【短編】パパはウイスキー、わたしはタマゴ ―― 「オロナミンC」へのオマージュ


「はいはい、よそ見しないの」。いらつく母の声とワンセットで、お好み焼きのうえに無情にも絞り出されるマヨネーズ。これってキライやのに。「これがいいに決まってるでしょ」。幼稚園のときに「タマゴは目玉焼きにして載せて」といったら「夜店じゃあるまいし」と有無を言わさずキャベツの海に混ぜ込まれていった。「あのね、好き勝手するとお隣さんみたいになるよ」
 そのお隣さん、同じクラスのハルカちゃんは地味すぎてクラスではだれとも話をしない。でもひとに点数をつけないので僕はいっしょにいると心が安らぐのだ。いつも同じお好み焼きを食べさせられている話をすると「うちも毎週同じ栄養ドリンク飲んでるで」という。丸いセルロイド製メガネをかけたお父さんと、毎週日曜夜は家族でオロナリンパーティー。「ウイスキー入れてニコニコしながら飲んでるよ」。ほな、ハルカちゃんはそのままで? 「ううん、わたしはタマゴを入れてオロナリン・セーキ。妹のハルミは牛乳と混ぜてオロナリン・ミルク。これもおいしいよ。時々取り替えっこしてるし」。 まさか遊びに来るお客さんにも同じものを? 「親戚のおじさんもすっかり気に入ってジンで割ってる」。聞くとなんでも「ワシはオロナリン・カクテル派やなあ、がはははは」と上機嫌らしい。 
 ほんの隣なのに、そんなに自由な家ってあるんだ。家に帰るとテーブルにたこ焼きとメモ。「ちゃんとマヨネーズをかけて食べること」。僕は黙ってマヨネーズを流しにぶちまけた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?