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砕かれた夢

※注意:自殺と震災の話が出てきます

大学時代、学祭の仕事をしていたのは数日前に書いたとおりだ。大学祭の仕事は多岐にわたるため、組織的に動くことになる。組織名はそのままズバリ”大学祭実行委員会”だった。どこでもそうだろうけど。

実行委員会は有志の集まり。やりたい放題できる大学時代を”人様を楽しませるために”時間を消費しようというのだから、当然、変わり者の集まりになる。

ちょっと話が変わって大学一年の春。通学のため福島から仙台にでてきて、仙台のアパートで母と荷ほどきをしていたとき……

「アンタ、いい加減に青春らしいことしなさいよ?友達と出かけたり……彼女とか……」

といいながら、コンドームを手渡してきた。

「はい?」

平日も週末も延々とパソコンの前に座り続ける童貞陰キャ道をひた走る高校時代を過ごしたオレを見て、母は心配していたのだ。ウチは母子家庭で「男として得るべき知識を息子に享受する存在」がいなかったことを。

高校時代のオレは部屋に引きこもって映画の登場人物やゲームのキャラクター、そして音楽の歌詞に自分を投影し、それを父親の代わりにしたいのかもしれない。

それでも、コンドームを手渡すってなんだよ!と思ったけれど、母の精一杯だったのだろう。

「あ、うん……まあ、はい。」

彼女を作りたくないワケじゃなく、フラれてるんだよ。飯の食い過ぎで肥満児だったオレが、突然飯を食わなくって痩せて引きこもってたのはフラれて魂が死んだからなんだよ!

それでも

「オレはこのままでいいのか?」

と。もう一度、人とまとも触れあってみるのもいいんじゃないかと考えた。そこで他のサークルや大学と交流ができるであろう大学祭実行委員会に入会したのである。(コンドームを使ったかどうかはまた別の機会に)

そこには素晴らしい人たちがいた。嫌な人はいなかった。同じ氏家姓の同級生もいて、すぐ仲良くなれたし、真田と名乗る女の子は「氏家さんね、よろしくね!」と気軽に声をかけてくれた。(真田も氏家も色々エピソードがあるのだが、こちらも別の機会に)

あれ?心の壁ってそんなに厚くないんだなと。すぐ沢山の友人が出来た。中でも一つ上の先輩、若生さんの個性は強烈だった。彼の学祭の企画は斬新だったし、カラオケに行けば70年代、80年代の邦楽かビートルズしか歌わなかった。彼が3年生になり学祭実行委員長を務めた際、赤坂泰彦を呼んだときには学祭始まって以来の集客だった。

彼が卒業するときはエンタメ業界で働きたいと、就職活動はせず仙台を中心に活躍するローカルタレント、本間ちゃんこと本間秋彦さんのもとで下積みを始めた。

多くの人がそうだと思うけれど、大学を出てしまうと皆、地方に戻ったり上京したり、仕事が忙しかったりと連絡が一人また一人と途絶えていく。多分に漏れず、卒業後、若生さんとも連絡を取ることは無くなっていた。

二年後。オレも大学を卒業し、つまらない仕事をこなす中、居酒屋で若生さんを見かけた。彼の顔は明らかに疲れていた。仙台居残り組だったオレは

「やっぱり仙台に住んでれば会うもんですね」

と声をかけたけれど「ああ、そうだね」程度の返事しか返してくれなかった。”最近どうです?”なんて聞ける顔色じゃなかった。

その後、オレは同業転職を繰り返し上京。仕事の片手間でライターの仕事を細々と始めた。そして2012年1月、唯一連絡をとり続けていた大学時代の友人から一本のLINEが届く

「若生さんが死んだって」

え?なんで?最後にあったときは元気が無かったけど、もう15年も前の話。

「ベランダで首吊ってたって、2011年の12月24日」

理解できなかった。カラオケで『勝手にしやがれ』を振り付けで歌うような、ジョン・レノンを崇拝しているような人間が自死するか?

「とりあえず、学祭の連中、集めるだけ集めて顔合わせしないか?」

そこからはあっという間だった。LINEで実行委員会のメインだった連中と一気につながり、成功者----都内に1億の豪邸を構えている---後輩の家に集まった。若生さんの思い出話はもちろん、お互いの近況を話した。

みんな四十がらみになっても、根っこはかわらず、嬉しく思った。

「結局ね、本間ちゃんのところには長くはいなかったみたい。」

「TVやラジオは好きなだけではダメなんだよね」

若生さんは、理想と現実に耐えられなかったのか、それとも何は他の原因があったのかは分からない。震災鬱だったのかもしれない。

「オレたちさ、40越えたじゃん。人って死ぬんだよな。あのさ、若生みたいなことは、もう起こらないようしたいよ。悩んでるなら言えよ、勝手に死ぬなよ」

若生さんは何故、よりもよってクリスマス・イヴに逝ってしまったのか。イヴになると、どうしても「みんな生きてるよな?」と考えてしまう。面白い男だったのに、罪作りなやつだ。そんな彼は大嫌いな両親とともに創○○会の墓地に眠っている。

今、何かあれば、全員にLINEが飛ばせる状態になっている。定期的に集まることはないが、連絡が無いのは”生きている”事だと思っている。

※すべて実名。オレの友達は文句は言ってこないはず……。

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