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〈怪談〉二上山の小さな喫茶店

注意:この話をすると、なにを聞いているものか、結構な割合で「あの古民家でそんなことが?」という反応を返す迂闊な人間が居る。実在の場所を出しているのは、明確に違うらしいからなので、とにかくそこを間違えないでいただきたい。

平成になったばかりの頃だから、もう30年以上昔の話になる。
当時、バーガーショップでアルバイトをしていて、同じバイトの女の先輩に聞いた話しだ。
先輩は無口な方で、休憩時間にもどちらかといえば、話しをきいてもらってばかりいた。
そんな先輩がある日、「変な話というか……」と前置きしてして、この話しは始まった。
「友達から聞いた怖い話なんだけど、全然聞いたことがなくて……。だから、似た様な話を聞いたことがないかと思って……」
先輩としては、この話しをした友達に担がれたのか、どう考えたものか困っているという。

先輩の友達が車を買い、別の友人と二人連れで二上山にドライブに行ったそうだ。
二上山は高岡市と氷見市の境の辺り、山の上を走る道があって、地元の若者が免許を取ったらとりあえずそこに行くし、当時はそこで夜通しスピードを競っている連中が居た様な、いわばお馴染みの場所だ。
二上山の万葉ラインのドライブの定番は、平和の鐘という巨大な釣鐘のある鉢伏山駐車場とかつて守山城という城があったと言われる城山公園駐車場の間、3km弱を往復することだ。

先輩の友達も、なんとなく万葉ラインを往復していて、ふと小さな建物を発見したそうだ。どうやら喫茶店らしい。全然気が付かなかったそうで、入ってみようということになった。
それは、何の特徴もない小さな喫茶店でカウンターがあって、四人掛けのテーブルが幾つか窓際に並んでいて、奥にトイレがあるような、ごく狭く縦長の店だったそうだ。
二人のうちのどちらかはわからないが、注文の前にトイレに行くことにした。
ところが、トイレの扉を開いた途端、生臭い臭いがどっと押し寄せてきて、壁も床も、血が滴った様に真っ赤になっており、とても入れたものではなかった。
「これはおかしい」と引き返し、メニューを選んでいる友人に、とにかく出ようと言って、手を引いて店を出ようとしたところ、出口近くのレジのところに立っていた店員が無言でこちらを見ている。
その目が異常にギラギラと大きく見開かれていて、にたにたと笑う様な口もやたら大きく、とにかく異常なほどの鼻息の音も聞こえたそうだ。
二人はとにかく、その店員の前を祈る思いで通り過ぎ、店を出て、車に飛び乗って二上山から降りたということだった。

二上山の万葉ラインには一軒、古民家が建っている。この建物は目立つし、喫茶店だったりラーメン屋に使われていたりもしたので、知っている人も多いはずだ。
そのまま先輩に聞いた。
「一軒、古民家が建ってるやつじゃなくて?」
「私もそこかと思って聞いたけど、全然違うって」
確かに、そもそも小さい建物ということだった。
「どの辺なんだろう……」
「それがどうもはっきりしなくて……」

話しは結局そこまで。
先輩の友達は、怖いのでもう二度と二上山には行きたくないということで、これ以上確認もできなかったそうだ。
二上山、万葉ラインのどこかに出現した小さな喫茶店の話しを聞いたのは、これが最初で最後。怪談話によくある、他の場所で似たパターンというのも含めて、誰からも聞いたことがない。

再び注意:おわかりいただけただろうか。とにかく、あの古民家のことでも、お寺のことでも、どうやって到達したらいいのかわからない廃墟のことでもないので、くれぐれも間違いのない様にお願いします。

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