【読書感想文】ジニのパズル 崔実(チェシル)


#読書感想文
「ジニのお尻は真っ赤っか」。ジニという文字を見た時に思い出したのがこれだった。「私の朝鮮語小辞典」(長璋吉著)を読んだ時に、子供同士のけんかで「〜のお尻は真っ赤っか」を先に言われた方が負けというのを見た。別に「ジニ」でなくても良かったんだけど。

私は大学時代にNHKのハングル講座が始まった世代。また講師の先生に直接習っていたこともあって朝鮮半島問題にはそれなりに関心もあったし、新聞社で社長通訳として働いたこともある。

 「群像新人文学賞受賞作」という帯の文句にひかれて買ってみた。読んでびっくりしたのがアマゾンの書籍紹介と書評があまりに乖離していることだ。

 書籍紹介では《チマ・チョゴリ姿で町を歩いていたジニは、警察を名乗る男たちに取り囲まれ……。二つの言語の間で必死に生き抜いた少女が、たった一人で起こした“革命”の物語》とされているのに、書評では概ね高評価な中でも後半がつまらない、半分しか感心しない、などの文句が多い。確かに私も前半の米国留学時代のシーンは、別に書かなくてもいいような風景描写や、物語の進行に貢献するようなやりとりもなく、私も疑問ばかりだった。

 でも受賞の意図は書籍紹介を見ればわかるだろう。立場上、日本には言論の自由があることを示さなければならない講談社や作家の皆さんの総意で世に出すべきだというのが受賞につながったのだと。

 

 これは東京・王子地区の朝鮮学校に通っている在日の生徒さんがテポドン騒ぎの時に町の人からどういうハラスメントを受けたのか、また自分たちはどう考えていたのか、など一冊にまとめられた貴重な歴史的証言の数々だ。そしてそれが小説仕立てで初めて紹介されていることの意義は強調されていい。これは文学以上の理由で選択されていることを気づいていない人が多い。

 これは当時に発表されていれば暗殺されても不思議ではないほどの内容。今自由に見られることは、双方の政治的環境の緊張がなくなりつつある表れなのか。

 作者の描き方はかなり公平だ。戦後に在日朝鮮人は国籍を与えられず南でも北でもない「朝鮮」籍を発行された。南側の韓国の李承晩大統領は「反日政策を貫きすぎるあまり、在日朝鮮人の受け入れを拒否、国籍発行を拒絶、代わりに受け入れたのが北朝鮮だった。「朝鮮籍」の人イコール北朝鮮支持と思われがちだが、それは違う。

 主人公のジニは日本の学校になじめず、朝鮮学校に進路を変更、一時はいじめられたり、通学路でのトラブルに巻き込まれつつ、この教室にただよう異様な雰囲気はなんなのか、と疑問を持ち解決するのがこの主題だ。

 ただきになるのは著者の自作がずっと出ていない点。自分の出自をテーマにすると、もう書くことがなくなって、行き詰まったり、時代小説に路線転換することはよくある。

 作者の次の作品を読んでみたい。


 

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