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追憶〜詩織ちゃんとゴン

令和2年11月12日(木)。
娘を連れて、日出町の大神ファームへ向かう。

この大神ファームは、「別府湾を一望する海岸線と美しい森に包まれた広大な園内にはハーブやバラなど様々な植物と、石や木など自然素材を使った建物が調和し、やすらぎに満ちた空間を演出しています。
自然と調和しながら、心豊かに暮らすスローライフをご提案致します。」と、ホームページに掲載されているとおり、本当にやすらぎに満ちており、「スローライフ」という感じなのである。

なんて平和な画なんだろう。毎日こんなふうに過ごせたらいいのに。きっと心豊かな人間になれるに違いない。

ーーなれんか。


私がこの「大神ファーム」を知ったのは、今から10年ほど前だろうか。

親友詩織ちゃん(仮名)が連れて行ってくれたのが最初である。

詩織ちゃんは、浪人時代に予備校で出会った友人である。その時点では、たまにしゃべるくらいで、すごく仲が良いというわけでもなかった。その上、私と詩織ちゃんは別の大学に進学することになった。

大学の合格発表の日、予備校に報告に出向いた時、たまたま詩織ちゃんと出会した。

そこで初めて、詩織ちゃんと連絡先を交換する。

縁というのは不思議なものである。必要な人はちゃんと残っていく。
そして、一旦離れるようなことになっても、また戻ってくる。

大学進学後も、我々はたまに会って色々な話をした。詩織ちゃんは卒業後はこちらに戻ってきたので、私は嬉しく思った。

詩織ちゃんは、見た目は上品で、皇室のメンバーに紛れていても不思議ではない雰囲気である。しかし、意外にひょうきんな一面もあり、私と一緒に変なノリになることもある。

私と詩織ちゃんは、死生観がとても似通っている。
私の死生観は、一般とはかけ離れていると思う。多分アウトな感覚なので、内容は割愛するが、そうそう合う人はいないと思う。

もう一人の親友荻子(仮名)は、この詩織ちゃんとは全く違うタイプである。

荻子が私を自分とは逆方向に引っ張ってくれるのに対し、詩織ちゃんはより内側に深めてくれるイメージである。

この相対する性質は、どちらも私にとって必要なものである。

この大神ファームに来ると、詩織ちゃんと詩織ちゃんの愛犬ゴンと一緒に来ているような感覚に陥る。
1人で来ても、友人と来ても、家族と来ても、必ず詩織ちゃんとゴンが一緒にいるのである。

詩織ちゃんに紹介されてから、もう何度来ただろうか。

春はミモザにバラ。

夏はひまわり。

秋はコスモスに秋バラ。

本当に癒しのスポットである。

私も詩織ちゃんも荻子も、花が好きという共通点がある。

元々花が好きであったかと言われると、そうではないと思う。少なくとも、大学生の頃までは、わざわざ花を見に行こうとは思ったことがなかった。

私の植物好きは、社会人になって急速に進んだものと思われる。温泉に興味を持ち始めた頃とほぼ同時期であり、やはり病んでいたのではなかろうか。

「人」に嫌気がさすと、「自然」を追い求める傾向にある。

特に、詩織ちゃんと私は、めちゃくちゃバラにハマっていた時期がある。(今も好きだが。)

九州最大のバラ祭りといえば、ハウステンボスのバラ祭りである。
私は「九州最大」だと思っていたのだが、実は「アジア最大」らしい。

ーー日本通り越したん?

確かに、こんなにバラが集結した場所はそうそうないと思う。

私と詩織ちゃんは、この祭典に何年か連続で一緒に行っている。

我々にとっては楽園である。

近所に住んでいたら毎週通っていたと思う。
しかしハウステンボスは長崎県。

大分から簡単に通える場所ではない。

そんな時、「大神ファーム」は春にも秋にも身近でバラ園を堪能することが出来る。

そういうわけで、大神ファームには結構通っているため、年パスを持っている。

急に行きたくなるのである。

この日も、朝思い立って出てきた感じである。

ハウステンボスよりは近いが、我が家から日出町大神というところまでは、車で1時間近くかかる。よく考えたら、朝思い立って出てくるには少し遠い気もする。

しかし、無駄なフットワークの軽さ(歩くのは嫌い)で、「よし、行くぞ!」と娘を引き連れて威勢よく出て来たのである。

着いたら、特に何をするでもない。闊歩するだけである。園内はオシャンティーなものが多く、時々立ち止まって写真を撮ったりする。ただのベンチもなんかオシャンティー。

こんなオシャンティーなブランコは、未だかつて見たことがない。

そして、オシャンティーなカフェがあるのだが、我々はいつもそこには入らない。
友達と来た時には入ってランチするが、思い付きで来た日の昼飯にしては少しお高いのである。

しかし、ここのランチ、とってもオシャンティーで美味しい!かなりオススメである。

季節限定かと思うが、何年か前にこんなパフェを食べたことがある。

もはや芸術である。

そんなオシャンティーなカフェを横目に、外のベンチでパンを食す我々。
ごめんよ我が娘。うちは……

ーー富裕層ではないんだよ。

放浪癖があるので、浮遊層ではある。

コンビニで買ってきたパンさえオシャンティーに見える不思議。

こんなにオシャンティーを連呼したことは未だかつてない。

我々は、ベンチに座ってゆっくりとした時間を過ごした。

日頃せわしなく動きまわっているワンパクな娘も、空気を読んでくれているのか、おとなしくベンチに座っている。

本当に、ここだけ時がゆっくりと流れている。
私は、例のように詩織ちゃんを思い出していた。詩織ちゃんにこの風景の動画を送った。

よく一緒に見た風景である。

詩織ちゃんと出会って16年ほど経つが、その間に私は詩織ちゃんがとても努力家であることを目の当たりにしてきた。

この16年、自分の比じゃないほどに辛い思いもしてきている。

いつも適当にキリをつけて逃げてしまう自分とは違う。彼女の、絶対に逃げない姿勢を私はとてもリスペクトしている。


詩織ちゃんと愛犬ゴンとの楽しい思い出を回想しながらボヤーっとしてしまう。
ゴンは性格のいい犬で、私にも懐いてくれた。人様んちの犬であるが、ゴンが可愛くて仕方なかった。

ゴンは、残念ながら昨年旅立ってしまった。

でも、ゴンを忘れることはない。ゴンはいつでも詩織ちゃんとセットである。

多くの人にとって、「スローライフ」を実現することは難しいと思う。

私にとってもそうである。

しかし、たまにこうしてゆっくりと過去を振り返れる場所があることは私にとって重要なのである。

スローライフを数時間堪能した我々は、現実世界に戻るための車へ乗り込んだ。

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