見出し画像

コネコとシイナさんとお盆の話6:花火とご先祖様

慌ただしかった今年のお盆も、今日が送り火だそうです。
「フィナーレにゃ。花火なのにゃ」
コネコが見に行きたいというので、日が暮れるのに合わせて歩いていくことにします。毎年音だけは聞いていたけど、見にいくのは初めて。
「川の向こうで上がるのにゃ」
「コンビニでビール買っていい?」  
「シイナさんは、迎え火といえばビール、お祭りでもビール、花火でもビールですにゃあ」
コネコが文句を言うので、レジ横でフランクフルトを買って与えます。歩いているうちに、どーん、どーん、という音が聞こえてきます。
「もう始まってるのにゃ」
川辺の小高くなった縁を登ります。  
足元に気をつけて登り切ると、打ち上げ場所から真正面とはいきませんが、その分人も多過ぎなくていい感じです。
ちょん、と座り込んで鑑賞することにします。
二本目のビールとじゃがりこも出てきます。「コネコにもじゃがりこ下さいにゃ」

ぷしゅう。どーん、ひゅー、ぱらぱらぱらぱら。  

遊園地や海岸でやるような大きな花火ではないけれど、遠くにちらほらと様々な色の花火が上がっては消え、上がっては消え、そのたびに思いの外大きな音がお腹の底まで響くのは風流なものです。火薬の匂いが風に乗ってきて漂います。
「今のやつ大きかったにゃ!」
「そろそろ終わりかねえ」  
どん、どん、どん、と立て続けに大輪の花火と、続けて特大の枝垂れ柳。
そのあとにもう一度、いくつもの小さめの花火が立て続けに上がって、どうやら今年の花火大会はおしまいのようです。
固まりつつあった膝を伸ばしながら立ち上がると、酔いが回って少しふらつきます。
「あら大丈夫?」  
手を差し出してくれたのはほっそりとした浴衣の女性です。
指先は夏でも冷え性のシイナさんよりも冷たくて、川の風に浴衣の袖もはためきません。
ああ、生きてない人だな。とシイナさんは感じました。
「あたしも帰るから、気をつけてね。元気そうで良かった」
そう言って女性は微笑みます。  
足早に去ってしまった女性の後ろ姿を思い出しながら、シイナさんは考えます。本屋さんのお客さんだった人かな? 最近亡くなった人? 常連さん? 
…うーん、思い出せない。
「今の人、シイナさんのご先祖さまにゃ?」
「…あ、ひいおばあちゃん」
思い出せないはずです。シイナさんが産まれるだいぶ前に死んでしまっているから、写真で見た会ったことしかなかったのです。  

家に帰ってから、迎え火より丁寧に送り火を焚いて、シイナさんはもう一本ビールを開けました。
「今日は飲み過ぎなのにゃ、三本目にゃ」
「飲む理由が増えたから仕方がない」
風が吹くにも関わらず、白い煙は上へ上へとどんどん伸びていきます。
「コネコもご先祖さま、会ってみたいにゃ」  
 

おもに日々の角ハイボール(濃い目)代の足しになります