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アイスクリームフィーバー

千原徹也監督作品、吉岡里帆氏主演映画「アイスクリームフィーバー」を見てきた。

映画好きにはたまらないでお馴染みキノシネマ天神で上映された今作は、予告の段階でエモーショナルな感じがすごい私好みで、ワクワクしながら見に行った。


……で、みてみた結果。 

「うーん、なんだったんだろう。この映画は」

鑑賞後、この言葉だけが頭の中をグルグル回っていた。
なんだか今まで私が築いてきた“映画“という概念がぶち壊された映画だった。

あらすじ

美大卒後、デザインの会社に就職するも上手く馴染めず、現在は小さなアイスクリーム店でバイトリーダーをしている主人公の常田菜摘。
ある日突然来た客の橋本佐保に、一目見た時からなんだか運命的なものを感じ、彼女の存在が頭から離れなくなる。
そんな菜摘を複雑な表情で見つめている桑島貴子を他所に、菜摘は佐保の部屋でアイスクリームを作ることになる。
一方、アイスクリーム店の近くに住んでいる高嶋優の元に、疎遠になっていた姉の娘、美和が急に訪ねてくる。
数年前に出て行った父親を探しに来たという美和を、素直に迎え入れることが出来ない優には、彼女と姉の間にある苦い記憶が原因だった。

以下ネタバレあり感想


映画らしくない映画

まず最初に言っておく。
この映画、かなりの駄作
少なくとも私にとっては。

予告の段階で期待してただけあって、ちょっと、いや、かなりガッカリだった。

まず、映画としてみづらい。
画角が通常の16:9ではなく、ほぼ真四角の4:3。
ブラウン管テレビと一緒。
せっかく大きいスクリーンで見に来ているのに、目の前に映る小さな真四角の映像。
描いてる時代がその頃の話ってことならまだ納得がいくけど、時代は超現代。
なぜ昔の映像画角で撮った?
なんのためのスクリーン上映?

そして映画の途中、特に後半不自然に止まる音楽と映像が嫌というほど続く。
映像と音楽が止まったら、「あ、ここで映画が終わるんだ」と思うものだけど、そこでは終わらない。
なぜここで?という場面で切って、映像が流れて、続くんだ…と思ったらまた音楽が途切れる。
だからむちゃくちゃテンポ悪くて本当に見ていてストレスだった。

この2点のおかげで、日常の些細な一瞬を切り取っているような印象を受けた(4:3の画角に対しては、パンフレットを読んでそれが監督の意図だったわけだけど)けど、それが人のスマホに残ってる素人映像を、映画館で見せられてる気分。
それでも何かグッとくるものがあればいいものの、映画館でわざわざお金を払ってみる意味があるのか?と思うくらい内容は薄っぺらい。

ティッシュを割いて向こうが見えるくらい、薄っぺらい。

どっちかだけで良かった

この映画の流れを簡単に言うと、アイスクリーム店で働いていた常田菜摘が、橋本佐保の家でアイスクリームを作って一夜を共にした後、佐保が突然いなくなっていて、やがて、その部屋は引き払われた。
その後、その部屋の新たな住人になったのが、銭湯大好きキャリアウーマンの高嶋優。
その高嶋優もまた引っ越して、今はまた別の住人がいるっていう話。

それで、今作の元になった作品には、川上未映子氏の短編小説「アイスクリーム熱」や、松任谷由実氏の「静かなまぼろし」が挙げられ、「アイスクリーム熱」パートを吉岡里帆氏演じる常田菜摘、「静かなまぼろし」パートを松本まりか氏演じる高嶋優の視点で進められる。

元々短篇小説や、歌詞の一部を元に映画化してるわけで、映画として作品を完成させる為に1つに合体させたのは分かる。
分かるんだけど、これが必要だったのかと言われると首を縦に振れない。

それぞれのパートが中途半端で、情報量が圧倒的に足りない。
映画は映像で見せるものだと言われるとそうなのだけど、そうだとしても鑑賞者が登場人物に感情移入するための台詞や根拠付が足りなさすぎて、消化不良を起こしていた。

それならどっちかだけに絞って、登場人物の心理描写をもっと緻密に描いてほしかったの思うのは私のわがまま?

特に、菜摘パートは菜摘と佐保が仲良くなる過程があまりにも唐突で雑すぎて、なぜお互いが惹かれあったのかよく分からない。

その点、松本まりか氏の高嶋優と姪の美和とのパートはお互いのキャラクターとストーリー性は惹きつけるものがあるこっちだけで映画一本にしても良かったのでは?と思っていた。

唯一良かったセリフ

上手く言葉にできないということは、誰にも共有されないということでもあるのだから。つまりその良さは今のところ、わたしだけのものということだ。

アイスクリームフィーバー/常田菜摘のセリフ

でもこの映画の中で、私がちょっといいなと思えた台詞が1つだけあった。
それが、この台詞。

誰かを好きになった時、その魅力や好きなところを一生懸命表現したいのだけど、ちっとも上手く言えなくてもどかしくなる気持ち、でも、自分の中で確かに好きな気持ちはある、そんな恋する乙女の可愛らしい心情を表現していて、とても気に入っている。

でも、これは原作にもある台詞だけど。

女の子同士の恋愛をもっと見たかった

原作はもともと男女の恋愛感情を描いていた。
この原作の設定を改変して、女の子同士、それも大人の恋愛を描いていた。

なら、その女の子の恋愛をもっと楽しませてくれよ!!!!

そもそも、なぜ菜摘が佐保を一目見ただけで運命的なものを感じ、彼女をついつい追ってしまうのかよく分からない。
「一目惚れです」と言われたら、そうですかって感じではあるけど、男女ならまだしも、同性で、しかももともとそういう性的嗜好じゃない(もしかしたらそうなのかもしれないけど、そんな描写は一切ない)人が、そう簡単に一目惚れして、我を忘れるほどその人を追ってしまうものなのかなー?と思う。

それに菜摘は一目惚れだったとしても、佐保は何故菜摘を気に入ったのか、そして、菜摘は何故佐保に気に入られてるの自覚できたのか、何もわからず話が進んでいく。
設定が面白そうだっただけに、ここをもっと深掘りして欲しかった。

私が過去に見てきた作品だと、BLでも百合でも、元々そういう気があったにせよ、ないにしろ、なぜその人に惹かれたのかというのを、たとえ一目惚れであったとしても、もっと丁寧に描いている。

せめて台詞でたった一言でも「一目見た時から好きだった」とか言ってくれれば(原作にもその描写はある)まだ納得は出来たのに、そこは演者の表情と目線と、行動だけで説得させようとしてるのが、なんだか不親切だと感じてしまった。

それで、1番許せなかったのが菜摘と佐保のアイスクリームを作った後のシーン。
アイスは大失敗で、でもそんなことどうでも良くなるくらいお互いしか見えなくて、顔が自然と近づいていく。
お、キスするのかと思ってドキドキし始めたところで不自然に映像が切り替わる。

もう全く関係のない映像に。

もう、はー?よ。はぁ。
せめてそこを描いてくれたら一夜の甘い思い出って感じで綺麗に収束するのに、そこを不自然に描かないせいで、むちゃくちゃ中途半端。

そこ描かないなら、なんのために女の子同士の恋愛に切り替えたんだよ!!!

一応、原作でもキスシーンはなくて、ただ一夜を共にしただけだったから、映画でもそこを省いたのかと思ったけど、じゃあわざわざ改変する必要ないし、顔を近づける描写もいらなかったじゃん!

という具合に、この作品はかなり消化不良で終わる。

最後に

この映画の監督の千原氏は、元々CMやMV制作をしていたアートディレクター。
そのことをパンフレットで知った時は、「あーだからかー」と妙に納得したのを覚えてる。

映像はかなりエモーショナル、出てくる女の子が可愛くて、でも、それだけで何も残らない。
監督の自己満足、そんな作品だった。

でもこれがこの監督の映画初作品で、たくさんの人の協力を得ながら一生懸命作ったんだろうなーというのはすごく伝わってきた。

見づらいなと思うポイントも、監督なりの思いやこだわり故で、まんまとその思いに乗せられてたわけで、それはなんだかちょっと可笑しかった。

これは映画じゃない。
映画制作をデザインする。

新しい映画制作の形、そして可能性を見出したようなこの作品。
千原監督の次の作品がちょっと気になるような。気にならないような。


エモーショナルな気分に浸りながら、可愛い女の子が観たい貴方に、是非。

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