ボードウォーク・エンパイア 欲望の街:スティーヴ・ブシェミ インタビュー

ボードウォーク・エンパイア 欲望の街:スティーヴ・ブシェミ インタビュー

スティーヴ・ブシェミは禁酒法時代のアメリカを描いた「ボードウォーク・エンパイア 欲望の街」で主役を張る。

2011年1月28日


ブシェミは薬味。映画やテレビで大きな役を得たことはないが、彼がうまくキャスティングされれば全体が良くなる。性格俳優として完ぺき。「ビッグ・リボウスキ」のドニー、「ゴーストワールド」のシーモアは、青白い顔をした落ち着きのないアウトサイダーのイメージ。神経症の変質者を演じることもある。


しかし、狂騒の20年代を描く「ボードウォーク・エンパイア 欲望の街」のブシェミは違った。彼が演じるのは禁酒法時代にアトランティックシティを牛耳った政治家イーノック・"ナッキー"・トンプソン。ナッキーは政治家でありギャングでもある。酒を巡るアトランティックシティの不正取引の要。すべてを支配する男だ。つまりブシェミは大型ドラマで初めて主役を得た。


静かで内気な男にとってこれほどアピールしないものはない。「怖気づいた。この番組で演技をしたら? 友達が番組を見たら? … 通りを歩いていて気づかれなくてもよかったとしたら?」 


先週彼がゴールデングローブ主演男優賞を獲得し、「ボードウォーク・エンパイア」が作品賞を獲得する前でもそんなことはありそうになかった。すぐ彼とわかるブシェミの見た目 … 疲れたような目、緩い半笑い、後退した髪 … だけでなく、「ボードウォーク・エンパイア」はアメリカのテレビ番組でまだ誰も見ていない時に1年以上も話題になった。「ソプラノ」が終わって数年間穴が開いた後、ケーブルテレビ大手HBOが地位を挽回しようと大量の資金を注いだプロジェクトだ。実にアメリカ的な物語でもある。脚本は「ソプラノ」でエミー賞を受賞したテレンス・ウィンター。監督としての力量はマーティン・スコセッシに劣らない。ブシェミは注目されるのが好きではないかもしれないが、注目される機会は歓迎する。


「これまで本格的なキャラクタを演じる機会はなかった。たいてい途中で殺される。この作品では女ができる。しかも一人じゃない。現実はどうか? 普通は追いかけるだけでどうにもならない」。



ブシェミ(53歳)はブルックリン生まれ。今もニューヨークに住み、23年連れ添った妻ジョー・アンドレスと息子ルシアン(19歳)がいる。ブシェミはスタンドアップコメディーから始めた。当時はスティーブ・マーティンが神であり、アメリカ人のパフォーマーなら誰でもジョニー・カーソン・ショーに出たがった時代。「コメディアンとして発掘され、シットコムに出たかった。やりたいことはそれだけだった。でもスタンドアップは寂しくなることがある。他の俳優といっしょにやりたかった。仲間が欲しかった」。


彼は実験的な劇場に移り、思い付きで適当にパフォーマンスしていたところ、観客に混じっていたジム・ジャームッシュ、アレクサンダー・ロックウェルなどの監督の目に留まった。「彼らがぼくを見つけて映画にキャスティングした」。何でもないことのように言う。「レザボア・ドッグス」でブレイクし、インディーズ映画、 … 彼はコーエン兄弟を支持する … 「コン・エアー」「アルマゲドン」などの大作に出演し、監督、脚本家としてもキャリアを積んだ(1996年の映画「トゥリーズ・ラウンジ」では脚本、監督、主演を務めた)。


ブシェミが「ボードウォーク・エンパイア」にキャスティングされたきっかけは「ソプラノ」にある。この番組の第5シーズンで彼はレギュラーであり、ウィンターは脚本を担当していた。ウィンターがナッキーのキャスティングをする際、最初に声をかけたのがブシェミだった。


「脚本を読んだ時、ピンとくるものがあった。テリーから電話があり、“マーティーと僕(彼とスコセッシ)はこの役がいいと思ってる”と彼は言った。ぼくは“ほかの俳優を探してるのはわかる。ぼくの名前を候補に入れてくれて感謝してる …”と答えた。テリーは“そうじゃないんだスティーブ。君に引き受けてほしいんだよ”と言った。


ブシェミの人柄がわかる。欠点に見えるくらい遠慮がちだ。キャスティングが発表された時のあのつぶやきの理由も想像できる。ナッキー・トンプソンは実在の人物、ナッキー・ジョンソンがもとになっている。彼は、悲劇のヒーローとしてのギャングというアメリカ的なイメージにふさわしく、カリスマであり、贅沢な暮らしをし、襟元にはいつもカーネーションを付けていた。伝えられるところによれば、ブシェミに似ていなくもない。ブシェミは細身で猫背だが、ナッキーは力のある大男だった。図体の大きいギャングのボスを考えるなら、頭に浮かぶ名前がある … トニー・ソプラノを演じたジミー・ガンドルフィーニだ。


しかし、ボードウォークをほんの少し見れば、ウィンターがなぜブシェミを選んだかわかる。冒頭のシーンで彼は女性の禁酒同盟を相手に劣悪なアルコールについて語り、次のシーンで彼は車を待ち、フラスコ瓶の酒をあおる。ナッキーは多次元的。ある時は優しく、ある時は残忍。ブシェミはある方向へ行くか別の方向へ行くか、選択の余地を残す。


「この男が禁酒同盟に話をする最初のページを読んで“大したキャラクタ”だということがわかった。この役のためなら何でもすると思った。だから何年も続いてほしい」。


すでに第2シリーズの放送が決まっている。








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