ヤコウタケ

きのこと私は友人なのか?

「……ちゃん、なめちゃん」

私を呼ぶ声でハッとする。思わずしゃがみこんでしまっていた。

「どうしたの大丈夫?」

「あ、いや違うの。ツチグリが、いて」

友人の頭に、はてなマークが浮かんでいる。

こういう時に魅力をさらっと伝えられたらいいのに。

「きのこ、なの。可愛いでしょ」

そう言うのが精一杯だった。

薄茶色でみかんを上から剥いたみたいな愛らしいフォルムをしたツチグリ氏を見つめる。

今日は漢方に使う植物を見る勉強会で「つくば植物園」に来たのに、ついついきのこを見つめてしまう自分に呆れる。

「え!? それきのこなの?」

友人は目の前の物体がきのこであるとは、にわかに信じられなさそうだった。

きのこ。身近なようで私たちはそんなに知らないなあと思う。

例えば、きのこの種類をどのぐらい知っているだろうか?

エリンギ、マイタケ、ブナシメジ〜から始まって

シイタケ、マツタケ、ナメコ、シメジ、エノキ、マッシュルーム

といった食用キノコがまず思いつくのではないかと思う。

他にはどうだろう。毒キノコがあるのは知っているけど名前まではわからないという感じだろうか。

私は数年前まではまさにその状態であったし、まさか、このみかんがきのこだとは思わないだろう。

「このツチグリってやつは、空気に水分が多いと開くんだよ! 多分さっきの雨の影響で開いているのかな」

「よく知ってるね。なめちゃんはきのこが好きなの? なめこだけに?」

「好きだと思う。なめこだからなのかな……?」

あれ、いつの間にこんなにきのこのことが好きになったんだろう……?

ふっと今までのことを思い返す。

ああ多分、初めはやっぱり「なめこ」ってあだ名で呼ばれ始めたことがきっかけ。

なめこと呼ばれ始めると、ことあるごとに安売りされるなめこや、なめこの味噌汁の写真が届く。きのこを食べると「共食いだねえ」と言われる。

多分、そんなことの蓄積だった。

いつのまにか他人事だとは思えなくなって来ていた。

いつでも誰かが今日こんなことしていたよ! って教えてくれる、好きな芸能人みたいに。

聞いてなくても「好きだったよね?」って教えてくれるこの感じ。

で、いつだったかきのこが身近に感じられて愛着が湧いてきて、じゃあきのこのこと調べてみよう! となった。

そこで衝撃的なことを知ったのだ。

「世界最大の生物は、きのこ!」

は????? え、きのこが世界最大?? 鯨よりも大きいきのこ?

種明かしをすると、きのこというのは実はあの地面から出ている部分が本体ではない。

実は地面に張り巡らされた菌糸という根っこみたいなのが本体であるらしい。

私たちが食べているあの部分は本体ではないのだ。

そして、世界最大のきのこは山一個丸ごと菌糸を張り巡らせているらしく、なんと東京ドーム684個分。

ビビッと雷で打たれたような衝撃を感じた。なんかとてつもなく大きそうだ。

あんな愛らしい見た目をしていて、その実そんなものを隠し持っていたなんて。ずるい。

その時、私はきのこのことを完全に好きになってしまった。

調べれば調べるほど、面白いことはたくさん出てくる。

実は光るきのこのメカニズムは解明されていなくて、たくさんの研究者が頑張っているとか。この幻想的な姿が人間にはわからない仕組みで動いていると思うとドキッとする。

成分はとても単純だと言われているのに、わからないことはたくさんある。

興味がどんどん湧いてしまった。

そして、今に至ると。

こんなことを壊れたレコードみたいに一気に喋ってしまった。

それで今ではきのこ検定を受けるべく勉強したり、夜寝る前に写真集を見て幸せな気持ちになって眠ったり、実際に公園に会いに行ったりしている。

あと、きのこ好きが高じて、きのこ好きなメンバーと一緒に謎解きゲームを企画したり。(https://note.mu/phi_nazo/n/n1bd038bd7d69)

「なんだか毎日きのこのことを考えている気がするよ」

最近の自分の日常はきのこでいっぱいだと、振り返って思った。

「そんなに嬉しそうに『毎日考えちゃうの!』って言っているとまるで恋人みたいだね」

ハッとした。すごくしっくり来たのだ。私はもしかするときのこに恋をしているのかも、と。

そのくらい夢中なのだ。

でも、恋人ではないかなあ。恋人だとしたら、とんだ人間たらしだ。

人間に興味ないですけど? みたいな顔しながら、どんどん魅力的な一面を出してくるんだから。

今は、クラスの人気者に片思いするポジションだと、信じたい。両思いになりたい。

でも、目の前にいる友人にも好きになってほしいと思う。

私ときのこの関係はまだまだ定まらないけど、そんなよくわからない関係というのも悪くない。


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