゃないけど言えないや。