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田んぼに足を浸して考えたこと

先週、秋田に稲刈りに行った。

「ファームガーデンたそがれ」という農園には、シェア田んぼという、田んぼを区画で分けて共同保有できる仕組みがある。大学でお世話になった先生がこの一区画を保有しており、田植えや稲刈りの時期になると声をかけてもらえるのだ。そういうわけで、東京もんが、毎度ちょっとした農家気分を味わせてもらっている。

この田んぼに行くときは、だいたい神楽坂にあるシェアハウス「カグラボ」のコミュニティの面々で参加する。4年ほど前に神楽坂で立ち上がって、これまで延べ30人くらいが住んでるシェアハウスだ。僕も最初の1年間住んでいた。今でも行けばいつもなんとなく人が集まっていて、広いリビングにある大きな円卓を皆で囲んで、誰かしらが作ってくれた飯を喰う。

先週の稲刈りも、このカグラボの仲間たちで。
この日は早朝の新幹線に乗って秋田に向かうはずだったのだけど、ちょっとゆっくりしていたら予定の便を逃してしまった。1時間遅れで現地に到着すると、すでに皆は現地の農家さんたちと一緒に仕事前の腹ごしらえの準備をしていた。遅れてやってきた僕は、黒豚と「BLAPI」の文字が印刷されたBLAPI Tシャツをいじられながら、準備ができた食事の席に迎え入れられた。

彼らといると、全く気を使わないのがいいところだ。皆が誰に気をつかうでもなく協調し、自然に過ごしている。

作業中もそう。誰にも何にも気をつかわないけど、各々が勝手に働いたり、サボったり、遊んだりしている。

田んぼにいたザリガニを拾い上げて「エビいた!伊勢海老だ!」と叫んだり、ことあるごとに「イイネ!」と叫びあったり(稲にかけてる)、用もないのに人の名前を呼んで「呼んだだけ〜残念でした〜。」とか言い合ったり、笑いが絶えない。

改めて文字にすると、1ミリも面白くないことばっかりだけど、稲刈りしている最中は、終始ゲラゲラと笑いあっているから不思議だ。

なんだか家族みたいだなと思う。

ふとみんなを眺めていると、そういう気持ちが湧いてくるのだ。家族の定義は血が繋がっていることだけど、この人たちに家族のような気持ちを抱くのはなんでなんだろう。同じ釜の飯を食い続けると、そうなるのだろうか。部屋4つの家に10人で住むと、そうなるのだろうか。

ここにいると、家族といるような繋がりあいを感じられて、安心感がある。家にいるときと同じように、誰にも気をつかわずに好き勝手していられる。

それから、皆といる時はいつも、主語が「俺たち」になっている感じがする。俺たちの田んぼ。俺たちの飯。俺たちの旅。俺たちの思い出。


先生が田んぼを手に入れて、皆で秋田に行くようになってから、もう6年が経つのだという。

毎年この田植えと稲刈りを誰よりも楽しみにして、いつも中心になって皆を先導していた男がいる。そいつは、去年の10月、稲刈りに向かう道中、交通事故にあって急に死んでしまった。

ぬかるんだ田んぼに足を踏み入れると、あいつがここに足を浸して、手を浸して、ゲラゲラ笑いながら稲を植えている姿が浮かんでくる。

田んぼで作業していると、こんなことを思う。

あいつもここに足を浸して作業をしていたのだから、きっとあいつの足のカスや爪の垢なんかがこの泥に混ざり込んでいるのだろう。その泥の中から、栄養を吸って、稲が育ってるってことだ。

とすると、あいつのDNAが稲に溶け込んでいるんじゃないか。それを収穫して食べれるって、ちょっと嬉しくなる。

あいつの命が繋がっていくかんじがして、嬉しくなる。

田んぼはいつ行ったって変わらず同じ場所にある。同じ泥がそこにある。

刈り終わった稲の根は、そのまま田んぼに残され、次の年の稲の栄養となっていく。収穫してそれで終わりじゃなくて、切れ目なく、そのまま次へと続いていく。
あいつが田んぼにいた証も、形は見えなくとも確かにそこにあって、それがまた未来を創っていく。そんな気がする。


ふと顔を上げ、視界を広げてみれば、なにも田んぼだけじゃないことに気付く。実はいたるところに、現在進行系であいつがいるように思えてくる。

何よりそうだ。この、家族のような仲間を作ってくれたじゃないか。
彼がいなければ生まれなかったであろうこの家族のようなコミュニティは、今も変わらず、彼なしでは成立しない。
そう考えると、今も変わらず、この家族の中心にあいつが「ビッグダディ」のように鎮座しているような気がしてくる。

一緒に遊んだり喋ったりできないのは寂しいけれど、こうして目の前でゲラゲラ笑っている皆の存在が、何よりあいつを近くに感じさせてくれる。そう思うと、ちょっと寂しくなくなる。


明日で大石が死んでちょうど一年。

今日もこの世界に大石はいないけど、想えばどこでも大石が現れてくれる。そんな気がしている。

photo by daikichi mori


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