見出し画像

文楽祭 国立劇場 令和5年9月25日

年を越してだいぶ時間が経ってしまいましたが、記録を残します!

大千穐楽翌日に、同じく国立劇場にて、『文楽祭』というファンイベントが開催されました。

チケットが数分で売り切れたという激しい争奪戦。後方席を確保することができました。一生分の運を使い果たしたかもしれませんが、まったく悔いはありません…!

11,12月にNHKの「芸能きわみ堂」にて紹介されましたので、記憶をたどりながら、萌えたところ、刺さったところを細かく書いていきますー!

大千穐楽の翌日です


文楽座主催なので、技芸員さん手作りのイベント


チケットをもぎりして頂いた直後からロビーにて技芸員さんがお出迎え。文楽名鑑とパンフレットは清公さんから手渡し頂きました。

中堅若手のみならず幹部ベテラン勢もロビーにいらしてファンの方と歓談したり、文楽名鑑にサインをしたり。勘十郎さんのサインで長蛇の列が出来てました。ご出演の前に腱鞘炎になるのでは?と心配になるくらい。

グッズ販売はトートバッグとクリアファイル2種。私は文楽座座員の記念写真の見開きクリアファイルを購入しました。販売も技芸員さんが。簑太郎さん、清丈さん、そして私は三輪太夫さんに接客いただきました。

文楽座の皆さんの記念写真のA3折りたたみ式クリアファイル、真夏に撮影だったそう

緞帳に照明でイベントロゴが映されてるスペシャル版で、NHKのカメラも入り、興奮が高まりました。


今更ですが、小劇場の演出、こういうのも出来るのですね。


「菅原伝授手習鑑」「車曳の段」


まずは、「菅原伝授手習鑑」の「車曳の段」。当代最高峰の演者の配役。

松王丸 豊竹呂太夫
梅王丸 竹本錣太夫
桜丸 豊竹藤太夫
杉王丸 豊竹呂勢太夫
時平 竹本織太夫
三味線 鶴澤清介

梅王丸 吉田玉男
桜丸 吉田和生
杉王丸 桐竹勘壽
時平 吉田玉也
松王丸 桐竹勘十郎

すごい豪華。これは二度とみられない配役です・・・。「わぁ、和生師の桜丸、珍しい・・」とか「織太夫さんの時平、笑い芸がすごかった・・・」とか、存分に楽しんだわけですが・・・。これが、後半の天地会のおかげで(せいで)、すっかり霞んでしまうという珍展開になります・・・。

座談会

咲太夫師がご登壇されて会場が湧きたちました。車椅子でしたが、お元気そう。なんとスペシャルな座談会でしょうか。咲太夫師が車いすでご参加の背景を「(女殺油地獄を引用して)油で滑った」などとおっしゃり変わらず軽妙なトークで嬉しかったです。(「文楽名鑑」でも、人形遣いに必要なものは「お金!(いがみの権太)」と書いてましたね(笑))

登壇者は、エッセイストの山川静夫さん、清治師、團七師、和生師、勘十郎師、玉男師。山川さん、咲太夫さん、清治さん、團七さんの会話は「同年代」って感じ。一気に昭和の文楽座再現という感じで、なんと和生師、勘十郎師、玉男師が若手に見えるというイルージョンが繰り広げられました。

そして、簑助師からのお手紙代読。これはグッときました。簑助師からのお客様への感謝の言葉、文楽座の将来に対する思いなど、心を打つお手紙でウルっと来ました。そして、初代国立劇場閉場後を「令和の大巡業」という名コピーで銘打っていて、最高峰のパフォーマーは文才もあるんだな、と。さすが、本物のレジェンドですね。

さらに玉男師が女形を遣うという見どころも!玉男師は以前の座談会で和生師や勘十郎師から「女形つかって(笑)」といじられる姿を見ていたので、「ええ!本当にやるの?」と嬉しい驚き。左遣いが勘十郎師、足遣いが和生師という当代人間国宝二名を率いて艶姿女舞衣のお園を遣うという。「すごい!!」・・・と沸き立つ間にあっという間に終了してしまい、ちょっと残念。もう少し長く見たかったなぁ。こういう場面で照れてすぐ終わってしまうところが玉男師らしいというか・・・(笑)

これだけでも「文楽祭を見られて良かった・・・」と思うレベルなのですが、やはりこの後の天地会のおかげで、このコーナーも霞んでしまうという珍展開が訪れます・・・。

「菅原伝授手習鑑」「寺子屋の段」

チケット争奪戦に勝ち残った猛者全員が「これを見に来ました!」という『天地会』。普段の専門分野とは違う役割を担当するお祭です。あとから振り返っても、この配役を考えた方すごい!この人数を配役するだけでも大変なのに、「この人がこれやったら面白いはず」というのをちゃんと考えて配役してますよね?

出演者が多すぎて転記できないので、写真を載せます。

太夫の人数がとんでもないことに…


人形も主要なお役はダブルキャスト(?)

初めから勘十郎師が派手派手な肩衣お召しになり床に登場。普段出てこない床の横の扉から出てきただけでワクワク感がスゴイ。人間国宝のたどたどしい演奏を全観客で見守りました。本当はもっと弾けるんじゃないか、と思いましたが、途中でため息ついたりしてツカミがばっちり。すでに観客は笑いどおし。さすがです。

太夫陣は、複数人が横に並び役ごとに語ります。心得のある三味線陣がメインパート。ある程度まともに語れる方がリードしないと、どうにもならないんだな、ということを後で悟りました(笑)。滑り出しは、勝平さん宗助さんがリードし、勘次郎さん一輔さんは、一言二言のセリフで笑いをとって引っ込む、という感じでした。頑張る系の大声で笑いをとってガッツポーズの勘次郎さん、女形の役ですっとんきょうな声を出して爆笑を誘った一輔さん。お茶目さ全開で、「一輔さんこれで女性ファンを数十人増やしたのでは?」と確信しました。

見栄を切りながら語って笑いをとった玉也さん、2回目出てきたときには「宿に戻ってプレミアムモルツ!(サントリー社協賛)」ってアドリブも出てきて、サービス精神旺盛ですっかりファンになりました。

人形遣いさんのキャラいろいろで、出オチさながら一言大声でかまして去っていく方あり、照れながら大汗かきながら真面目にやる方あり、目立たないように役目だけ終えてそそくさと去っていく方あり…とにかく凸凹太夫が代わる代わる出てきて笑いをとっておりました。特に文司さん。現代語風棒読みの浄瑠璃を始めて聞きましたが、受け狙いでやってる?と思いつつ次第に本気でやっているというのが判明していくところがまたおかしく。これ配役した方は狙ってますよね?と思ったりしました(笑)

一方で、そんな頼りない凸凹太夫の競演をビシッと締めていたのが三味線の皆様。浄瑠璃うまい方多いですよねぇ。三味線が太夫を育てるという伝統もあるのも納得。特に、宗助さん藤蔵さんあたりは、へっぽこ太夫と三味線をうまくいじりつつ上手さを披露されてました。「ここで一撥!」というキメの瞬間に無音・・みたいな時に「?」と突っ込んだり、自分で「テーン」と言ったりして、笑いをとってました。
今回の天地会は三味線陣のおかげで、演目としてまとまったという感じでした。宗助さん藤蔵さんに加えて、清介さん清志郎さんもお上手。そしてなりより、燕三さん!とっても気持ちよさそうに小劇場隅々まで響き渡るように語っておられて。ご本人も最高に楽しんでおられたのではないでしょうか。

あまりに床が見どころがありすぎて、人形を見る余裕が無かったのですが、気になったところを。

  • ツメ人形を嬉しそうに持って出てくる富助さん可愛い(ずっと楽しそうでずっと可愛い)

  • 咲寿さんの手習子が登場、嬉しそうにジャンプして出てきてこっちも可愛い

  • 津國太夫さんの玄蕃。どういうわけか、かしらが明後日の方向向いちゃってるので、致し方なく直した左遣いの玉翔さんが面白かった

  • 小道具まで気が回らないせいか、話の中心になる首桶があっちゃこっちゃいって、首桶で爆笑が湧く謎展開

  • 源蔵の藤太夫さんが地味にうまかった

  • ツメ人形持って脇で控えている三味線太夫陣、舞台中央のドタバタを観客気分でわちゃわちゃ見物してて楽しそう

  • 松王丸織太夫さんの左遣いに入っていた玉志さん、本当に大変そうに汗汗してて、お疲れさまでした。頭巾なし眼鏡の黒子姿が珍しい。

  • 錣太夫さんの千代の左遣の和生師、呂太夫さん松王丸の左遣いの玉男師が激レア。左遣いが人間国宝だと何とかまとまるという発見あり

普段からSNSで発信したり本業以外もいろいろ取り組んでる織太夫さん藤太夫さん咲寿さんは、器用で勘がよいのでしょうね、人形もお上手でさすがでした!

普段は大変そうに見えない左遣いがめっちゃ肉体労働感があったのが面白く。左遣いさんはさりげなく胴を支えて主遣いの重さを軽減してるのも萌えポイントでした。普段から人形遣いさんって重いものが持てる力持ちの肉体派パフォーマーと思ってましたが、ただ人形が立ってるだけでも簡単じゃないのがよくわかりました。そして主遣いがちゃんとしているから左遣いが余裕に見えるというのが良く分かりました。それにしても、いつも重要なお役の主遣いをされるベテラン勢が左遣いだと安心しますね・・・。

そして、頭巾被っていない大量の若手の皆さんが手摺の中でうごめいていて、「何かあったら自分がアシストする!」っていう緊張感で見守っているのが、とっても心強かったです。とはいえ、頭巾被らないと、大量の顔により舞台の情報量が多すぎて頭巾の有用性も確認しました(笑)

最後の松王丸と千代の見せ場。呂太夫さん重そうで大丈夫かなと思いつつ、左遣いが玉男師で優しそうな顔でサポートしてて安心感が半端なかったです。一方、最後の決めポーズで後ろ向く千代の方は、途中から危うくなってきたので勘介さんがサポートしてました。重そうな動物をやりこんでるだけあってこちらも安心感ごすごかったです。

そして・・・。文楽祭のMVPは何と言っても呂勢太夫さん。寺子屋後半は悲劇展開なので三味線がたどたどしいとまとまらない。終盤はずーっと呂勢太夫さんでしたが、とにかくうまい!初めて文楽を見たら本職の方と間違えるレベル(当初は三味線も修行されていたとか・・)。糸の張替えとかもしっかりこなしておられて・・・。一方で、最後に出てきた清志郎さんが、隣で譜面をめくってあげたり気配りしていたのが優しいなぁと思いました。

総じて、床の人形遣いさんは「配役されたので致し方無いので精一杯頑張ります(汗」「それっぽくするために一番豪華な肩衣引っ張り出して来ました」って感じで微笑ましく、一方で太夫をかたる三味線陣は「待ってました、ワシらの出番」って感じで語りを披露された印象。一方で、ツメ人形もって出て来た床の皆さん「人形持てるの嬉しい!」「ツメ人形やってみたかったー!」って感じだし、三人遣いの皆さんは「重くてちゃんとできるか心配ドキドキ」「舞台下駄で転ばないか心配で小道具まで気が回らない」という緊張の面持ち。とはいえ、定位置が主役級主遣いの人形遣いさんが、左遣いとして小声で動きを指示してて頼もしい。

通常、人形遣いさんは無言で無表情なので、普段見られない表情だらけで見るところがたくさんありすぎました。

最後に…。制作を担当された寛太郎さん。こんなに大変なイベントを采配されてさぞかし大変なご苦労があったことと思います。当日も受付近辺で細々と対応されてましたね。NHK芸能きわみ堂でしっかりインタビューが放映されてて良かったなあと。

ファンのために素晴らしいイベントを開催してくださり感謝感謝です!

終演後はロビーにて、呂太夫師を中心に「ブラボー」で盛り上げ、技芸員さんのお見送りと共に終幕でした。

頭巾なし黒衣姿の玉男師の珍しさよ
藤太夫さんポーズありがとうございます

全てにおいて、ファンのための感謝イベントという心が篭っていて最高の時間を過ごしました!閉場の喪失感を補って余りある楽しさで、ホントに有り難かったです。

芸能きわみ堂で2回ダイジェスト放映がありましたが、全編放映も切に切にお願いします!

後になるとこういうのが沁みる

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?