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無料公開中の作品

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まだ電子書籍にしていない(もしくはもうしてある)作品のなかから、短編くらいの長さで試し読み用に無料公開中の作品
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最新作「僕の靴と未来」公開

独立出版レーベル人格OverDriveさんのサイトにて、最近短編「僕の靴と未来」が公開されました。 https://ezdog.press/novel/the-circus-of-albertepla 現時点の代表作です。4000字なのでみんな読んでおくれよね。 20230423追記:連載第一回と書いてるけど続き物じゃなくて短編集的なものです。

暴力はすべてを破壊する。

ネコと和解せよ

 吐き戻しが多いのは昔からだった。食欲が落ちていたのも、ああ今年も夏バテかなんて気にもしなかった。こちらが撫でようとしても軟体動物みたいにぐにゃりとよけ、出社前の忙しいときや疲れて動けないときに限って「撫でなさいヨォ」と脛や肘に顔をこすりつけてくるのもいつも通りだったのだ。  異変を認識できたのはめずらしく私とネコの、撫でたい/撫でられたいのタイミングが合ったからだ。指先にはっきりと背骨と腰骨の感触があった。持ち上げてみると異様に軽い。 「おまえ、もしかして病気なのか」  ネ

光を飼う

 ビルの前の水溜りがあるのを見つけた。薄いゼリーのような、どこか柔らかさを感じる水面。映った朝の光があまりにも綺麗で、わたしはそれを家に連れて帰りたいと思った。考える時間はなく、ビルに入っているお惣菜屋のアルバイトが終わってもまだ光がそこにいたら連れて帰ろうとだけ決め従業員入口に向かった。  お昼休みにどうしても気になり、わざわざ制服から着替えて水溜りを見に行くと光はまだそこにあった。従業員割引で買ったおかかおにぎりとカニカマ天を頬張りながら、誰にも気に留められることのない

サラダ忌

 世界最高峰の研究チームにより、人類が最初に発した言葉は「この味がいいねと君が言ったから7月6日はサラダ記念日」だと解明された。  あまりに予言的であり、短歌も、サラダも、暦という概念も存在しなかった時代になぜこの言葉が生まれたのか。そこには何かしらの重大なるタイムパラドクスが発生しているのだろうと考えた研究者達の進言によって、その言葉は全世界的に禁忌とされ多くの国ではその言葉を発することは大罪とされた。  そうして長い年月を経て、研究者達の努力によりその約31音からなる

知る人

 生徒宅、もしくは各自治体が指定した施設で行われるオルタースクールでのオンライン授業の環境がようやく世界的に整備されたといえるタイミングで、正式に世界の共通言語がクリンゴン語に決定した。人口の激減によるアメリカの没落。イギリスの事実上の消滅。英語以外を母国語とする多くの国からの反発。理由は様々だが、最終的にはその時点で一番大きな力が働いたのだろう。これにより、ほぼすべての生徒がそれまで目にしたことのなかった人工言語を新たに学びながら学校に接続することとなった。  学校という

天使のマーチャン・ダイジング

*この作品はブンゲイファイトクラブ2回戦用に書きかけていたものを、非公式タイセンE用に仕上げアップしたものです。 *この作品の世界は、2019年12月15日Kindleにて発売予定の新作中編『天国崩壊』に連なるものです。

来たときよりも美しく(期間限定公開)

以下の小説はノージャンル文芸アンソロジー『BRuTiFuL』に収録されているものです。 期間限定で公開中。 来たときよりも美しく  僕たちの遊びは誰にも知られてはいけない。それが、僕たちの遊びの唯一のルールだった。例外はない。クラスメイトはもちろん、家族にも、友達と呼ばれる存在にだって、その遊びのことを教えたり自慢したりすることはなかった。  それをする日は、僕たちのうちの誰かが決めるわけじゃない。誰かが決めるといつかこの遊びはその誰かのものになってしまう。学校で教え