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女のひとりごと#1『占いで“自殺するタイプ”と2度言われた女』

30代前半。私は人生の迷宮を彷徨っていた。
夢も、仕事も、お金も、男も。

そんな女が誰の言葉に耳を傾けると?
占いですよ。
心の奥底から血ヘド吐いている時は、怪しい扉ほど開けたくなるものなんですよ。



【1人目】

手相を見て早々、彼は大笑いした。
「変態だねぇー!」
見れば見るほど、良いことは見つからないのか、眉をひそめながら私を毛嫌いするかのような口調で
「こりゃ変態だよぉ~」
と何度も言った。

そこは六本木のとある店で、6人くらいの会食の場。志を共にする仲間の紹介で出会った男だった。
彼は大手企業で営業トップを守り続け、50代半ばでセミリタイアし、今は個人で企業コンサルやアドバイザー的なことを趣味程度にやっていた。

彼は人を“見る”ことができた。
そしてこの只ならぬ能力に磨きをかけるために、占いも学んでいた。

それを職業にはしていない。
“見て”と言われたら“見る”、そんなスタンスだった。

彼に変態と言われて、私はピンと来なかった。
確かに、一般的な女性が歩む道を進んでいるとは思っていない。
でもさすがに変態って…。

お酒も入っていて、場は「変態」というキーワードに沸いた。
ピンと来ない私は必死で否定するが、彼は
「思い当たることはあるはずだよ」
と不適に笑った。

いやいや、何が? むしろそれを教えて欲しい。

そう言うと、彼は改めて私の手を覗き込んでさらに表情を曇らせた。
はっきりと聞き取れなかったが、「ここで言うようなことじゃない」というニュアンスだった。

場はさらに白熱する。
聞きたい!
聞きたい!

彼は重い口を開いて

「2~3年後、自分で自分を消す選択をしそうだね」

と言った。

誰かが、
「自殺ってこと?」と聞いた。

彼は少し困ったような表情もしながら
「そうだね、そういうタイプ」
と言った。

私の中で、自殺という選択肢が人生で誕生した瞬間だった。



【思う自分になれなかった】

私には男がいた。
定期的に会って、飲んで、ベッドで仲良しする関係だった。

私は本気だった。何度も好きだと言った。
しかし男の方は私のことを好きだと自覚していながらも、それを悟られることを嫌っていた。
自分には夢があって、今はそれどころじゃないんだと。
私は、彼がパソコンデスクで手書きで領収書を書いている背中をいつも眺めていた。

その頃、私は仕事のこと、親のことにも悩まされていた。
東京に出た時にイメージしていた理想の私なんて
これっぽちも存在していない。
何年経っても現れない。

熱く理想に燃えていた仕事は思うように行かなかった。
家賃を何ヶ月も滞納することもあった。
そういう生活を親になじられていた。

私はきっと一発逆転を狙っていたんだ。

せめて結婚相手を実家に連れて帰って、
東京行きを決して賛成しなかった親を
もはや何でもいいから見返したかったんだ。

けれど、あの男ではそれも無理っぽい。

私は何にもなれなかった。
何もつかめなかった。
結局、年を取っただけだった。

以前占いで「自殺するタイプ」と言われた言葉はずっと脳裏にあった。
そろそろあれから2年は経つ頃だと、ふと思った。



【2人目】

私は一人、祖師ヶ谷大蔵の有名占い師の元へ行った。
今度は自分で探して行った。
どんなことでもいい。
誰でもいいから、一筋の光を見せて欲しかった。

そこは普通の一軒家だった。
さらに普通のおばちゃんが出てきて驚いた。

仕事部屋に通され、生年月日と名前を書かされた。
何が聞きたいか尋ねられ、そして彼女は何かを計算し始めた。
計算が一通り終わると、私の悩みについて答えていった。

今更何を言われたかは覚えていない。
ただ最後に、
「まだまだ希望はあるわよ。○○(忘れた)の人って言うのがたまにおられて、そういうタイプの人は何をやっても本当にダメでね、最悪自殺とかしてしまうような人もいるのよ」
私は、彼女が分厚いノートやら辞書(?)やらを開いてまた何かを計算している手元を見ながら「そうなんですか」とぼんやり聞いていた。

すると突然「ハアッ!」と、彼女は声を出した。
手が止まっていて、眼球だけで数字を追っているようだった。

私には何が起こったのかは分からない。
次の彼女の動向を静かに待っていると、
「ごめんなさいね…」と彼女は言った。

「さっき言った、○○タイプだわ、あなた…。そんな、こんなこと滅多にないのに…。ああ、ごめんなさいね、さっきあんな言い方をしてしまって…。ええっと、このタイプの人はぁ…、ええっと…」

本当に珍しいのだろう。
うかつに口を滑らせたばかりに言葉に詰まってしまっていた。

要するに、名前が良くないらしい。
早く結婚をして、名字を変えなさいと言われた。
36歳までに。
それまでに名前を変えないと、その先は見えないと。

私はやはり、お先真っ暗、自殺タイプだったらしい。



その年の12月30日。
私は東京を離れた。
実家から車で2時間弱の土地で、新しい仕事、新しい人間関係を築き始めた。

その一年後、私は今の夫と出会った。
36歳になる年だった。

名字が変わるのはもう少し後になったが、
私の運命は占い通りにはならなかった。
今は当時が信じられないくらい穏やかで、
子供はいないが夫婦で毎日楽しく暮らしている。



しかし、


自殺というキーワードは決して私の頭からは離れない。


なぜなら、
たぶん私は、
夫が亡くなれば後を追うのではないかと思っている。



仕方ないよね。



私はそういうタイプだから。


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