[第8話] 百合ナース! 〜かわいいあの子〜 [サロン連載]
「みなみちゃん?」
時刻は、深夜十一時。消灯時間はとっくに過ぎてる。
なのに、隣の病棟に続く渡り廊下の窓際に、背の高い人影を見つけた。
ぼんやりと外を眺めていたらしいみなみちゃんの手にはスマートフォン。
私が来たのに気がつくと、それを隠すようにさりげなく後ろにまわした。
「またLINEしてたのね?」
「……すいません」
「眠れないの?」
みなみちゃんが困ったように頷く。
そうね、普段ならまず寝てる時間じゃないもんね。
身体が治ってきたから、高校生らしい生活サイクルを取り戻しつつあるのかもしれない。
「テレビ、見たら? イヤホン使えば、隣の部屋の人の迷惑にもならないし」
「うん……。優花さんって、理解あるよね」
「なあに、急に」
「レイナのことも怒んなかったし、とにかくはやく寝ろとかも言わないし」
「だって、こないだまでみなみちゃんくらいの歳だったもん。わかるよ」
なーんて、若さを強調してみたりして。
みなみちゃんが「そっか」と笑う。 気を許してくれてるような、やわらかな笑顔。
胸の奥に、じわりとあたたかな気持ちが広がった。
みなみちゃんが窓辺に手をついて夜空を見上げる。
「ここ、けっこう星が見えるね」
その横顔は、やっぱりすこし寂しそう。
昨日、あの子に会ったよ。
そう言いかけて、やめた。
みなみちゃんは、病院に閉じこめられてるみたいなものだもの。
偶然とはいえ、会いたくて会えない人に私が会ったと知ったら、 うらやましくて、ひどく悲しい気持ちになるかもしれない。
こんなふうに、思ったことをそのまま口に出さなくなったのはいつから?
それはやっぱり苦しい恋を知ってから。
なんてことない言葉に、切ないほど気持ちが乱されることを覚えてから。
みなみちゃんが言い出すまで、あの子のことを話すのはやめとこう。
このかわいい女の子は、たぶん生まれて初めての苦しい恋と、一生懸命戦っているところだから。
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